機動戦士ゾック~太岁の風   作:スナ惡

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静穏

「お邪魔します。」

 

ヒカリは緊張しながらエアロックを抜けた。

 

「遠慮せずに上がってくれ。大したものはないが、コーヒーでも飲むか?当然、木星産の代用コーヒーだが……」

 

シャオはそう言いながらヒカリに椅子を勧めた。

ヒカリはその椅子に掛けながら、周囲を見回した。

想像していたよりも天井が低い。

生活に必要なモノが壁一面にびっしりと収納されている。

 

「実は初代アガリクスの方が居住スペースは広かったんだ。アガリクス2になってバイオスフィアと諸々が追加されて、居住区が狭くなった。」

 

ヒカリは強い引力に多少苦戦しながら、コーヒーを片手に拠点の内部を見て回る。

 

「なるほど、ここは微生物を使った浄水設備か。」

「そういうことだ、フルオートメーションでほぼ全ての元素が循環している。」

 

こうしたテクノロジーは宇宙世紀前から開発されていたものだ。

地球圏の多くのコロニーがこうした仕組みを持っている。

ただし、もっと大型なものを小型化したモノがこのアガリクス2に設置されている。

大枢党の研究班の努力が実を結んでいるのだ。

そうこうする内にヒカリはアガリクス2の設備について一通りのレクチャーを受けた。

ところで二人とも、本当はそんなことがしたいわけではない。

互いに積もる話があって、話したいことがある。

ただ、それがあまりに多すぎて、どこから手を付ければよいのか分からずに、なんとなくウロウロしてしまっている。

 

「お父上とお母上については守れなかった。申し訳ない。」

 

急にシャオが改まった態度で謝り始めた。

 

「いや、クロエとミライを助けてもらえたのが奇跡みたいなものだ。その仕事は本当は木星船団公社保安部の仕事だろ?妻と子を助けてくれてありがとう。この恩は一生かけても返せない。」

 

シャオはすぐに何かを言い返そうとしたが、口を開く前に止めた。

そして十分時間をかけて言葉を練ってから、再び口を開いた。

 

「リー大人からの通告を、もっと早く保安部に伝えればよかったと後悔している。今更悔やんでも仕方ないが、人が大勢亡くなったのに悔やまないという選択肢はない。ただ……」

「ただ?」

 

シャオは元居た部屋に戻りながら言葉を続けた。

 

「確かにヒカリに謝って許してもらうことではない。これは言うなれば私の中の問題で、キミに謝って心を軽くしようというのが、そもそもの私の甘えだった。」

 

ヒカリは「甘え」という言葉をきいて、自分のここまでの行動を色々と思い返した。

 

「『甘え』か……厳しい言葉を使うなあ。」

「うむ、甘えだ。」

 

しばらく、沈黙が二人の間に流れる。

拠点の中でも少し外の風の音が聞こえる。

 

「もう一つ、問題がある。これは甘えがどうとかいう類の話ではない。今回のミイワの襲撃は、勿論、ミノフスキー断章同胞団の差し金で間違いはないが、連邦の思惑もある……とリー大人から連絡があった。」

「思惑?どんな?」

 

シャオは仮面を外すと手近な棚に置いた。

 

「すまん、少し外させてくれ。実は生まれつき片目が弱いのだ。」

 

シャオの片目は碧眼だったが、もう片方の瞳はピンクに近い灰色だった。

 

「こちら側は視力も悪いが、光にも弱い。だから、普段は調節機能のついているゴーグルを使うか、どうしてもの場合はコンタクトをはめている。コンタクトの方は、度が入って見えるようになるわけではなくはめると前が見えなくなる。……まあそんな話はどうでもいい。ゴーグルはゴーグルで長時間つけていると頭が痛い。どのみち、両目使うのは苦手なんだ。」

 

そういいながらシャオは痛むこめかみのあたりを指さす。

そして、代わりに眼帯を付けた。

 

「大変なんだな……ところでリー大人の話はどうなった?」

「ああ、その話だが、地球圏では地上も宇宙も治安が悪化し続けているのに対して、木星圏の治安が良いことに注目が集まっているらしい。不満ではなく注目だ。具体的に言うと、一部の上流階級が地球圏を脱出して木星圏に移住を考えているそうだ。」

 

ヒカリは少し想像してみた。

無能な成金や貴族が木星圏に殺到してくることを考えるとぞっとする。

もうずいぶん昔のように感じているが、先ほど落ちたばっかりのミイワですら地球連邦軍の大佐だった。

兵士を何人も犠牲にし、部隊の反乱を招き、挙句に木星に落下したのだ。

木星船団公社は地球方面の支社などを通じて、木星に送る人材を厳選している。

金持ちのワガママで押しかけていい場所ではないのだ。

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