「ヒカリ、一機で大丈夫か?」
リシュモンに呼び止められてヒカリは問題ないと首を振った。
「さっき連絡が来たんですが、すでにチンペーさんもタンクで向かってるらしいので。」
「あれチンペーが持ってたの!?どうりで格納庫にねえと思った!!」
おどけるリシュモンに手を振るとヒカリは推進剤を積みなおしたゾックに乗り込んだ。
「ヒカリさん!必要に応じて木星低軌道やイオ周辺宙域のタンク船から推進剤を融通してもらえるそうです!」
整備班のベライドがそう声をかけてきた。
「ありがとう!助かります!!」
今回はアガリクス2を目標に定めて飛んでいるゼータを追う事になる。
「ゾック!発進します!!」
ダブルスターを出ると、進路を木星に向けて取る。
巨大な木星に正面から突っ込むような形だ。
通信が入る。
「ヒカリさん!木星にまっすぐ突っ込むと流石のゾックでも上がれません!進入角度のシミュレーションや現在のアガリクス2の座標はゾックのコンピューターに入れてあります!」
計算班長のペトロワ女史だ。
この話は艦内でも何回もされた。
「ありがとうございます!」
素直にお礼を言った。
心配されるのも無理はない。
*****
一方、ミイワ大佐はシャオ・イェンと通信機越しに話していた。
「私もミノフスキー断章は木星船団公社の発表の通り、あれが全てだと考えています。今回の調査で私が証明するべきはそこなのです。」
ミイワは丁寧な言葉選びに努めた。
とにかくミノフスキー断章があるという木星大気圏内拠点に入らなければ話にならない。
ミイワ単身であっても、ちっぽけな拠点一つなら何とでも制圧できるだろう。
隊員に裏切られたのには臓腑が煮えくり返る思いだったが、無事に戦果を挙げて連邦に帰りつけば、あんな連中は全員軍法会議にかけて銃殺刑にできる。
今はとにかく任務を完遂して、地球に帰るのが先決だ。
「私も、手元にあるモノがホンモノなのか写本なのかまでは分かりかねるのです。正式な連邦の調査員にお渡しできればそれに越したことはありません。先日はあんな事を申しましたが、ああでもしないと再び木星船団公社の連中に奪われてしまいますからな。」
そう言ってシャオはノートをひらひらと揺り動かした。
ミイワとしては中身がホンモノでもニセモノでも関係がない。
任務を果たした証拠に地球に持って帰れればそれでよい。
ついでに地球連邦に反逆した木星帝国帝王なるふざけた仮面の若者を始末できれば一石二鳥だが、ミイワも流石に何の案内もなく木星の大気圏を出入りできるとは思っていなかった。
先に自分を愚弄した忌々しい仮面の男に関しては、今回は脅す程度で済ませよう……ぐらいには考えていた。
子供の一人でも攫っていけば、この仮面のバカも素直に言う事を聞くだろう。
「……あれ?そういえば子供がいるのはそちらの拠点ですか?」
シャオ・イェンは優しく微笑んだ。
「はい、そうですよ。」