歓迎せざる客を乗せてジュピトリスは木星圏へたどり着いた。
火星圏でジュピトリスが襲撃されるリスクに備えて、武装した高速艇でジュピトリスを追いかけ、ドッキング、そして火星圏の宙賊を牽制しながらやってきたらしい。
その点では木星船団公社は連邦軍に恩義を感じるべき部分もある。
リシュモンはダブルスターを即時動かせる体制で連邦軍の調査隊を迎えた。
ジュピトリスにドッキングして張り付いているのは単なる高速艇ではなくハイパーメガ粒子砲を備えた武装艦だ。
ダブルスターは木星圏で最強の武装艦であることは間違いないが、戦争に明け暮れた地球圏とは武装の質が違う。
ジュピトリス艦内ではカラスが拘束されたらしい。
連邦軍の横暴に抗議した結果、逮捕されたというのだ。
「木星船団公社という一企業の人間が、連邦の正式な命令を受けた軍人に逆らってはいけませんなあ?」
木星圏にやってきたミイワ大佐は不遜なオーラをふんだんに発していた。
オールドワンにほど近いスペースステーションにとりあえず陣取ると我が物顔で振舞っている。
その様子をやや遠めに見ながらリシュモンは苦悩している。
リシュモンはカラスが単なるジュピトリスの乗組員ではないことを知っていた。
カラスという名もリシュモンと同じくコードネームだ。
そして彼は連邦が木星開発計画を始めた頃から、木星航路の番人として配置された高級エージェントだ。
木星船団公社の人間はカラスをよく働くベテラン船乗りぐらいにしか思ってないが、連邦軍のある程度の階級の人間は知っていてもおかしくない。
ミーワの階級はカラスやリシュモンのそれよりも高い。
だとしても、カラスの連邦から受けている密命に配慮しない軍人がやってきたという事は、それを故意に無視したか、本当に知らなかったのかのどちらかだ。
船内から連れ出されたカラスは明らかに暴力を受けた痕跡があり、衰弱しきっていた。
同じジュピトリスに乗り合わせた他の乗客たちも震えあがって委縮している。
リシュモンはたまたま近くにいたマルケス副艦長に手元の端末からメッセージを送った。
「リッチモンド伯、お呼びですか?」
リシュモンはマルケスに命じてミイワ大佐にわざと聞こえるようにそう呼ばせた。
当然、マルケスはそれが何のことなのかは分かってないが、とりあえずリシュモンの命令に従う甲斐性はあった。
「おや、こんな木星の果てにご貴族様がおられるのですかな?ジオンも潰えたというのに相変わらずスペースノイドは貴族社会がお好きなようですな?」
この一言でリシュモンはいくつかの情報を得た。
まず、このミイワという男は連邦軍で大佐になったというのに、連邦軍のエージェント部門の事を知らされていない。
そして、スペースノイドに少なからず差別意識がある。
ということはこいつらは連邦の正規部隊ではなく独立愚連隊だ。
「いや、没落してずいぶん経つので……どちらかというとマルキド・サドみたいな愛称で、ごくごく一部の人しか呼ばんのですが……」
「なんだそれは?」
そう言いながらリシュモンは下手に出て卑屈な笑いを浮かべつつ、その場を離れた。
ミイワの近くにニュータイプらしき兵卒がいて、しきりにこちらの様子を観察していたのだ。
いずれバレるにしても自分が対ニュータイプ訓練を受けた人間だと悟らせたくない。
リシュモンは忙しそうにその場を立ち去りながら、もう一つ分かったことがあった。
あのミイワ大佐という軍人は教養もいまいちだ。