機動戦士ゾック~太岁の風   作:スナ惡

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大枢党と船団公社

木星船団は公社化する折に体制を変えていた。

まず事実上の最高権力機関であった理事会は、理事会議長自身の提案で解体されていた。

同時にこれまでなし崩しに選ばれていた理事たちは一旦解任され、木星圏の各基地・エリアごとに中央評議会に評議員を派遣するシステムに移行していた。

その評議員たちにも最長4年と言う任期の縛りがある。

前理事長自身もそれによって権力を失ったが、そんなことはどうでもよかったようだ。

これによって木星圏から「地球連邦派対旧ジオン派」のような地球圏での権力抗争の写し絵的構図があらかた剥がれた。

木星船団公社中央評議会は木星のための機関なのだ。

そうなると地球圏や火星圏はエネルギーの供給源の木星圏から見捨てられないか?と言う疑念が湧くが、その心配は当面ない。

木星ではエネルギー資源は無尽蔵でも、有機物や特に金属などの重い元素は地球圏からの輸入に頼っていた。

だから現状、木星圏と地球圏はギブアンドテイクの関係を保っている。

重ねて強調するが木星船団公社中央評議会は徹底して木星のための機関なのだ。

ところで、木星での地球産輸入物の価格は驚くほど高価だ。

それらはジュピトリス級の復路で地球からもたらされる為、単純な市場価値を反映すると、木星圏での一人の人間の生活費は小国の国家予算レベルになってしまう。

そこに迂闊なヘッジファンドが入り込むと、木星圏はあっという間に干からびてしまう。

木星圏が干からびれば地球圏はエネルギー危機に陥る。

その「迂闊なヘッジファンド」は当然、地球のエネルギー危機すらも儲け話に変える事ができる。

なので、地球圏の中で許されているような自由経済は木星圏では許されていない。

地球圏と木星圏の間の交易ではそれはさらに厳しくなる。

木星圏では(今のところ起きていないようだが)貧困は死を意味する。

人間誰だって死の危機に瀕すれば無茶な事でも何でもやる。

そうした事情で木星圏は社会主義的に運用されている部分が大きい。

それを先導していたのが旧理事会の理事たちで、彼らは地球圏で多くの社会主義国家が踏んだ轍について熟知していて、また常にその歴史に怯えていた。

その怖れが今日まで木星圏を支えていたのだが、彼らは自身らの作った権力構造の脆さにも怯え続けていた。

それが今回の公社化に伴う組織再編だ。

理事会は解体され、評議会は「各基地、各エリアごとの自治と連携」の色を前面に押し出した形になった。

また新設された評議会のゲザリ議長は木星圏を知り尽くした女傑で、理事会解体の理由と経緯を完全に理解していた。

当然、旧理事会で理事をやっていた人間も評議員としてちらほらカムバックしているが、ほとんどの旧理事は自身の拠点に引きこもって評議員を選出して評議会に派遣する立場になっている。

そして、その全員が公社化した木星船団に一片たりとも地球のパワーゲームを持ち込まれてたまるものかと考えている。

それがひいては地球圏のためでもある。

以前の理事会は全ての施策に首を突っ込んでいたが、これからは違う。

元より公社の中には業務ごとに様々な部門がある。

例えば地球圏との取引は渉外部、災害出動には保安部というように船団公社の業務を行うために元々存在していた各部門の部長ないし部長補佐も評議会に出席する。

そして地球連邦やその他の自治圏からも全権特使が評議会には出席する。

これで、これまでの理事たちがボンヤリと連邦派、旧ジオン派の体裁を保つために見せかけの対立をしていた無駄が省ける。

評議会は各部門に業務を要請したり監査を送り込んだり、はたまた部長を解任したりする、各部門は監査や解任は断れないが業務の要請を断ったり承諾したりできる。

またその評議会の中では地球連邦の特使はお気持ちを表明することができるが、住んでいる場所は木星圏なので、その生活費の高さを地球圏へ送りつけて、地球連邦の人間の目を覚まさせる大事なお勤めを果たすことができる。

要するに「木星圏と地球圏の経済を地続きにすると、共倒れするぞ」という事だ。

地球圏は古くからの悪習で権力者が擁立されることも多いため、木星圏についてよからぬことをたくらむ愚か者もいる。

ただ、そういう横暴な人間にはちょっとした木星圏での経済的失敗の責任を負わせてやれば……例えばあるステーションのお湯が12時間出なくなったとかそういうレベルの失策を擦り付ければ、巨額の賠償金で家名ごと地球の塵芥となって消える。

そんな新生評議会とゲザリ議長に早速難題がやってきた。

大枢党の代表者としてシャオ・イェンが評議会にお詫びと挨拶がてら参考人待遇で出席したいと申し入れてきたのだ。

大枢党はそれに先駆けて大枢党内の政治的な経緯と弁明を資料と共に評議会に送り付けていた。

まず、木星圏開拓第一世代ともいえるリーによる大枢党の独裁があった事、その独裁体制から大枢党が民主的な運営方針に切り替えたこと、リーとその一派を大枢党から追放したこと、追放された一派は船を一隻かっぱらって土星へ向かったことなどである。

また大枢党はFCC搭載機による木星大気圏内への突入調査の膨大なデータも評議会へ提出していた。

そのデータとFCC技術があれば革新的なポンプ船の開発が可能であり、また資源の汲み上げパイプの寿命も大幅に伸ばせる。

大枢党が長い年月、木星圏で略奪行為を働いていたことは事実だが、確かにここ数年、略奪が起きていないのは事実だ。

リーとその一派を追放して新体制になったという話も納得がいく。

しかも、大枢党は必要であれば党を解党して新たに「イオ兄弟団」のような当たり障りのない名前で評議会入りを目指してもよいとも言っている。

評議会で慎重な議論が重ねられる中、ゲザリ議長は自分を指名した旧理事会の連中を心の中で呪った。

ゲザリがそもそも大枢党の党員であるからだ。

新生評議会の中にも大枢党の党員は何人か混じっている。

ただし、それぞれが自身の居住する宙域や基地の代表として評議会に参加しているので迂闊な事は出来ない。

そのしがらみがないのはゲザリだけだが、安易に大枢党に有利な方向へ議論を誘導すると、せっかくこのポジションについたのに大枢党に対しても自分にとっても何の功績も上げずに不信任で放逐されるのは目に見えている。

シャオ・イェン党首にもQにも「どうしろ」とは一言も言われてないだけに判断が難しい。

仮に大枢党員が評議会の過半数を締めていたとしても、無理な決議はできない。

評議会になって権力が小さくなったせいだ。

議決が各エリア・基地の意に反するものである場合、各基地や各エリアは自らが任命した評議員を解任して、再議決の請求ができる。

大枢党員が多い宙域はあっても、大枢党はあくまでも少数派だ。

木星船団公社には名ばかりの社長もいるが、名ばかりと言うだけあって、その社長であっても独断専行はできない。

あくまでも、合議で辿り着かなければいけないのだ。

ゲザリは当然のように結論の出なかった議場を出ると、ウエストポーチから胃薬を出して水も飲まずに飲み下した。

 

「正念場ってやつ……!」

 

そう呟くと、議場からさほども離れていない宿舎の自室へ向かった。

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