ミイワはゼータの推進剤がほとんど底をついていることに気づいた。
この量ではアガリクス2にもたどり着けない。
木星の引力を振り切るなんてもっと無理だった。
ミイワは気づいていなかったが、きちんと計算すればアガリクス2拠点へまっすぐ飛来して、推進剤の補給を受けたとしても、ゼータでは逆立ちしても木星の引力は振り切れない。
推進剤のタンクの容量も、最大推力も、推進に関わる設計も何もかもが足りていない。
「残念ながらゼータガンダムには木星の遺伝子は入っていないのだよ。」
シャオは窓際を離れながらそう呟くと、お気に入りの椅子に座った。
木星大気圏の突入と脱出に関してはシャオ・イェンは第一人者だ。
だからこそゼータのスペックを見た瞬間に「アガリクス2に誘い込めば必ず獲れる」と確信したのだ。
シャオとミイワに遅れて、ヒカリもゼータの推進剤が尽きるのが間近だと気付いた。
ミイワは苦悩した。
目の前のゾックはヒカリ・フリースの搭乗機だという事は知っている。
そして、自分たちがフリース夫妻を襲撃したことも知っている。
なんなら、フリース一家を締め上げるために木星圏に来たと言っても過言ではない。
そして、今、ミイワが助けを請えるのは、目の前のゾックかアガリクス2のシャオ・イェンしかいないだろう。
さらに悪いことに、必死になってゾックを追いまわしていたミイワは謎の倦怠感と吐き気、そして頭痛に襲われていた。
朦朧とする意識の中で、ミイワは判断に迷った。
そこへ通信が入った。
「ミイワくん、ずいぶんと調子が悪いようだが風邪かね?」
通信用のサブモニターに映る仮面の男の顔がゆがむ。
返事をしようと思ったが口の中が乾いて上手くしゃべれない。
そういえば、ずいぶん長い間、何も食べていない。
食欲がない。
「ミイワ大佐、どうやらキミは『我々、木星人がボールに乗っている理由』を勘違いをしているようだが、せっかくこんな辺鄙なところまで来たので教えてやろう。木星が発する電磁波は地球圏では類を見ないほど強力なのだ。モビルスーツや艦艇は宇宙空間を飛び交う放射線を防護する構造を持っているが、地球圏のソレでは不十分なのだよ。」
ミイワは悔し涙を流したかったが、涙は出ない。
「オ……お前……ハメやがったな……」
シャオは首を横に振った。
「それは違うぞミイワ大佐、キミにも生き残る術はあったのだ。木星圏に到着したその瞬間から、我々木星人に服従し、協力を仰げば、今こんなところで無様な死に目を晒さずとも済んだ。」
ミイワのサブモニターにヒカリの顔も映り込んだ。
「ヒカリ・フリース。見ての通りだ。ミイワ大佐にはもはや生き残る術は残されていない。ご両親の仇をとるか?」
ヒカリは首を横に振った。
「木星の風に任せよう。ミイワ大佐も謝罪の必要はない。お前の罪も木星が飲み込んでくれるだろう。」
ミイワの乗るゼータガンダムはバーニアを吹かすことで辛うじて高度を保っていたが、とうとうその推進剤が尽きたようだ。
仮にエアインテークから取り込んだ大気を加熱して噴出する推進方式であったならば、多少は延命できたかもしれない。
ゼータは推進剤は尽きたもののジェネレーターは健在だ。
ただ、進む力だけがもう無い。
MA形態のまま紙飛行機が風に吹かれるように落ちて行った。
頑強なゼータガンダムだ。
死の瀬戸際、ミイワは木星の深部を見るのかもしれない。
ヒカリとシャオが見つめるモニター越しのミイワの映像が徐々に乱れていく。
木星の大気に邪魔されてレーザー通信の限界が近づいているのだ。
「そうだ、ミイワ大佐に大切な事を言っていなかったな。」
シャオが不敵に笑う。
「大切なこと……ってなんだ?」
ヒカリの問いにシャオは答えた。
「木星にようこそ。」
お気づきかもしれませんが、もうすぐ終わりです。
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