前回、ヒカリがエウロパを訪れた時は、エウロパの低周回軌道に家族でやってきた。
対して今回は探査ミッションのチームと、エウロパの氷上までやってきた。
カリストとエウロパはやや似ている衛星だが、ヒカリはエウロパの方が地形の起伏は激しいように感じた。
単に、普段生活しているアザニア基地が平らな場所を選んで建造されているからかもしれない。
上空を見上げると、先日、レースが開催されたばかりのエウロパ・ゴールドシュミットサーキットが見えている気がする。
とはいえ、今いる場所はエウロパへの着陸船からエウロパ調査基地にのびた渡り廊下のような場所で、その廊下は透明なダウンジャケットのようなチューブによって外界から遮断されている。
そのバルーンの蛇腹状の隔膜が見上げる視界をやや悪くしているのだ。
その上、まだヘルメットを着けている。
「あっちに小さく見えてるの、ゴールドシュミットサーキットですよ。」
ヒカリが立ち止まって見上げているのに気づいた基地の人間が教えてくれた。
「やっぱりそうですよね?」
ヒカリは声をかけられて、自分が立ち止まっていることに気づいた。
そして、進行の妨げになっている気がして再び歩きはじめる。
「ヒカリさん、テストパイロットとしてあそこを飛んでるんですよね?」
「ああ……まあそうです」
ヒカリは、自分がテストパイロットをさせられたせいで少なからずエウロパの内部海調査に遅れが出たのではないかと考えていたため、少し気まずい表情をしている。
そうやって話すうちに、チューブ状の渡り廊下の終点、エウロパ調査基地へたどり着いた。
基地に入る手前にエアシャワー室があり、そこで入念にスペーススーツ表面についたホコリを吹き飛ばす。
さらにエアロックに併設されたシャワー室で全身を入念に洗い、クリーンウェアに着替えて、やっと基地内に入ることができた。
カリストもないわけではないが、エウロパの表面は結構な量の塩が積もっていて、それが持ち込まれると様々な調査や研究を邪魔するのだそうだ。
また、エウロパで研究しているのはエウロパに生物が存在するかどうか?また、現在や過去にいたとしたらどんな生物か?といった内容なので、地球生まれの人類が持ち込んだ微生物をエウロパの生物と間違えるのも困る。
そして、地球から持ち込んだ微生物などが万が一、エウロパで大繁殖しても困る。
その辺りの知識は事前に研修を受けて、アザニア基地で訓練も受けた。
「すでにヒカリさんもご存じかと思いますが、エウロパに生物がいる確率は99%を超えています。これはエウロパの氷火山噴出物の分析からも明らかです。」
ヒカリは頷いた。
氷火山とは文字通り、氷でできた火山だ。
しかし、吹き出すのは火ではなく水だ。
大気が無く、引力の小さいエウロパでは、その水はかなり高く吹き上がる。
低周回軌道のチームはその水を宇宙空間で採取して、分析している。
その水(採取されるときには氷だが)の中には生物の痕跡と見られるモノが含まれているのだ。
ところがエウロパ表面の氷を削って調査しても、そうした痕跡らしきものはさほど見当たらない。
表層の氷火山の噴出物が堆積していると思われる部分からは見つかっても、その下のしっかりとした氷からは痕跡があまり見つからない。
エウロパの研究チームは氷の大地のプレートテクニクス、古生物、隕石のような宇宙飛来物など様々な専門家が集まっているが内部海を調査するのは彼らが長年ため込んできた疑問や鬱憤を一気に吹き飛ばすサンプルをもたらすと研究チームは信じている。
ヒカリは今後の一通りの計画の確認をさせられると、基地の人間に案内されて居住区へ連れていかれた。
クリーンウェアを脱いで、割り当てられた2段ベッドの上の階でくつろぐ。
ゾックの遠隔操縦の為のマニュアルを少し読んでいる内に、ヒカリはいつの間にか眠っていた。