エウロパ内部海探査は、まず、氷床にゾックがすっぽり収まれる穴を掘るところからはじまる。
そしてそこに、ゾックが逆立ちした状態で入る。
今回、ゾックの両腕はクローから、氷の縦穴の内壁に内側から食いついて上下に移動できる特殊なアタッチメントに交換されているので、両腕で突っ張れる深さになれば、そこから先は頭部メガ粒子砲で氷を注意深く掘って進むだけだ。
さて氷床の表面温度は研究者たちによる実測でマイナス170℃近辺で安定していると結果が出ている。
どれぐらい掘り進むと氷の温度がどれぐらいになるのかについても、事前のボーリング調査である程度の深さまで判明している。
正直、深さ30kmをそのままボーリングでぶち抜けば良いが、そうはいかない事情があった。
ここから問題になるのはボーリングという方式の限界だった。
氷床のボーリング調査をするために使用するのはドリルではなく熱だ。
先端が発熱する管を送り出して掘削するのだが、その管全体がマイナス170℃近くある氷床に冷やされるため、ある程度以上の深さに達すると、熱をうまく送り出せなくなるのだ。
その点でゾックは、ゾックそのものが高出力の熱源を持っている。
熱を運搬する事を考える必要がない。
ただし、ゾックを使ったからとて、氷床の低温が問題にならないわけではない。
メガ粒子砲で氷を蒸発させながら進むことになるが、問題はその蒸発した水蒸気が再び氷壁に張り付いて新しい氷の層を作ったり、雪になって降ってくる現象だ。
シミュレートは何度も試みているが、やってみない事には分からないと調査チームは言っている。
「とりあえず、一定の深さになると氷ないし水を地表に運び出す必要があるという事は分かっているんですが、どれぐらいの高さから必要になるかが見当がつかなくて……」
ヒカリはそう話す研究者の声に真剣に耳を傾ける。
エウロパは低引力で大気はほぼなく真空と言っても差し支えない為、発生した水蒸気は水蒸気になった時の粒子の飛散速度に応じて飛んでいき、掘った穴から脱出する。
ただし、いくらエウロパの引力が小さいとはいえ飛んだ粒子はエウロパの引力にひかれて再び戻ってくる。
メガ粒子砲の挙動は比較的容易に予測できても、メガ粒子砲が加熱した水蒸気の挙動は予測できない。
事前実験では、120℃程度で加熱して水蒸気になった水分は、穴の深さが穴の径の5倍ぐらいになったところからほぼ全量戻ってきたらしい。
「何度か実験を繰り返した結果……と言いたいところなんですが、なにぶん、そこの部分の研究にあまり時間を割いていなくて……」
申し訳なさそうにしている研究者の一団に、ヒカリは
「まあ、出たとこ勝負でやってみましょう。」
と、あえて安請け合いした。
とりあえず、氷床をメガ粒子砲のような熱源で掘り進む場合、水を外に運び出す機構が無くても掘り進むことができる深さには限度があって、その限度には穴の径と、穴の深さがともに関わっているという事が分かっただけでも、ヒカリには十分すぎるほど難解だった。