ヒカリはカラスを見送って、アザニア基地に戻ったところを呼び出された。
木星帝国はカリストに暫定的に首都を置いている。
この前までクロエとミライが匿われていたイオに近いニューコンティキ号基地を再改装して本格的にコロニー化し、木星圏で最も安定したラグランジュ点であるオールドワン近郊に運ぶ計画が進んでいる。
それが完成すると首都はそこに移転するそうだ。
シャオは皇帝になってしまったせいでとてもアガリクス2に引きこもれる立場ではなくなってしまった。
シャオの入れ違いにホアン女史以下数名の資源開発の専門家がアガリクス2に乗り込み、そこでシャオの長年夢見た木星生活は終わり、単なる実用性の高い研究採掘拠点となってしまった。
ということで呼び出されたと言っても、アザニア基地内部の徒歩数分のところに帝国の仮拠点が作られているだけのことなので、家族三人でそこに歩いていくだけの事だ。
「お待ちしておりました、フリース様。」
建物の入り口ではダランと元評議会議長のゲザリが並んで待っていた。
呼ばれたのはヒカリとその家族だが、ミライはなぜか自分だけがフリース様と呼ばれたと思って、胸を張って大股で歩いている。
ダランとゲザリは微笑みながらミライをエスコートしている。
ヒカリとクロエはそのなんだか滑稽な3人に後ろからついていく。
「こちらでございます、お入りください。」
ゲザリもダランもすっかりミライの目線に合わせてお辞儀をしている。
ミライはますます嬉しくなって、今にも跳ね回りたい気持を抑えて、努めて尊大にふるまっている。
ゲザリもダランも途方に暮れながら赤子のシャオを育てた長年の同志だ。
子供が好きなのだ。
しかも、今の木星はあのころとは違って子供が育つ環境が整っている。
ミライとヒカリはその頃の話を少しだけ聞いている。
クロエはニューコンティキ号に「誘拐」されていた間に子供の世話をするダランを何度も見ているが、ヒカリは初めてだった。
ヒカリは実際に大枢党の重鎮たちが自分の娘と一緒にいる姿を見て、伝え聞いていた話の彩度が上がった気がした。
フリース一家は全員がニュータイプだ。
ゲザリとダランの表情だけではなく感情まで「見えて」いる。
シャオ・イェンは苦難の中で育った事は間違いないが、愛された子供だったのだろう。
そう思って見ていると、咳払いが聞こえる。
「……その、なんだ……急に呼び出してすまなかった。」
ヒカリは木星圏のニュータイプの中では比較的感度の低いポンコツニュータイプだ。
対してシャオなどはかなり正確に人の心を読む。
多分、はしゃぐミライにシャオの幼少期を重ねていたのが読まれたのだろう。
照れくさそうにしているシャオ・イェンは初めて見た。
「そこのレディが飽きるとよくないので前置きは省いて……先に制定された木星帝国帝国法に則って貴殿ヒカリ・フリースをゾック卿に叙する!」
「え?俺!?なにそれ!?」
すかさずダランがヒカリに何か耳打ちする。
「謹んでお受けします!」
ヒカリが片膝をつこうとすると、イェンが「いや、そう言うのはいい……ここは木星だから」と止めた。
「えー!パパばっかりずるいでヤンス!!ミーちゃんも何か『お受け』したいでヤンス!!」
「そちらのレディはゾック卿の御息女にあたるので『オナラブル』になるな。」
「なんかヤな響きでヤンス。なんかオナラだし。」
ミライはそこまで言うと目の前の仮面の男をじっくりと見た。
「あー!!お前はミーチャンとママをユウカイした悪者!!」
クロエはそう言われてみるとこの仮面の皇帝は誘拐事件の時しかいなかったことを思い出した。
ミライの中では誘拐したのはシャオで、ダランたちが助けてくれたことになっているのかもしれない。
とりあえず、シャオが怒っている雰囲気もないので、面白そうだから眺めていることにした。
すると、シャオの雰囲気が変わった。
「フッ……フハハハハッ!!そう、余こそ悪の帝王である!!ミーちゃん覚悟ォ!!」
そう言って大げさに諸手を挙げる。
「正体を現したでヤンス!ミライ、負けないでヤンス!!木星はミーちゃんが守るでヤンス!!」
周りで見ている大人はだいたい笑っているが、ゲザリだけがため息をつく。
「ハァ……子供は本気で信じるからやめなさい!!」
最後はシャオがゲザリに怒られた。
誤字脱字乱文などポロポロと気付くと思いますので、しばらくは細かい修正がかかると思いますが、このお話はここでおしまいとさせていただきます。
ご評価、ご感想いただけましたら恐悦至極です。
長らくのお付き合い、ありがとうございました。