機動戦士ゾック~太岁の風   作:スナ惡

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サイコウェーブを捕まえろ

アザニア基地の研究所では日夜、ミノフスキー断章のその先の研究が続いていた。

現在の課題は思念波を電磁波としたときの波長、要するに周波数を特定することだ。

クラーク・フリース、ワタベ、ピョン、リュウの4人の研究者がその難題に取り組んでいた。

 

「ジオンが使ってたサイコミュが一つでも手元にあればなあ……」

 

サイコミュ兵器が思念波でコントロールされているのは事実だ。

ということはサイコミュ兵器は思念波=サイコウェーブが電磁波であるかないかに関わらず、それを検波して動いていることは明白だ。

偶然か必然かも不明だが、ジオン公国軍はサイコウェーブを検波して物体を動かす技術を持っている。

その機構の実物を直接見ることができればそれに越したことはないが、ジオン公国軍が戦争に負けたにも関わらず、その技術が連邦軍に接収されたという噂を聞かない。

一応、ジオンに存在したフラナガン機関という部署がその研究をやっていたとは聞く。

それ以上の情報が出てこない。

ミノフスキー博士の予測した波長はあくまでも「ここからこれぐらいの波長が思念波ではないか?」というレベルのざっくりとした予想で、分かりやすく拡大して考えると、最短で米粒、最長で体育館ぐらいの長さの中に思念波の波長はあるということだ。

サイコミュ兵器の残骸だけでも手に入れたい……という望みは、望み程度にとどめておいて、総当たり方式で思念波を探ることになる。

ただし、ミノフスキー博士の予測する波長はそもそも機械で直接検波できない、一般にガンマ線と呼ばれる領域よりはるかに短く、プランク長の限界よりも長い領域で直接の検波はできない。

なのでヘテロダイン方式で検波することになる。

このヘテロダインとは宇宙世紀になる以前から存在していた技術で、ある波長λ1に異なる波長λ2をぶつけて生まれるうねりを作って、そのうねりで生まれる新たな波長λ3を検波する方式だ。

今回のケースではλ1がミノフスキー博士が提唱したサイコウェーブの波長でぼんやりしてよく分からない。

そのλ1に適当にλ2をぶつけてλ3が検波出来たら自ずとサイコウェーブの波長は特定されるが、話はそう単純ではなかった。

ヘテロダイン方式を使ってλ3がそれでもまだ短すぎて検波できない場合、さらにλ4をぶつけて、λ3とλ4の合成波長のλ5を作って検波することになる。

このヘテロダインを重ねる技術をスーパーヘテロダインと呼ぶが、結局思念波からサイコミュ兵器を動かす意思を取り出すためには何回ヘテロダインを繰り返す必要があるのか分かっていない。

かつ、一回のヘテロダインで検波できるなら波長の特定もさほど難しくないが、複数回必要となるとサイコウェーブの波長が予め分かってないとほぼどうにもならない。

4人は知らないがフラナガン機関はニュータイプと思しき人間を使いつぶしながら、ミノフスキー博士の「思念波=電磁波」説など念頭にない状態で、相当に非人道的な方法でサイコミュを偶発的に開発している。

アザニア基地でも研究に協力しているニュータイプはいるが、あくまでも「一般市民の協力者」であって、使いつぶされるモルモットではない。

手詰まり感は否めないが、そこへ新たなニュータイプの協力者がやってきた。

ヒカリ・フリースだ。

 

「どうも、よろしくお願いします。」

 

クラーク・フリースと他3名がうやうやしく頭を下げる。

 

「やめてよ父さん。」

「実験に参加してくれるニュータイプが一人増えることがどれだけ心強いか、ヒカリは分かってないだろう?」

 

とりあえず、ミノフスキー場で思念波と可視光線以外の波長を遮断した部屋で椅子に座る。

 

「じゃあ、そこで何か念じて。」

 

ヒカリはあっけにとられた。

 

「何か念じたぐらいじゃだめだと思うよ?」

「追い詰められたときにニュータイプが力を発現するのは我々も聞き及んでいるが、電気ショックで痛みを与えるみたいな非人道的な方法はとれないだろ?」

 

ヒカリはステーションの減圧事故の時の経験を思い出していた。

 

「なんか必死になるような……激辛カレーとか食べさせてくれないですかね?」

「激辛カレー!?それは非人道的ではないかね??」

「いや、おなかは減ってるし。」

 

研究室からアザニアの食堂に連絡を取る。

まもなくアツアツの激辛カレーが運ばれてきた。

 

「これが激辛カレー……」

「色がすごいな……」

「ヒカリ!食べます!」

 

ヒカリが思い切ってスプーンを突っ込む。

 

「あれ?そうでもない……あ、だめだ!!これ!!辛いッ!!!辛ッ!!!!」

 

そのころ基地内のカフェで優雅な午後(実際には午前午後という感覚はないが)を過ごしていたイリーナはヒカリの思念を感じ取った。

 

ーーこれはヒカリくん?……もしかして辛いもの食べてる!?

 

五感に近い感覚は比較的読み取りやすい。

 

「そっか……男の子って無茶するから」

 

そして、そのまま恋愛小説とカプチーノに戻る。

そのころ研究所では研究者たちが歓喜の声を挙げていた。

 

「多分、今のは微弱ながら検波したぞ!!」

「データ見直せ!!」

「ほら、ここカレーを口に入れた2秒後ぐらいのところ!!わずかに針が触れてる!!」

「やったー!!これでλ2を見直せば……!!この数字でどうだ!?」

 

4人の白衣が一斉にヒカリの方を振り向いた。

 

「ヒカリくん!もう一口!!」

 

しかし、ヒカリは全身汗だくになり顔面もやや蒼白気味だ。

それでも無理やり口にカレーを運ぶ。

 

「針は……触れない……」

 

そのあと、λ2をいくら調整しても、元に戻しても減少が再現できなかった。

 

「これはもしかして『口が慣れた』んじゃないだろうか?」

「やはり一口目の衝撃には相当の効果があるのか……」

 

ヒカリの方を振り向くと、ヒカリは辛さにやられて唇が震えている。

 

「……このままでは思念波の実験でヒカリくんが廃人になってしまう。」

「すでに、明日の排便時に尻が痛いのは確定しているからな。」

 

ヒカリはその時、「いらんことを言うんじゃなかった」と痛感していた。




お読みいただいている皆さん、本当にありがとうございます。
感想、しおりなどとても励みになります。
また、実はここまで何カ所か誤字修正いただいておりまして、めちゃくちゃにありがたいです。
木星を扱っている本作ですが、構想自体は前回の「翡翠の弾丸」の少し後ぐらいから考えておりました。
当然、矛盾など起きますのでアイディアを全て詰め込むことはできません。
ですが、使えるアイディアとプロットだけ見直してもまだまだ長く続くと思います。
気長にお付き合いいただけますと助かります。
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