MA形態のままで一路、木星を目指すミイワは推進剤の残量を見て一旦バーニアをふかすのを止めた。
木星大気圏への突入は未経験だが、先ほどの生意気な仮面の男はボールで大気圏内外を行き来するらしいので、ボールにできてゼータにできないことは無いだろう。
アガリクスとかいう大気圏内の拠点についたら、推進剤は分けてもらわなければなるまい。
そもそも、核燃料と推進剤の生産を大気圏内で行うのが目的の拠点だと聞いているので、それぐらいは訳はないだろう。
そう考えると今回の任務は木星帝国にかなり協力してもらわなければいけないと気付いた。
ミイワはそこまで考えたところで「人質を取るのは最終手段にしよう」と思った。
むしろ、木星帝国とは仲良くした方が良いのかもしれない。
なにしろ、木星船団公社とは色々と決裂してしまっている。
考えないようにしていたが、地球への帰還方法も木星帝国に相談できるかもしれない。
そこまでしてくれたら、ミイワから地球連邦に木星帝国の承認を連邦に提言すると口約束をするのもアリかもしれない。
「あいつら、許さんぞ。」
反乱を起こした隊の連中を思い出して、一瞬いやな気持になった。
それでもミイワは叩き上げの軍人だ。
無能ではないのだ。
ここは頭を冷やして休息するべき時だ。
手元のコンソールを使って幾らか計算をすると、ここから少なくとも4時間は眠れることが分かった。
*****
その頃、ヒカリは補給をしつつゼータに接近する軌道の計算結果を待っていた。
保安部の人間たちがヒカリの現在の座標を追いながらシミュレートを重ねた結果、単に後ろから追いかけるのではなく、もっと加速した状態で回り込んで木星低軌道付近で後ろではなく横から接近する方が確実だと分かったのだ。
それをやるとかなり推進剤が消費されるため、「どこか調子がよさそうなところで推進剤を補充できたら」というのが条件になる。
「ヒカリさん!計算出ました!イオ・ヴォルケノPtPのスタート地点は常設らしいので、そちらの補給所が使えるそうです!ヒカリさん行ったことありますよね!?」
「実はない。あそこは人間の操縦だと危険だってなって自動操縦でのレースになったから……」
一瞬、通信機越しに不穏な空気を感じたが、ペトロワ女史は元気に続けた。
「全機無事にゴールできたからきっと大丈夫ですよ!イオ・ヴォルケノPtPで補給した後、イオでスイングバイしてゼータに追い付いてください!だいたいレーシングコースと一緒なので!」
ヒカリは火山が噴火したら焼け死ぬじゃん……と思いながら、背に腹は代えられないので素直に従うことにした。
進路を修正して加速する。
「加速度OK、加速終了までカウントダウン開始。」
正直、周りにはほとんど何もない宇宙空間を飛んでいるので自分がどれぐらいの速度なのか全然実感がわかないが、計器と保安部からの光学観測のデータを信じてやるしかない。
なお今回は連続加速時間が2時間を超えるらしい。
「怖っ。」
故障とかで減速失敗したら、両親の敵を討つ前に外宇宙へ旅立ってしまうのではないだろうかと少し不安になった。
眠ろうとすると、両親の事を思い出す。
「母さん……父さん……」
耳を澄ませると、父と母が自分を呼ぶ声が今でも思い出せた。