木星帝国皇帝を名乗ったシャオ・イェンは、別に本気で皇帝になりたいわけではなかった。
ただ、四の五の言わせないちょうど良さが欲しかったのだ。
独立政府だ何だと細かい話をすると、「立法府はどうなっているのか?」とか、要らん横槍が入る。
あの時はそこそこ急いでいたので、即効性のある大義名分が欲しかっただけだった。
リー老人から連絡が入ってから大急ぎで用意して、ミイワ隊に先んじてアザニア基地まで行って帰ってきたのだ。
皇帝と名乗ったところで自分の身の回りの世話をしてくれる家来がいるわけでもない。
今もアガリクス2拠点で一人で自給自足の生活をしているだけだ。
本当はアガリクス2はもっと大勢の人間が生活できるキャパシティがある。
ただ、ミイワを釣りだしてしまった以上危険な目に合うのは自分一人で十分だ。
子供たちやその親、保育士や小児科医が詰め込まれたニューコンティキ号には絶対に危険が及んでほしくない。
アガリクス2なぞは自分とミイワと一緒に沈んでも惜しくないのだ。
シャオ自身は自分の人生の目的はほぼ達したと思っているし、初代アガリクスを叩き台としてブラッシュアップされたアガリクス2の素晴らしさはもう十分に分かった。
その図面は大枢党が保管しているし、資源は足りている。
壊れてもまた誰かが作ればよいのだ。
しかし、子供たちは違う。
ヒカリ・フリースの娘などは地球生まれ木星育ちだが、すでに何人も木星生まれ木星育ちがいる。
シャオはその子供たちは自分の弟妹だと感じている。
彼の者たちはシャオにとって命に代えても守るべき存在なのだ。
シャオの第一の目標はミイワから子供たちを守ることで、それは成功した。
次の目標は刺し違えてでもミイワを排除する事だ。
ところが、聞くところによるとミイワ隊は全員投降し、ミイワだけがゼータガンダムでこちらに向かっている。
取り寄せたゼータガンダムのスペックからすると、MS一基とはいえ決して侮れない戦力だ。
ストークという地球から来た男がサイコボールでミイワ隊を圧倒したそうだが、同じくサイコボールを使う自分がストークと同じことが出来る保証はない。
より確実な方法を取る。
アガリクス2に招き入れて、拠点もろとも自爆&落下すればミイワは確実に倒せる。
「しかし、それは最終手段だ。」
木星の英雄、ヒカリ・フリースが両親を殺された敵を取るために恐ろしい速度で迫っている。
ヒカリのゾックがイオで加速スイングバイしてきたことは分かっている。
既に望遠鏡を使えばゼータガンダムは見える。
そしてシャオの計算だと、そろそろヒカリのゾックも見えるはずだ。
「黒か」
予想されるポイントの映像を拡大すると真っ黒に塗られたゾックが白い光芒を吐きだしながらゼータガンダムに迫っていた。