機動戦士ゾック~太岁の風   作:スナ惡

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良くも悪くもゾック

一通り試験場の中を見回ったヒカリは少し不服そうだ。

 

「ガンダム見たかったな……」

 

リシュモンがいさめる。

 

「木星圏にはガンダムはいないんだよ……そもそもモビルスーツで戦闘しないんだから……」

 

オズモンドは再び腕まくりをして笑う。

 

「ハッハッハ!男の子はそういうの好きだからな!でも、戦争は地球圏の奴らにやらせておけばいいのさ!」

 

そういい終わるとほぼ同時にズシーンと音がして基地が揺れた。

オズモンドは弾けるように動くと、ヒカリにヘルメットをかぶせた。

その後、自分もヘルメットをかぶる。

リシュモンも素早くヘルメットをかぶった。

 

「テイラー、このガキとリシュモンをそのデカブツに収容して潜りな!」

「了解!!」

 

テイラーと呼ばれたのは、先ほどゾックの文句を言っていたテストパイロットだ。

そして、オズモンドは走ってどこかへ消えた。

 

「少年、泳げるか!?飛び込め!」

 

ヒカリは泳ぎに自信はなかったが、スペーススーツは水に浮くのを知っていたので、思い切ってモビルスーツの試験用プールに飛び込んだ。

プカプカ泳ぎながら下を見ると、恐ろしい深さのプールだ。

テイラーに引き上げられリシュモンに押されながらゾックに這い上がると、場内放送が聞こえた。

 

「当試験場は現在、未知の敵による攻撃を受けている!戦闘態勢!!」

 

滑り込んだゾックの中は優に四人は余裕をもって乗り込める広さだった。

 

「モビルスーツって結構中は広いんですね……」

 

ヒカリがそういうとテイラーが

 

「こいつは特別だ!地球圏ではこいつの中に居住ユニットを突っ込んで旅行した奴がいるって話だぜ!その辺の壁に折りたたまれたシートがある!座って安全ベルトを締めてくれ!!動くぞ!!」

 

テイラーは今さっき3人で乗り込んだ気密ハッチを厳重に閉めた。

そのまま二重扉の内側も閉める。

 

「戦うんですか!?」

 

ヒカリの質問にテイラーが渋い顔をする。

 

「いざというときにはそうせざるを得ないが……まずいな」

「まずい?」

 

リシュモンも眉をひそめる。

 

「このゾックには武器が内蔵されてるんだが……どいつもこいつもバカみたいな出力してて、下手に打つと試験場が蒸発しちまう……」

 

ヒカリはあっけにとられて口を開けている。

 

「とりあえず……潜る!!」

 

ゾックはブクブクと沈降を始めた。

水中は驚くほど静かだ。

ゾックの駆動音だけが聞こえている。

 

「基地どうなってるのかな……」

「たしか、有線式の潜望鏡があったぞ?」

 

テイラーがマニュアルを片手に操作するとサブモニターに何か映った。

 

「こいつを上に伸ばせば……」

 

いろいろ言いながら操作すると、サブモニターに水上の景色が映った。

 

「うわ!ボールだ!!」

 

明らかにヤバい改造がされているボールがプールサイドに陣取っている。

 

「攻撃してきますか?」

 

ヒカリの問いにテイラーは首をひねった。

 

「あのボールじゃ、こっちに手が出せねえんじゃないかな?こっちはやる気になればあいつらに攻撃できるが……」

 

ボールに乗った賊の胸中は察せないが、ボールは明らかに逡巡している。

明らかに水中に敵がいるのに手が出せない。

そして、水中のゾックからはボールがはっきり見えているが、向こうからはこちらの姿は見えない。

地球圏でも希少な実験機のレプリカが沈んでいるなど想像もつかないだろう。

 

「若、どうします!?」

 

「若」と呼ばれた男はボールに乗っていた。

スペーススーツは着ていないが銀色のゴーグルをはめている。

 

「我々が見逃したところを背中から襲われたらたまったものではないからな……これは困った」

 

そういって笑った。

金色のくせっ毛、浅黒い肌のその男の名前はシオ・イェンという。

 

「若、笑い事ではないのですぞ!」

「そんなことを言ってもダラン、我々が乗っているのは決して戦闘に向かない上に、水に入るなどもってのほかのボールだ。対して向こうは潜望鏡を伸ばした潜水艦か、はたまたモビルアーマーか?いずれにせよ、退くに退けず、攻めるに攻めれず……これは困ったことになった。」

 

ダランと呼ばれたイェンよりもさらに地黒の男は大きなため息をついた。

 

「やるならやる!退くなら退く!どちらかにせねば!」

 

イェンはややむっとした声を出した。

 

「やめたまえ、ダラン。二者択一は愚者か悪人のすることだ。この場合は……もうしばらく何もしないで様子を見よう。」

「若ァ……」

 

困っているのは水中のゾックも同じだった。

たまたま相手が何もしてこないので潜望鏡を壊されてもいないが、外の状況がまったくわからない。

目の前の敵はどうやら倒せる能力はあるようだが、施設をも相当に破壊してしまう。

 

「テイラーさん!どうするの!?」

「うぬぬ……ボールは核融合炉を持たない機体だから、ぶっ壊してもさほど大きな爆発は起きないはずなので……ん?」

 

魔改造されたボールをよくよく見ると、背中に核融合炉が積まれているように見える。

 

「あのボール、原子力で動いてやがる……」

 

しばらく膠着状態が続くと、侵入者サイドで動きがあった。

すっかり気の抜けた顔をしてイェンがダランに話しかける。

 

「これだけ待って、手を出してこないということは、なんらか攻撃できない事情があるんだろうな。撤退としよう。」

 

ダランはすこし狼狽えたがそれ以上に良い方法も思い浮かばない。

 

「ではしんがりは私が……」

「別によいさ。どうせ人間、いつかは死ぬんだ。」

 

テイラー、リシュモン、ヒカリの3人は2体のボールが背を向けて離れていくのを水中のゾックの中から潜望鏡越しに眺めていた。

 

「行ってくれた……」

 

実はテイラーはもう少しにらみ合いが続いたら試験場を吹っ飛ばす覚悟で発砲するかを迷っていたのだ。

結局、試験場にけが人は出たもののいずれも軽症、テロリストたちの目的はモビルスーツの略奪だった。

適当な爆発で試験場内の人間の気を惹くと、その隙に使っていない実験機を数体かっさらう計画だったようだ。

その犯行の足取りを追うと、最終的に船籍不明の艦でカリストを脱出したことまで分かった。

 

「木星にとうとう海賊が出るようになったか……」

 

この事件を皮切りに木星圏では大小問わず窃盗や略奪行為が増えていった。

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