カリストへ帰る船を待ちながら、ヒカリは「ずいぶん活気が出たな」と思った。
レースが盛り上がったおかげか、木星圏の人間の移動が活発になったのだろう。
以前は貨物を運ぶ船などにどうにかお願いして載せてもらって目的地へ……のようなことが常態化していたが、エウロパ~カリストも定期便を乗り継げば難なく移動できるようだ。
とはいえ、エウロパの地表に降りるのは特別な任務の人間だけなので、その際は物資を運ぶ貨物船に便乗した。
だとしてもエウロパの低軌道からカリストの低軌道まではオールドワンにほど近いハブステーションを経由するだけで簡単に移動できた。
低軌道からはまた別のHLVが定期運航している。
「ただいま。」
ヒカリはカリストのアザニア基地に帰りつくと、特に手続きもないため自宅に直行した。
出迎える者はいない。
ミライは学校、クロエは仕事だろう。
学校は厳密には6歳から小学校なので現在5歳のミライが通っているのは保育園になる。
しかし、その保育園も学校の隣にあるので、だいたいひっくるめて「学校」と呼ばれることになる。
手荷物を片付けたり、洗濯を始めたりしているとクロエがミライの手を引いて帰ってきた。
「パパ!ミーちゃん、重力訓練うまくできたって褒められた……でヤンス!!」
ミライがヒカリにとびかかってくる。
地球生まれで、ジュピトリスの1G環境でも2年ほど過ごしたミライは人口重力には慣れている。
「えらい!!」
ミライは家に帰ってもまた父のヒカリに褒められたのでご満悦だ。
一瞬で父親への関心を失い、家の中を跳ね回るミライを適当に相手しながら、ヒカリはエウロパの状況をざっくりとクロエに説明した。
「基地で待機が自宅待機に変わったってことでしょ?」
「そういうこと。そういう言い方もあるか。」
実はヒカリは今回、エウロパにゾックを置いてきた。
移動が身軽なのは喜ばしいけれども、なんだか妙にそわそわする。
「ヒカリ、なんでそわそわしてるの?」
ヒカリ同様、クロエも心を詳細に読むのは得意ではない。
「ゾック置いてきたんだけど、ないとちょっと不安になるね。」
「……それは、確かにソワソワするわ。」
ヒカリはてっきり笑われるかと思ったが、意外にも理解された。
クロエはそんなヒカリの気持ちを読み取って、
「あれだけゾックにヒカリの命を救われたんだから、私だってちょっとソワソワするって。」
と念を押すように言った。
ヒカリとクロエの二人が妙な感情を交錯させているところをさらに読み取ったミライが走ってきた。
「ミーちゃんもお話しする!するでヤンス!!」
ミライは感情を読み取るが語彙も経験も少ないので「読めるだけ」で理解できない。
複雑な気持ちみたいなものを理解できるまで説明するように求めてくることがある。
結局、父と母の一連の会話の内容をミライに理解できるように話すために、ヒカリは相当な時間を費やすことになった。