「見えた!」
ヒカリは木星の大気圏の外を木星に沿うように飛んでいた。
眼下に巨大な褐色の雲海が見える。
そして、前方やや上方向にゼータガンダムが見えた。
さらに木星の壮大でまがまがしい雲海には、数隻のポンプ船も浮かんで見える。
ミイワならあのポンプ船を狙った破壊活動もやりかねない。
何としても、こちらに気づいてもらう必要がある。
ゾックは今、機体を水平にして飛んでいる為、4連メガ粒子砲は使えない。
頭部メガ粒子砲は射角が270度ほどとれるフレキシブルさはあるが若干狙いが甘い。
とはいえ、頭部メガ粒子砲はゾックの主武器だ。
「狙いの甘さは、パイロットの腕でカバー……」
ヒカリが放った赤い光条ははるか遠いゼータをかすめた。
「撃たれた!?どこからだ!?」
ミイワは機体の損傷がそこまでひどくないことを確認するとメインモニターを凝視して敵を探した。
乳海のような木星の上に黒いモビルアーマーが飛んでいる。
「なんだあれは?色は違うが、まさかゾックか!?」
その黒い点が赤く光った。
反射的に操縦桿を倒すと、ゼータは間一髪、メガ粒子砲を避けた。
「よ……避けた!」
ミイワはニュータイプでもない自分が亜光速で飛ぶメガ粒子砲を避けたことに逆に驚いて興奮していた。
実際にはメガ粒子砲の発射前の砲塔の光を見て回避行動を取っているので、飛んできたビームを避けたわけではない。
ただ、今はそんなことはどうでもよく、ミイワは完全に戦闘態勢に入った。
ゼータはMA形態からMS形態に変形すると、ビームライフルを構えた。
ヒカリは機首を下げて、あえて木星方向へ突っ込みながらジグザグに飛んだ。
木星の超引力に逆らいながらでは避けられないと考えたからだ。
ヒカリの思惑通り、ゾックはビームを避けた。
「基本通りの之字運動か……ム!?」
ミイワの予想よりも早くゼータのビームライフルの弾が尽きた。
「クソ!補給も整備も甘い!」
ミイワは悪態をついたが、その点については自身の失策も有ったことを内心では認めていた。
兵站もへったくれもない木星で、いつものような強硬策は不可能だったのだ。
隊の反乱についても、もし仮にミイワが隊員の立場であったら、真っ先に反乱を起こしていただろう。
何の援護もない僻地の木星では、協調性がなければ何事もなしえなかったのだ。
自分を木星任務に就かせた上層部は、ミイワ隊の失敗を予想していたのかもしれない。
「だからこそ、オレはここで負けるわけにはいかんのだ!!」
ゾックを追いかけて木星へ落下しつつ、グレネードランチャーを発射する。
こちらは今まで使う機会がなかったと見えて、4発残っていた。
記憶だと追尾性能があったはずだが、どうも木星の引力に負けて追尾できないようだ。
そんなことを考えていると、急に機体が横に滑り始めた。
「木星の大気圏内に入ったか……」
ヒカリの乗るゾックが緑色に輝き始める。
「耐水素塗料に変わった……」
ヒカリにとってもこれが初めての木星大気圏内だった。