「おーリシュモンじゃないか!こっちに帰ってきてたのか!」
実験施設に入るや否やリシュモンを呼ぶ声が聞こえた。
ヒカリもそちらを振り返る。
作業服に腕まくりをした女性が近づいてきた。
「ヒカリ、こちらがこの試験場の主、オズモンドさんだ」
リシュモンが紹介したのでヒカリは頭を下げた。
「ヒカリ・フリースと言います!お邪魔しています!」
オズモンドはにこやかに挨拶を返した。
「ジョー・オズモンド、一応ここの所長だよ!全然お邪魔じゃないけど、ここはとても広いんだ。迷子にならないようにだけ気を付けて!」
そういって大股に立ち去るように見えたが、オズモンドは立ち止った。
「別に急いでないんだった。ちょうどいい、フリース君、この試験場を案内してあげようかね?」
「いいんですか!?」
ヒカリはちらりとリシュモンを見ると、リシュモンは構わないようだ。
ヒカリがオズモンドに向き直って「よろしくお願いします!」と言うと、オズモンドは「ついておいで!」と大股に歩きだす。
「この試験場の目的は大きく二つ。一つは木星圏でモビルスーツや作業機械を扱う人間向けの教習所としての役割だ。地球圏とは勝手が違うこともあるからね。もう一つは実験機の試験運用だね。リシュモンが連れてきたってことはフリース君は地球圏から来たのだと思うけど、例えば君が乗ってきたジュピトリス級輸送艦にはモビルスーツが作れる工場があったよな?」
「ありました」
オズモンドは通路のロッカーを開けるとスペーススーツを物色した。
「フリース君はそこそこ背があるから、大人の小さめのスーツがもう着れるだろう。これ着て」
ヒカリは言われるままにスペーススーツを着始めた。
リシュモンは言われなくても適当なスペーススーツを着始めている。
オズモンドは腕まくりした作業服を脱ぎ捨ててタンクトップになると、その上からスーツを着始めた。
「そうそう、木星圏で使用するモビルスーツは基本的に停泊しているジュピトリス級で作ったりするんだけど、ジュピトリス級では重力化や大気下、水中の試験はできないから、そういう試験をする場合はだいたいここに持ってくるんだ。」
オズモンドはしゃべりながら、謎のスノーモービルの化け物のような乗り物に乗り込んだ。
「ヘルメットはかぶらなくていい。でももし、こいつが事故ったら必要になるから、必ず近くに持っておいて。ちょうど外で動いてるモビルスーツがあるからバギーで見に行こう。」
バギーと呼ばれるその乗り物はすいすい走ると、すぐに建物から屋外へ出た。
大気の薄いカリストには空はない。
太陽は見えているが地球圏に比べると日照は20分の1程度の強さしか感じられず、地球でいうところの夕暮れ時ぐらいのうすぼんやりとした明るさだ。
目の前をモビルスーツが走っているがバギーの中はとても静かだった。
大気がないのだ、無理もない。
かわりに地面から振動は伝わっている。
「今走っているのはMSM04型のアッガイってやつだ。とはいえコッチで勝手に作った模造品だけどね。地球圏で作られたモビルスーツは特殊なものではない限り、図面が手に入ればこっちでも試しに作ってみるのさ。」
「なんでですか?」
ヒカリの問いにオズモンドは
「木星圏での利用価値があるかどうか判断するんだよ。ちなみにあのアッガイってやつはこっちでは今のところ使い道がなさそうだね。」
「どうしてですか?」
オズモンドは少し難しそうな顔をした。
「木星圏で一番使われているモビルスーツは無重量下ではボール、重力下ではザクタンクなんだ。氷、滑るだろ?」
言ってる矢先にアッガイが滑って転んだ。
音は聞こえないはずだが、地面を通してバギーに振動が伝わるため「ズシーン」と音が聞こえたような錯覚を感じた。
「2本足が向いてないんだよ。図面が手に入ればとりあえず作るってだけ。こっちで作業用に使ってるザクタンクだって地球圏ではマゼラベースとザクの上半身から作るらしいけれど、こっちじゃ新品を作るからね。似て非なるモノさ。」
ヒカリは恐る恐る聞いてみた。
「ガンダムってないんですか?」
「ないね。実はガンダリウム合金がないんだ。あと、ルナチタニウムが手に入ったとしても、ちょっと作るのは悩むね。」
バギーは再び基地に入っていった。
オズモンドはバギーの窓を開ける。
「この辺は人間が呼吸する用の空気になってるけど、木星圏はどこもかしこも水素だらけなんだよ。チタニウム系は水素を良く吸い込んでボロボロになるんだ。」
「あーそれはこっちに来る船の中で勉強しました。水素脆化ですよね?」
オズモンドは頷いた。
リシュモンは「お、ちゃんと覚えてたじゃねえか!」とヒカリを褒めた。
「木星から汲み上げた資源でも、それこそ木星の大気内でも何でも、とにかく水素が多い。地球や宇宙空間では水素は希薄だからさほど影響は感じないだろうが、この辺はそうもいかないんだよ。」
そういっている間に、バギーは実験用の巨大プールにたどり着いた。
「カリストでも特に氷が分厚いところを掘って作った人口のプールだ。カリストの氷の層の下には液体の水の層があるんだけど、そこまでは掘ってはいけないルールになってる。でもかなり深いよ。今は水陸両用機がいくらか実験していると思う。」
話している間に一機、浮上してきた。
緑のボディーのてっぺんに赤い衝角のような構造が見える。
変な形だがモノアイっぽいのでジオンのモビルスーツだろうか。
ハッチがあいてパイロットが出てきて拡声器で叫んだ。
「オズモンド所長!こいつ微妙です!」
「どういうことだ!?」
パイロットは浮上したモビルスーツの肩らしき部分にどっかり座り込んだ。
「作業用とするには手が不器用なんですよ。前に見たズゴックと同じタイプで、なんか鉄の爪があるタイプです!あとなんぼなんでもデカすぎでしょう?」
オズモンドは頭をかいた。
「見りゃわかるよ!クローが嫌いなのは、お前の好みの問題だろ?」
「でも、デカすぎて小回り聞かないんですよ。180度旋回にものすごく時間かかります。」
オズモンドは小声で「まあそんなものか……」と呟いた。
「それ、名前なんだ?」
「ゾックです!」