機動戦士ゾック~太岁の風   作:スナ惡

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君と思い出♡ペガサス級!

クルマタニは解説を続けた。

 

「楽曲ごとにアルファベットを当てはめれば、曲を順番に流すだけで暗号として成立するんです。」

「うん……なるほ……ど?」

 

クルマタニは例を挙げて説明した。

 

「例えばよく知られているキリスト教徒の讃美歌を使って『GO EARTH(地球行け)』を暗号にすると、このように曲を並べる方法で伝えられます。」

「どれどれ?」

 

クルマタニがネットで讃美歌のリストを見ながらその辺の紙に書きなぐる。

 

ーーーーー

 

#1 God the omnipotent(全能の神は)

#2 O worship the king(天地の御神をば)

#3 My old kentucky home(ケンタッキーの我が家)

#4 Etarnal father strong to save(とこしえの父は荒波治め)

#5 Angel we have heard on high(天の御使いの)

#6 Rejoice the load is king(喜べ主を)

#7 The lord is my shepherd(主は我飼い手)

#8 Herk! the herald angels song(天には栄え)

 

ーーーーー

 

「こんなもんで暗号になります。本当は『GO TO THE EARTH』が文としては正しいのですが、こういう場合は短くするために短くするんです。分かりやすいようにわざと1文字目だけ大文字にしてます。」

「一曲だけ讃美歌じゃないよな?」

 

カーン所長が突っ込むとクルマタニは嬉しそうに答えた。

 

「そうです!この一曲だけ讃美歌じゃない曲なので、ここが空白だと分かります!」

 

ヒカリとオズモンドが困惑している。

 

「え?分かんない!皆、分かるの??」

 

リシュモンが紙を指さしながら言う。

 

「曲名の1文字目つなげて読んでみ?」

「『G・O・M・E・A・R・T・H』……ゴメアース?」

 

オズモンドは理解したようだ。

 

「いや、ヒカリくん、『My old kentucky home』は地球連邦の北米のケンタッキー州の曲だから。その曲は無視して空白扱いにするの。」

「え?皆さんそんなに讃美歌に詳しいんですか!?」

「違う。この曲は曲名にもろ『ケンタッキー』って書いてあるやん?」

 

誰かが「My old Kentucky home」を鼻歌で歌い始めた。

 

「あ、そのメロディー聞いたことある。」

「まあ、そうでしょ。」

 

イリーナがしげしげと紙を見つめる。

 

「いやーしかし、ケンタッキー州歌以外見事に分かんないわ。」

「『Angel we have heard on High』分かんないか?グロー……オオオオオー……オオオオオー……オオオオオーリアー……インエクセルシスデーオって歌。」

 

リシュモンに言われてもイリーナは首をかしげる。

 

「いや、聞いたことない。」

「クリスマスの有名な曲なんだけどな?」

「私の実家、そういうのやらなかったから。」

「リシュモン、意外と歌うまいね。」

 

最後のはカーンとオズモンド、ヒカリが同時に言った。

 

「皆、ありがとう。そんなことはいいんだよ、ミノフスキー断章陰謀論者が使ってると思われる暗号だよ。」

 

クルマタニは本筋に話が戻ってきたのを確認して、説明を再開した。

 

「あらかじめ、このアイドルグループの曲にアルファベットを当てはめておきます。そして曲を順番にかければ暗号は完成です。とりあえず僕はこのアイドルの曲が使われてるような気がするんですけどね。」

「解読は?」

 

オズモンドの問いにクルマタニは首を振った。

 

「無理でしょうね。こういう暗号は換字式暗号(かえじしきあんごう)って言うんですが、こいつの解読にはサンプルが沢山必要なんです。シャーロック・ホームズの『踊る人形』を呼んだことある方はいます?」

 

全員が首を振る。

 

「一応、ここ最近で音楽専門チャンネル他で流れた、この『君と思い出ペガサス級』の楽曲の再生比率を調べたんですが、一番怪しいのがこのSNSの個人のファンアカウントっぽいやつが曲紹介の投稿してるやつで、各楽曲の投稿比率が古い曲に偏ってるんですよ。逆に最新の曲は少ない。暗号の読み方を地球圏から木星圏までレーザー通信で飛ばすとバレバレなので、暗号のルールを何らかの方法で運んでこないといけない。地球圏から木星圏に船が出る間隔がおよそ13か月に一度で木星にたどり着くのに24か月程度かかるので、新しい暗号のルールが地球ないし木星で作られてから双方で共有できるのは24か月後、しかも更新のタイミングは13か月に1回。この前、地球圏から船が来たタイミングから、さらに24か月引くと、このファンアカウントが投稿してる曲が作られた時期と重なるんですが、問題があって。」

「あって?」

 

クルマタニが端末のモニターに移しているのはどうやら曲の紹介の投稿の頻度の表のようだ。

 

「紹介投稿されている曲に偏りがないんです。別のファンアカウントの投稿と比較すると『古い曲の紹介がメイン』って事を除けば不自然に偏りがない。恐らく、暗号を送る際に暗号が送られた日付とかで符丁が変わるんですよ。どの曲が、どのアルファベットを表すか……っていう対応表みたいなのが、何日に投稿したかで変化してるはずなんです。」

 

イリーナとリシュモンは納得しているようだ。

 

「暗号の符丁はジオン公国軍でも使ってたから分かる。」

 

イリーナの言葉を受けてクルマタニはさらに続けた。

 

「このファンアカウントがもし本当に暗号通信用だとすると、カモフラージュのために普段からいろいろ投稿してるんですよね。ここでずっと暗号通信をし続けてると、暗号解読のためのデータを吐き出し続けることになってしまうので、多分、普通の投稿と暗号とを見分ける方法があるんですよ。しかも、これだけ言っておいて何ですが、このファンアカウントが本当にただのファンで、暗号通信に使われてるのは他のサブカル向けのラジオとかかもしれない。」

 

リシュモンは何か考え込みながら話を聞いていたが、思いついたようで口を開いた。

 

「俺がもし、そのアイドルを使って暗号を作るなら、地球から木星に符丁を送る段階で先に年間でリリースする曲名だけはもう決めちゃってるな。」

「どういうこと?」

 

ヒカリはこの話はだいたい苦手なようだ。

 

「別に暗号のために曲名だけ先に作っておいて、2年の間にリリースすれば暗号としての用は足りる。ただこれはアイドルの運営に暗号を作ってるやつが入り込んでいたら?って仮説に基づくものだがな。」

「その2年の間にアイドルグループが解散したら大変な事じゃない?」

 

リシュモンは唸った。

 

「アイドルグループとかすぐ解散するイメージあるもんなあ……」

「むしろ、解散しても全然おかしくない状態で無理やり存続していたら、怪しいって考え方はどうだ?」

 

カーン所長の言葉にはイリーナが反論した。

 

「そういうアイドルグループも山ほどいます。」

「いますねえ。『もうあきらめろよ』って思うのに無理やり続けてるアイドルグループ。」

 

クルマタニが同調する。

 

「これは……解けないな。解けない!とあえて断言して、別の方法で探ろう。」

 

ヒカリが挙手した。

 

「一ついいですか?」

 

オズモンド所長が「なんでも言いな?」と促す。

 

「暗号のためにアイドルの情報を見続けるのって、だいぶんストレスたまるので、そういう精神状態の人をニュータイプ能力で探すのはどうでしょうか?」

「却下!最初にした話忘れたの?盗聴器仕掛けた段階でニュータイプが気づいてないんだから高確率で対ニュータイプ訓練受けた奴が相手だと思うってハナシ……」

 

ヒカリが「あああ」と崩れた。

ところがカーンはその思い付きを拾った。

 

「そのアイディア行けるかもしれん。ワシ、医者だから、ストレスはある程度見抜けると思うんだ。診療所でそのアイドルの曲をかけて、ストレス反応を起こす奴がいたら、そいつを疑えばいい。……いや違うな?」

 

カーンは自分で言い出して自分で否定した。

 

「アザニア基地でそのアイドルの曲をかけまくって、体調悪くなった奴がいたら勝手に診療所に来るんじゃないか?そいつが対ニュータイプ訓練を受けてるかどうかは診療所に誰かニュータイプが常駐してれば、すぐ気づくだろ?」

 

一同、カーンを疑いのまなざしで見ている。

 

「なんか雑じゃないですか?」

 

カーンは胸を張った。

 

「お前ら、音楽によるストレスをなめるなよ?宇宙世紀前にはすでに音楽のストレスの研究はされていたんだ。例えば24時間のコンビニエンス、ドラッグストア、スーパーマーケットなどでその店のテーマソングを流し続けるとどうなるかってのを調べた奴がいたんだ。」

 

ヒカリが露骨に嫌そうな顔をした。

 

「拷問ですね。」

「でも、実際有ったんだ。結局、どうなるかと言うと無音になると、職場で聞いていた曲が聞こえているような状態になって、無音だと眠れなくなったりするんだ。なんか騒音がないと寝れないみたいな睡眠障害を起こしたりするケースもある。特に夜勤で聞き続けた人間は枕から店内音楽が聞こえてくるような幻聴に近い症状が出たりもするんだ。」

 

オズモンドが「ちょっとわかるかも」と漏らした。

カーンは自分のプランをさらに推してきた。

 

「失敗しても、我々が暗号を使ってる人間を探している事がばれないというメリットがある。成功率が低くてもリスクが低い。盗聴器は泳がせすぎると逆に怪しいから、そのうち取り締まるとしても、まさか基地内でアイドルの曲を流して作戦の漏洩を疑う工作員はおらんだろ?」

 

確かにそれはそうだとみんなが納得したところへ、オズモンドが提言する。

 

「そのためにはまずアザニア基地所長であるカーン所長がアイドルにハマったことにするのが近道か?」

 

イリーナが反論する。

 

「私だったらストレスの原因を作った医者の診療所には行かない。」

「それはそうか……」

「副所長がアイドルにハマる?」

 

カーンが悲しそうに首を振った。

 

「副所長は下手するとそのスパイ本人の可能性がある。……連邦に近い人間だ。だから、お前だな。」

 

カーンはリシュモンの肩を叩いた。

 

「お前がアザニア基地に『君と思い出ペガサス級!』を布教する活動をしろ。説得に応じてワシが認めた形にしてやるから。」

「え!なんで俺が!?ヒカリでもいいじゃないですか!!」

 

カーンが首を振った。

 

「ヒカリはダメだ。出会い系で彼女探さないといけないから。」

「え、マジ?」

 

リシュモンとヒカリがうなだれているところにクルマタニが口をはさんだ。

 

「正式には『君と思い出♡ペガサス級!』と真ん中にハートマークが入るようです。」

 

リシュモンは何か言おうとしてやめた。




誤字修正、誠にありがとうございます。
あと、今回の話、二つに分ければよかった……

【追記】
今回、文中に「Angels We Have Heard on High」のラテン語の歌詞「Gloria in excelsis Deo」が含まれておりますが、作詞者の没後恐らく100年以上は過ぎていると思われますので楽曲コードは不記載とさせていただきます。
本件について、何かご指摘有りましたら、よろしくお願いいたします。
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