機動戦士ゾック~太岁の風   作:スナ惡

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試料

ヒカリがエウロパに再び呼び戻されると、調査用に立派な塔のような施設がが出来ていた。

やり方が変わったからと言ってゾックがやることはさほど変わらない。

大型のジェネレーターを持つゾックは補給が無くてもミノフスキー粒子を貯め込んで、メガ粒子砲が撃てる。

ただ、戦闘時に必要な連射が出来ないというだけだ。

逆さ吊りにされたゾックは頭部メガ粒子砲を充填しながら氷床を掘っていった。

掘られた液体の水は地表付近で得られる氷塊に結着させて吊り上げられる。

ゾックのマニピュレーターはその作業用に再換装されている。

地表ではヒカリがゾックから送られてくる映像を腕組みして見ている。

トラブルが起きるまでは自動操縦に任せているのだ。

吊り下げの深さが深くなればなるほど、水の運び上げに時間がかかる。

気の遠くなるような作業だ。

ただそれを解消するアイディアがこの建物には盛り込まれていた。

氷を最大4台のクレーンでリレーして運ぶ方式だ。

地表付近で切り出した超低温の氷を下に運びつつ、水を結着して大きくなった氷を地表に運び上げるのを複数のクレーンがリレーする。

これによって水の運び出しの待ち時間はメガ粒子砲の再充填時間と大差なくなり、ストレスを感じずに氷を掘り続けられる。

シミュレートでは不眠不休で18ヶ月で氷床を掘りぬく計算になっているが、途中、ゾックを含む機械を引き上げてメンテする必要もあるので、およそ24ヶ月で掘りぬく計算になる。

メンテ期間はヒカリはお役御免でカリストの自宅に帰れるようだ。

 

「ヒカリさんをシフトから外して、ゾックには8時間ずつ3交替で監視係をつけ、何か起きたらヒカリさんを呼ぶ方式にしましょう。」

 

ヒカリは当初、ゾックの監視役のシフトに入るつもりだったが、緊急事態の時だけ呼ばれる方式になった。

ヒカリは昼夜を問わず呼び出される可能性があるが、呼び出す方もその方が気が楽なのだろう。

シフトがないとはいえ、ヒカリは気がけてゾックの遠隔コントロールルームに顔を出すようにした。最初の2カ月掘った後に最初のメンテナンスが入った。

メンテナンスは20日間を予定しているので、ヒカリは余裕をもって自宅に帰って休日を過ごせる。

 

「ありがとうございました!お疲れ様でした!」

「こちらこそ!」

 

そして16カ月たったところで調査は終了となった。

内部海への到達が断念されたのだ。

その事実をヒカリが知ったのは何度目かの帰宅中だった。

氷床を潜っていくと予測通り氷の温度はどんどん高くなっていった。

そして、ある程度高くなったところから、氷の中にまるで気泡のように空隙が現れるようになった。

何らかの原因で塩分濃度(食塩に限らない)が高くなり、凍り切らない水が溜まっている……そんなスキマのような場所が現れるようになった。

外気に触れると凍りはじめようとする不安定な状態ではあるが、それは確かに液体だ。

その液体にも当然分析する価値はある。

そこまではヒカリも知っていたが、それら液体の分析結果が決め手となって内部海探査は中止となった。

生命の痕跡と怪しき物質が発見されたのだ。

具体的には、複雑なケイ素化合物が含まれていたのだ。

ケイ素系生物の可能性は全く考えられていなかったわけではない。

しかし、数ある可能性の中の一つぐらいで十分なシミュレートがされていない。

シミュレーション不足のまま内部海に到達すると、内部海の生態系を破壊する可能性があるため、ここで一旦調査は凍結となった。

単にケイ素系の巨大分子が見つかったのか、生命活動の痕跡が発見されたのか……それは今後の研究で判明するだろう。

幸運にもエウロパ氷床深部の液体のサンプルは十分に確保できている。

また、地表に多量に放置されている氷床を掘った水が再凍結した氷の中にも生命の残渣が残っているかもしれない。

内部海調査については、サンプルの分析が終わり、ケイ素系生物の存在の有無がある程度まで絞り込めて、内部海調査による環境汚染のリスクがシミュレート出来たら再開されるだろう。

だから、調査が成功だったか失敗だったのかはまだ分からない。

それが分かるのが何年先かは不明な上に、ヒカリが生きている内に内部海への挑戦が再開するとも限らない。

ヒカリは自宅からエウロパに取って返すと調査用に換装されていたゾックを宇宙仕様に戻す作業に取り掛かった。

その作業が終わると、ヒカリは調査基地の研究員たちとがっちりと握手を交わした。

そして、大きく手を振ってヒカリはの操るゾックは真っ白い光芒を放ってエウロパの空へ旅立った。

ゾック内部には研究所の面々の好意で簡易のトイレが備え付けられていた。

帰りの機内でヒカリは今回の調査ミッションを中心に色々な事を考えていたが、不思議とエウロパに拒絶された感じはしなかった。

むしろ、かの衛星の抱える秘密を次の世代に託したような、そんな気持ちになっていた。

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