「おっほ!すごいじゃん!」
リシュモンは歓声を上げた。
「木星大気圏内活動用モビルアーマー実験機太岁球1号です。」
「でかいねえ……いいね!」
木星圏で活動するボールに地球圏で作られた払い下げはほとんど存在しない。
木星圏まで運ぶだけ無駄だからだ。
したがって、地球圏と同じサイズで作る必要もない。
つややかな真っ白い塗装は例の「硬化しない」流体の塗装だ。
「小型核反応炉内蔵、ジャイロ姿勢制御、熱核パルスエンジン、自己焼成スラスターノズル、耐水素流体塗装システム。ざっとこんなもんです。」
「詰め込んだねぇ……」
テストパイロットが乗り込んで、ジュピトリスから発進すると、軽くその辺を流して運動性能を見せ付けた。
「急制動時に若干の塗料の損失はあるようですが、粘度の調整も含めて改善の余地はまだあります。また、加速時などは塗料の流れの上流と下流が出来るのですが、下流に流れた塗料を表層から回収して、機体内部を通して上流に戻す装置が組み込まれています。」
「あー、なるほどそんなのもありなのか。」
開発チームは帰艦したボールを再点検している。
「点検時には機体の塗装を全て機体内部に回収することで、メンテナンス性も向上出来ることが分かりましたが、やはり普通の塗料に比べると格段に高価です。」
「だとしても、この技術がありゃあ採掘パイプを毎回新品にするよりは安上がりだろ?」
「それは勿論です。」
木星に突っ込む採掘パイプ全てを水素脆化に耐える合金に変える事は出来ない。
単に強度や柔軟性の問題だ。
「とりあえず、このボールは俺が貰ってく事にするよ。ここの技術があればもう一機作るぐらいワケ無いだろ?」
リシュモンの言葉に開発陣は気色ばんだ。
「こ、困ります!」
「その代わり、土産は持ってきたからよ。あそこに浮いてるコンテナ、生活物資と食料が満載されてる。持ってけ。」
チームが黙り込んだ。
「そう心配すんな、足はつかねえよ。生活物資、困ってんだろ?」
リシュモンはここのジュピトリスの開発チームには最近、話題の大枢党が関わっていると看破していた。
なんならステーションであった銀色のゴーグルの青年がそうであることも見抜いていた。
「もし会えたらゴーグルの兄ちゃんに伝えてくれ。あの時は助かったってな。」
リシュモンの調べによると大枢党はモビルスーツを新造するほどの物資を持っていない。
大っぴらに物資が使える現役のジュピトリス級に党員が潜伏して各種開発を行っていることは想像に難くない。
リシュモンはその事情を知ったうえで、大枢党員の潜伏先と思しき停泊中のジュピトリスにカリスト作業機械試験場から正式に開発依頼を入れた。
開発以来と同時に余剰に調達した物資も提供した。
そうする事で大枢党に助け舟を出した形だ。
リシュモンは誰かの味方をするつもりはないが、ステーション事故でたくさんの人間が助けられた恩と、流体塗装技術をリークしてくれた恩には報いるつもりだった。
何も言えずにリシュモンを見送る面々に
「アイツ……あのゴーグルの奴、ボールの操縦上手かったからな……多分、あっという間に乗りこなすぜ」
と言って、その場を後にした。
*****
「その結果、私の所に来たのは大岁球2号ということかい?」
「その様でございます。」
シオは「アッハッハ」と豪快に笑った。
ダランは恐縮しているが、シオは気にしないようだ。
「多分、1号より2号の方が出来が良いと思うぞ。実験機というものはそういうものだ。しかも、余剰資材と生活物資まで手に入ったんだろう?リッシュモンという名前だったかな?律儀な男だ。」
ダランはシオの怒りを買わずにほっとしていた。
実際、シオが怒ったところはほとんど見たことがないが、ダランは常に緊張感を持って接するように心がけていた。
「ダラン、こいつの開発に尽力したチームの連中を労ってやってくれないか。」
「心得ました。」
ダランは命令を遂行するために、すぐに部屋を出ようとした。
「あと、もう一つ。」
「はい、なんでしょうか?」
シオは笑顔を崩さずに言った。
「リッシュモンには今後迂闊に近づかないように党員全員に伝えておいてくれ。決して刺激もしてはいけない。」
シオはうやうやしく頭を下げるダランに
「これは何というか……ニュータイプとしての勘だ。」
と言った。
あの日、シオはリシュモンの感情すら読み取れなかった。
シオは、恐らくアレが対ニュータイプ訓練を受けた人間なのだろうと考えていた。