同じころ、ミイワ隊の蛮行で少なからず混乱していた木星評議会も落ち着きを取り戻しつつあった。
そこに、地球から連絡が入る。
「木星船団公社の地球支社に地球連邦の強制捜査が入りました。」
「この日が来たか……」
つぶやいたのはこの前まで拘束されていた議長のゲザリだ。
シャオ・イェンの強行策の煽りを食らって一旦拘束されていたゲザリは、ほとぼりも冷めて再び議長の席に座っている。
そのゲザリは暗号など通じてリーと最も頻繁に連絡を取り合っていた人物でもある。
地球の動きに対して、評議員の中での反応はまちまちだ。
驚く者もいればうなだれる者もいる。
カリスト代表のマイラ・パルトロはこの動きを予測していたようだ。
「止められなかった……」
そう呟くと天を仰ぐ。
ゲザリ議長はそんなパルトロ評議員の様子を見て、彼女にも他の人間の知らない戦いがあったのだと悟った。
地球の治安が悪化し続けた現在、木星の資源はエネルギーだけではなかった。
木星の治安が狙われいるのだ。
そうなると木星船団公社はもはや聖域ではなくなった。
ジオンが隆盛していた時期、連邦軍が木星船団に圧力をかけると、木星船団とジオン軍の両者を敵に回すことになった。
逆もまた然りだ。
ジオンも連邦も、木星からのエネルギー資源であるヘリウム3に依存していたので、木星船団は片側から攻撃を受けるともう片側に泣きつける構造があった。
その後、何度かのネオジオン抗争があったが、ネオジオン亡き今、地球連邦に対する歯止めが利かなくなった。
「なぜ、そのエネルギーを地球の治安維持に割かない……」
誰かがそう漏らす。
しかし、連邦はここまで幾度もの戦いに勝利してきた。
連邦軍の中には戦功を挙げて貴族化した者が溢れ返っていて、彼ら軍民の増長でシビリアンコントロールは失われつつある。
宇宙世紀以前の地球は国家間で絶え間なく争っていたが、国境なき今、地球は私財を肥やした軍人とその荘園、その軍人にこびりついておこぼれを貰う者、そしてそれ以外の遺棄されたに等しい民という図式で急速に塗りつぶされつつある。
この調子で行くと、連邦がエゥーゴとティターンズに分かれて争った先の内乱が再び起きるのも時間の問題だろう。
「地球人は地球人同士で争っていればよいものを!」
ゲザリはマイラ・パルトロの思いもよらない言葉に本気で驚いた。
火星の開発がいまいち上手く行っていないのも手伝ってか地球人はその矛先を木星に向けつつある。
「自らは争い以外の何物も生み出さず、ただ奪って食いつぶす。」
誰がつぶやいたのだろうか。
その言葉にゲザリは迷った。
*****
アガリクス2ではシャオ・イェンがチンペーの父からのビデオレターを受け取っていた。
例の土星経由の通信だ。
「連邦軍は認めないだろうが、イートン家は木星帝国の成立を容認する。今のアースノイドの俄か貴族共が木星に移住したら、木星船団が守り続けた高度なインフラは破壊される。そうなれば、地球圏はエネルギー危機になり、木星圏はバックアップを失って、人類は本当に滅亡する。木星が国家になれば地球連邦と互角に渡り合える。戦いは避けられないだろうが、全ての人類の滅亡と天秤にはかけられない。木星帝国が本格的に独立宣言を行うならイートン家だけではなく、連邦の穏健派のいくばくかは地球の木星船団公社と連携して立ち上がる。頼む、木星圏を国家にしてくれ。私の安い命でよければいくらでも賭ける。」
映像の中にはずいぶんと年を取ったリー大人も映り込んでいる。
シャオはピクリとも動かずにその映像を見ている。
たまたま居合わせたヒカリは再生が終了して止まった画面と、シャオの顔を交互に見ていた。