舞台をミイワ大佐とその周辺に戻そう。
ミイワ大佐率いる独立愚連隊はオールドワンに乗り込んで押し問答をしていた。
「なぜ、供出できない!私の命令は軍の命令!!連邦政府の命令だぞ!!」
苛立って激昂するミイワに、木星船団公社評議会のゲザリ議長は努めて冷静に対応していた。
「単純に今ここに無いからです。調達に時間がかかると言っているだけです。」
順を追って騒動の経緯を述べると以下の通りだ。
まず、ミイワ大佐はジュピトリスにドッキングさせた自らの艦「カルバペネム」で木星圏内を移動しようと考えていたが、その前に木星船団公社は木星船団公社の人間による艦の点検作業を求めた。
その段階でミイワは怒り心頭だったが、その点検作業は別に艦の武装をどうこうしようというわけではなく、木星圏内を安全に航行できるだけの設備があるかを確認するためのモノだった。
その件についてはミイワの部隊の人間がミイワにとりなしたので、一旦、怒りは解けた。
しかし、ミイワは点検中に自分たちが動き回れる船を貸し出せと言ってきたのだ。
木星船団公社はそれに関しては断る理由もなかったが、あいにく木星圏にはミイワの部隊を全員載せて航行できるような船はほとんどなかった。
唯一、ダブルスターがその能力があるが、ダブルスターは改造船であって操縦が難解な上に、現在中に載せている武装機体は全てボールに統一されている。
ボールが詰め込まれただけの操縦の仕方も分からない元輸送船ではミイワたちは首を縦に振らなかったのだ。
結局、今、定期航路にある貨客船の帰還を待つか、カルバペネムの点検を待つかの二択にどうしてもなってしまう。
点検を待つ間、彼らは自分たちの載ってきたカルバペネムの中で快適に過ごすことができるのだが、ミイワは今回のミッションの時間的制約に焦っていた。
カルバペネムはジュピトリスに追いつける船足を持つ高速艦だが、正直、木星と地球の間を往復できるだけのパワーがない。
自給自足できる設備がない、片道二年分の物資を積む積載量もない。
そのため帰り道もジュピトリスにおんぶにだっこになるのだが、次のジュピトリスの就航に間に合わないと、その次の船を13か月待つ羽目になるのだ。
流石に無教養のミイワも連邦国軍で大佐になるだけの計算能力はある。
外したタイミングで木星を発てば、恐ろしい期間、宇宙をさまよう羽目になるのは理解している。
*****
さて、木星の首都(?)近郊でめんどくさい大人たちが頭を抱えている間に、シャオ・イェン率いる大枢党は衛星カリストのアザニア基地に辿り着いていた。
「シオ・エン!貴様というヤツは!!」
怒っているのはアザニア評議員のマイラ・パルトロだ。
「怪我をさせるなよ。後で謝っても許してもらえなくなる。」
ライフルで武装した大枢党員たちがカリストになだれ込み、学校と保育園、保育所を襲撃したのだ。
子供たちを人質にされた上に、ろくに武装していない大人たちは成す術もなかった。
「子供と一緒に誘拐されたい親はいるか?いるなら一緒に誘拐してやる。」
結局、子供だけではなく保育士、医師、保護者まで含めて30人ほどが誘拐されることになった。
その中にはカーンもいる。
「シオ・エン……お前、何を考えとる!?」
「悪党が悪党に戻っただけですよ。」
誘拐される人間の中には絶賛子育て中のイリーナもいる。
そして、白けた顔で子供を抱いていた。
「イリーナ!お前も何か言わんか!!」
荒ぶるカーンとは対照的にイリーナは低調だった。
「子供と一緒に銃突きつけられて、言えることなんてぶっちゃけなんもねえっす。」
騒ぎを駆けつけてチンペーが走ってきた。
「大枢党、あいつは殴って制圧した方がいい。ややこしくなるから。」
イリーナは血相を変えて走ってきたチンペーを一瞥すると、大枢党にそう指示した。
暴れるチンペーは武装した大枢党員ですら手こずる。
結局3人がかりでやっと縛り上げた。
「チンペー、お前はここに残れ。」
「え?なんで??」
イリーナの命令でチンペーは縛られたままアザニア基地に残されることになった。