天から降って湧いたような天才パイロットのストークの活躍もあって、ここまでカルバペネムとダブルスターの双方に損害はない。
ただひたすらに足止めされているカルバペネムと、ひたすらに足止めしているダブルスターのにらみあいが続いた。
しかし、敵にしているのは連邦の本格的な戦艦であり、艦載MSのゼータガンダムだ。
ZZガンダムというさらに最新鋭のMSもあると聞くが、MSの独自進化が顕著な木星圏ではゼータガンダムであっても十分に脅威だ。
ストークはそのゼータガンダムを知り尽くしているらしく、彼の指示に従うことで、ここまで被害を出さずに来ている。
否、実は被害は出ている。
サイコボールの本隊ではなくサイコミュ側のボールが数台破壊された。
しかし、それも折り込み済みのようで、サイコミュ改造されたボールはまだ数に余裕がある。
「そろそろミイワ隊も捨て身で襲い掛かってくるぞ。」
そう口を開いたのはリシュモンだ。
全員がリシュモンの次の言葉を待つ。
「理由は簡単だ。出撃の度にゼータガンダムはある程度のメンテナンスが入るはずだが、そのメンテナンスに使う補用品が尽きる頃ではないかと見ている。というか、今がその時じゃないにせよ必ずいつか尽きる。」
ヒカリの聞くところによるとゼータガンダムは地球連邦の内部抗争やネオ・ジオンとの紛争で活躍した名機らしい。
アナハイム・エレクトロニクスが開発した機体で、恐らくは交換部品などの補用品もアナハイムから供給されていたのだろう。
そして、残念ながら木星圏にはアナハイムの出張所は無い。
物資が尽きるのも致し方がない。
モビルスーツの運用は根性論では何ともならない。
バックアップが止まればモビルスーツは粗大ゴミになる。
「ミイワ隊はゼータが運用できなくなる前に焦って我々を倒しにかかるはずだ。そこで、作戦の内容を変える。」
保安部の一同がリシュモンの次の言葉を待つ。
「もっと懐を深くとる!」
リシュモンの提案はこうだ。
敵艦への威嚇をさらに遠距離から行うということだ。
「当てる必要はないし、当てちゃあダメなんだが、当たりそうな雰囲気は必要だ!ヒカリ、やれるか!!」
「やってみます!!」
リシュモンはしばらく目を閉じてヒカリの返答に感じ入っていた。
「実に木星人らしい返答だ!失敗しても責任を取るつもりまでは無いけど、努力はする……木星人の鑑のような男だなお前は。」
ヒカリは少し照れた。
ストーク青年はというと、そのやり取りをみてやや呆れている。
恐らく周りの人間はあまり気付いていないが、両親を失ったヒカリは努めて明るく振舞おうとしていたし、リシュモンもそれを分かっているのだ。
「よし、それではJ-VOID一同、やってみよう!!」
皆一様に「はあい、了解」のように気が抜けた返事をしている。
さて、そのころミイワ大佐率いるカルバペネムの面々はというと士気が下がり切っていた。
一つには地球から持ってきた保存食生活が続いている事、また一つにはリシュモンの読み通り物資の枯渇で継戦能力の維持が難しくなってきたこと、そして
「なんで、ボールごときとっとと殲滅できんのだ!!」
ミイワ大佐が連日連夜怒り狂っているからだ。
パイロットたちは何度も「艦の防衛が手薄になるからだ」と説明はしている。
そして、木星圏のボールは話には聞いていたが明らかに大きいし、そしてパワーが大きい。
彼らの肌感覚としてはMA形態のアッシマーかそれ以上の機体を相手にしているような感覚だった。
それでも全く戦果が上がってないわけではない。
何機かは落としているのだ。
しかし、ミイワ大佐にとってボールはボールだ。
何度説明しても怒りが収まらない。
パイロット含めクルーたちはただ黙って耐えるだけになった。
頑張っているのはMSのパイロットだけではない。
艦砲射撃でも頑張って応戦してはいるが、なにぶん遠すぎて当たらない。
「敵襲です!」
そんな最中にも敵は攻めてくる。
「くっそぉ……連邦軍をコケにしおって!!」
さて、敵襲の第一波は当然ヒカリ・フリースのジュピターゾックによる攻撃だった。
ただ今回はちょっと毛色が違う。
遠目から狙う自信がなかったヒカリはリシュモンに許可を取って単機で突出したのだ。
「緑のモビルアーマーが目の前まで来ています!!」
「何ぃ!?」
ミイワ大佐も緑のモビルアーマーがジオンの旧式機体のゾックのコピー品だという事は知っていたし、強力なメガ粒子砲を4門も内蔵していることも知っていた。
メガ粒子砲も当たらなければどうということは無いとタカをくくっていたが、目の前となると話が違う。
「天欺きて海を渡るってね!ちょっとぐらいなら当ててもいいでしょ。」
ヒカリは艦の主砲らしきハイパーメガ粒子砲の砲門の先を少し炙る程度にメガ粒子砲を放った。
どまんなかを狙ってジェネレーターを爆発させては元も子もないからだ。
狙い通り砲門の構造材の一部が割ける程度の損害を与えると、ゼータが出てくる前に逃げなければいけない。
とんでもない火遊びだが、ヒカリの溜まっていたウサを晴らすには最上の作戦だった。
「ミイワ隊をなめるなぁ!!」
「あれ?意外と早い?」
どうも出撃命令を待たずにスタンバイしていたらしく、ゼータが一機飛び出してきた。
ヒカリは相手の頭に血が上っていることを感じつつ、相手もニュータイプだと感じた。
恐らくヒカリよりも能力は上だろう。