機動戦士ゾック~太岁の風   作:スナ惡

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サイコウェーブに連れてって

激辛カレー実験は他の協力者でも一定の効果があったが、やはり一口目だけの限定的な効果だった。

 

「何か他にないか?」

 

クラーク含む4人の研究者は「非人道的ではない」かつ「衝撃的な」体験が無いかを改めて検討することにした。

アザニア基地内で体験できそうなアクティビティを徹底的に洗い出す……はずだったが

 

「ぐぬぬ……」

 

オッサンと爺さんはアクティビティに疎い。

しかも、研究室と自宅を行ったり来たりしている類の人種はより一層鈍感だ。

仕方がなく関係者や縁者、近所の人などに片っ端から聞いて回る。

 

「なあヒカリ、お前んとこのお父さん達、最近何やってるの?」

「なんか『ドキドキする体験』を探すんだって言ってる。」

 

リシュモンとオープンカフェでランチを食べながら、駆けずり回る研究者たちを眺めていた。

おかげさまでヒカリは辛い食べ物にすっかり慣れてしまっていた。

そこへイリーナがやってくる。

 

「整体とかいいんじゃない?」

「それは父に言ってくださいよ。」

「さっきメールしておいた。」

 

かくして、次の日の午後、研究室には整体師がやってきた。

 

「はい!力抜いてくださいね!」

「あー、恥ずかしい恥ずかしい!この格好恥ずかしい!!」

 

整体師がヒカリの股関節を思い切りストレッチしている。

 

「おお!採れる採れる!データがどんどん採れる!!」

 

研究室は大忙しだった。

およそ1時間の施術でも、過去1年分ぐらいに匹敵するほどのデータがとれたらしい。

ヒカリは次の被験者にベッドを明け渡すと肩を回しながら研究室をあとにした。

 

「あー、めちゃくちゃに体が軽い。」

 

整体を受けている最中は生きた心地がしないが、終わってみると心身ともにすっきりしている。

これは確かに非人道的ではない。

 

ーー誰かが!……整体を受けている!?

 

急に誰かの思念波が飛んできた。

ヒカリとほど近いオープンカフェでおやつを食べていたイリーナが同時に反応した。

 

「そりゃそうだ。」

 

ヒカリはそう呟くととりあえずイリーナの座っているカフェテーブルに近づく。

 

「整体、ナイスアイディアでしたね。」

「別に危険はないはずなんだけど、たまに生命の危機を感じるじゃん?あれが多分いいんよ。」

 

ヒカリは一旦、イリーナの前を素通りしてカフェのカウンターへ行くと、自分の飲み物とクッキーをもって戻ってきた。

 

「イリーナさんはなんでニュータイプだってことを隠してるんですか?」

「単に隠すのに成功したからとしか……軍が研究のためにニュータイプをかき集めてたことがあって、私はもっと前から人の心みたいなのぼんやり読めたから、逆に逃げれた感じ?軍に入ったのもニュータイプ探しの情報が分かれば、逃げ方も分かるって思ったから。」

「したたかだなあ……」

 

ヒカリは素直に感心した。

 

「ただ正直、ここまで来て隠さなくてもいい気はしてきた。」

「まあ、木星圏ですからね。」

 

地球圏ならまだしも、ここへはニュータイプ狩りは来ていない。

 

「だから、せっかく無料で整体受けれるようになったし、バラシて研究に協力するのもいいかな?って」

「したたかだなあ……」

 

実際にそこから1週間ほどたつと思念波として使われている波長の範囲はぐっと絞られてきている。

分かりやすく例えるならアンパンとゴルフのグリーンぐらいまで絞られてきた。

また数学的な研究や、スーパーヘテロダインに用いる発振機の精度もぐっと向上した。

それによって、より微細な思念波を検波することができるようになった。

こちらは例えるなら、これまでは列車の正面衝突事故ぐらいじゃないと探知できなかったのが、今では自動車の単独事故でもギリ感知するようになったとでもいおうか。

これはまだサイコミュ兵器のようなものを3次元的に動かせるほどではない。

ただ、そこまで可能になるのも時間の問題だろう。

 

ーーこれは!!……イリーナさんが背中をボキボキされている!?

 

ヒカリは不意にイリーナの思念を感じ取った。

 

「そりゃそうだ。」

 

ヒカリは自室で自分の整体の予約時間を確認すると、のろのろとシャワーを浴び始めた。

 

*****

 

そのころリシュモンはオズモンドと一緒に停泊中のジュピトリスを訪れていた。

J・メチウスステーションで出会った謎の青年から聞いた自己修復する塗装の可能性を探りに来たのだ。

開発担当者らしき男がリシュモンの話を頷きながら聞いている。

 

「なるほど、恐らく表面張力を利用しながら塗装に磁性体を混入すれば行けるんじゃないでしょうか?あとは適当な繊維質ですかね。明日か明後日には簡単な実験ができると思います。」

「俺はこのままここに残れるけど、オズモンド姉さんは?」

「あたしゃ仕事が溜まってるから駄目よ。今日帰らないと。」

 

リシュモンは乗ってきた船をオズモンドに預けて、自分はジュピトリスに残ることにした。

翌朝、「材料が融通できたので」と声をかけられて工場区へ赴くと、昨日話した開発担当だけではなく、数名のメカニックが急増の実験装置を囲んでいる。

 

「実験、はじめ。」

 

サンプルの金属板を塗料が覆っていく。

 

「真空中ではこの流体のままの塗装でも十分役に立ちそうです。塗装したくない場所には、逆にこの撥水する塗料を塗っておけば広がりません。まあ、水ではないので『撥水』という表現は正確ではありませんね。」

「いや、十分わかるよ。」

 

開発チームは話をつないだ。

 

「例えば木星大気みたいな流体中では流体によって塗料が流されてしまいます。これは塗料の粘り気を調整したりすることで解決できると思われます。研究の余地はありますが、面白いことになりそうです。」

 

リシュモンは大満足だった。

現在、水素脆化に最もさらされているのは無人のポンプで、その次はポンプから採掘船に原ガスを送るパイプだ。

ポンプに関してはそこそこメンテ性があるが、パイプはほぼ毎回交換となる。

ポンプと採掘船をつなぐパイプはめちゃくちゃに長い上に高価だ。

その長さのパイプで実験するとなると、とてつもない予算が必要になる。

 

「このシステム、一旦、ボールに搭載できないか?」

「割と簡単だと思いますよ。やってみましょう。」

 

この実験機は太岁球1号と名付けられることになる。

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