機動戦士ゾック~太岁の風   作:スナ惡

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リシュモンの憂鬱

「もう一度聞くぞ!?なんでカリスト基地が……お前がその技術を持ってるんだ!!リシュモン!?」

 

リシュモンは木星船団公社保安部の取調室にいた。

 

「だから……まずステーション減圧事故の時にたまたま一緒に救援活動に参加してたのが……その大枢党の人だったんだろ?……その時は知らなかったけど。」

 

ウソ発見器代わりに同席しているニュータイプの保安係が首を振る。

リシュモンの心はニュータイプには読めない。

 

「それで、無駄話してた時にFCC技術のこと教えてもらって、減圧事故の後、暇だったからFCCの開発頼めそうなところはないかな?って探したら、イオの近くの実験設備っぽいところでこっそりボールを開発してるの見つけちゃって。」

 

ちなみに「イオの近くの実験施設っぽいところ」はリシュモンの口から出まかせだ。

 

「どうも、大枢党の機体っぽかったからかっぱらった。証拠に今の今まで通報もされてない。」

「なんで今まで報告しなかった!?」

 

保安部の質問に、リシュモンは取調室の椅子の背もたれにゆっくり体を預けながら。

 

「たかがボール1機でそんなに問題になると思ってなかったんだ。そもそも『大枢党っぽいな?』と思って、かっぱらって通報されなかったらそうかな?と思ってパクったのをそのまま忘れてたんだよ。」

 

と開き直った。

 

「な・ん・で!その時に通報しなかった!?」

「過去に『こいつら大枢党です』って言われてまともに保安部が捜査したことあったか?」

 

保安部の男性が苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「……だったら!……お前が大枢党員じゃないという保証は?カリスト作業機械試験場が大枢党のイキのかかった施設って事じゃないのか??」

 

リシュモンは保安部の二人を睨みつけた。

 

「それは何度も言ったろう?俺はそもそもカリスト作業機械試験場の職員じゃなくてバイトだ。しかも試験場は2年前に大枢党の襲撃を受けてる。疑うならその時にまともに捜査しなかった保安部の内部調査をしろよ?おたくには腕のいいニュータイプがいるんだろ?……俺の心は読みにくいらしいが、保安部の人間の心は読めるんだろ?しっかりしろよ、ハナシが分からないガキじゃねえんだろ?2年前、カリスト作業機械試験場が襲撃されて何機かモビルスーツがパクられたときに、『大枢党の仕業』って発表してからロクに追跡捜査しなかったのは誰だよ?そんな『大枢党です』って自分で言っても捜査しない連中に、どこのバカが『大枢党かもしれない』って言って通報するんだよ??」

「屁理屈を……」

 

相手が言い終わらない前にリシュモンは急に立ち上がった。

 

「分かった、頭がよくないお前に分かるように言ってやる。俺はお前も大枢党の人間じゃないかって疑ってるんだよ?というか保安部の人間は全員そうじゃないかって事だ。だから試験場の事件も調べなかった。そうすれば辻褄が合うよな?」

 

保安官は激昂して何か言おうとしたが

 

「そうだよな!!」

 

とリシュモンに一括されて黙った。

横で調書を取っているニュータイプらしき保安係も、リシュモンのあまりの迫力に椅子からずり落ちている。

 

「……そ……そんなことは」

「もし仮にだぞ?お前ら保安部の誰か一人でも大枢党の人間で……組織ぐるみで大枢党の過去の略奪事件に関わっていたとする。……にもかかわらず俺や試験場の人間を一人でも監獄行きの船に乗せてみろ?」

 

しばらくは誰も声を発しない時間があった。

空調の音がやたらと耳にへばりつく。

リシュモンは急に態度を軟化させた。

 

「君たちを、まだ人類が足を踏み入れてない小惑星の開拓団に指名してやる。俺が直々にだ。」

 

保安係の二人は生唾を飲み込んだ。

確かにリシュモンは開拓関係の人材スカウトの肩書を持っている。

 

「あるんだよ……有望なところがいくつか。地殻がドライアイスで出来てるんじゃないか?って小惑星とか、アンモニアがたっぷり採れそうな所とか……当然、俺もついてってやるから心配するな。万が一、事故で死んでも家族にはたっぷり保証金が支払われる。危険だが別に違法な仕事でもない。木星船団からも地球連邦からも認められているお堅い仕事だ。運よくアクシズみたいなドでかい岩石型の小惑星を見つけた日には、発見者のお前らの名前が永遠に岩肌に刻み付けられる。それが核パルスエンジンを灯して地球圏に凱旋するんだ。偉業だよ。お前らも英雄になりたいだろ?」

 

リシュモンはほどなく解放されて、保安部の廊下を歩いて帰る。

とはいえ、中央から保安係がアザニア基地内の保安部に派遣されて来ているだけのことなので、扉を一枚くぐれば見慣れたアザニア基地の本部だ。

リシュモンは近場のスーパーで下着売り場に入ると女性の店員を捕まえて「プレゼントなんだけど」と相談を持ち掛けた。

そして、ショップバッグに女性モノの着替えを一式詰め込むと他にもいくつか買い物をして保安部に戻ってきた。

先ほどリシュモンに一喝されていた保安係が、今度は顔面を腫らして廊下のベンチに座り込んでいる。

リシュモンはその横に座って、ショップバッグを開いて見せた。

 

「お疲れさん。これ、試験場のオズモンド所長の着替えだ。渡しといてくれ。あと、こっちは歯ブラシとタオル。後こいつはお前さんがオズモンドに殴られた時のためのアイスパックだ。」

 

そういうとリシュモンはタオルに包んだアイスパックを保安係に渡した。

 

「……なんで、殴られてるって分かった?お前もニュータイプか?」

 

リシュモンは首を振る。

 

「そんな能力は俺にはないよ。カリストに住んでる奴なら誰でも分かるこった。キミ、木星はまだそんなに長くないんだろ?」

「……実はそうだ。」

 

リシュモンは憐れみを帯びた仕草で保安係の肩を叩いた。

 

「まず、オズモンドのパンチがヤバいってことを伝え忘れたのは俺の失敗だ。素直に謝罪する。あと、オズモンドは気にせずに三日ぐらい留置していい。あいつは……そう、慣れてるから。そんな事ぐらいで君たちを恨んだりしないよ。あと、さっき取調室で俺が言ったのは脅しじゃなくて本当だ。今回の捜査にキミが任命されたのはよく言えば貧乏くじ、悪く言えば新人いびりだ。保安部は脛にずいぶん傷がある組織で、今回の捜査で下手を打つとキミはタダじゃすまない。きっともうすぐ評議会みたいにもっとまともな組織に生まれ変わるけど、少し時間がかかる。」

 

保安係は顔面を冷やしながらため息をついて頷いた。

リシュモンはベンチから立ち上がると、もう一度、保安係の肩を叩いた。

 

「あのニュータイプは君のお目付け役だ。出し抜く方法はないから誠実に仕事をすることだ。オズモンドには大人しくしていないとカーン所長が食事制限付きの肝臓の検査入院を入れたがっていたと伝えてくれ。きっと大人しくなる。」

 

保安係は弱弱しく片手をあげた。

それを見てリシュモンは保安部を後にする。

そこへちょうどヒカリが現れる。

 

「リシュモンも取り調べ?」

「終わった。ガツンと言ってやったぜ?」

「所長は?」

「オズモンドは……まあ案の定『ガツン』とやったらしい。」

 

ヒカリはその様子を想像して納得した。

 

「ヒカリは取り調べは?」

「もう受けたけど、保安係にニュータイプがいたでしょ?別に疑われたわけでもなく。正直に聞かれたことに答えたよ。」

「まあ、賢いやり方だな。」

 

ヒカリはクロエと約束があると言ってリシュモンと別れた。

 

「さて……こいつをどうするかな?」

 

リシュモンはポケットからくしゃくしゃになった紙を取り出す。

紙にはざっくりと

 

-----

 

ベン・リッシュモン殿

このたび貴殿を木星船団公社保安部の第2課課長に任命します

 

-----

 

と書かれていた。

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