小学生になるばかりのミライに大人の長ったらしい話を聞かせても仕方ないので、入学式自体はとても短かった。
評議会議長と教育部長から簡潔に「小学校入学おめでとう」と言われて、ミライははしゃいでいる。
今年、小学校に入学する生徒はミライ一人だけだ。
というか中学生も高校生もいない。
またミライはそれが普通の事だと思っている。
ヒカリはミライの入学式を見ながら気が引き締めつつ、ミライ同様に同世代がいなかったシャオ・イェンについて少し思った。
そして、今、木星圏にいる自分と同世代の連中ですら、そこそころくでもない運命に押し流されてここにいるような気がしてきた。
入学式が終わると、ささやかながら食事が用意されているという。
家族を連れて人口重力1Gの食堂へ向かうと、食堂も少し飾りつけされていた。
ミライはカリストで生活するよりも強い人口重力に戸惑いながら、徐々に順応していった。
一通り食事を終えるとリシュモンが直接ヒカリを呼びに来た。
「ママー!小さいもじゃもじゃおじさんいる!」
リシュモンは破顔一笑してミライの前で腰をかがめると「小学校入学おめでとう!おじさんのこと覚えてる?」と声をかけ、ミライの興味が他に移るまでミライのおしゃべりに付き合った。
そして、ミライが人口重力の作り方について別の大人に質問を始めると、リシュモンはヒカリの方に向き直った。
「お嬢さんの入学おめでとう。ところでヒカリ、次のジュピトリスにはミノフスキー断章を狙った人間が確実に乗ってくるぜ。」
最近、別件で忙しかったヒカリはそんなことをすっかり忘れていた。
「すいません、忘れてました。」
リシュモンは「すっかり忘れていた」件については一向にかまわないようだ。
「ヒカリはエウロパの氷床にずっと張り付いていたんだ無理もねえ。それよりも、今度来る奴は連邦軍が正式に派遣してくる調査員だ。正面玄関から来られたら止められん。」
「なるほど、そのパターンが……」
連邦が正面きって「ミノフスキー断章の調査をします」と乗り込んでくるのだ。
公式な調査なら応じるしかない。
「しかし、聞き及んでいるかもしれんが、最近の連邦の軍人は海賊と区別がつかん輩も増えてる。どんな強引な手を使ってくるか分からん。」
「そんなものないんだけどなあ……」
ミノフスキー博士の最後の研究ノートであるミノフスキー断章はすでにすべてがネット上で公開されている。
そしてその研究成果としてサイコバンドが人類には普及している。
もう秘密なぞどこにもない。
「何年たっても認めねえな連中は。まだこの宇宙のどっかにミノフスキー博士が残した魔法が残ってるって信じてるんだ。」
リシュモンは感情の読めない表情をした。