機動戦士ゾック~太岁の風   作:スナ惡

45 / 147
新体制

リシュモンに木星船団公社保安部長の肩書きがつく。

保安部から大量の退職者が出たのが原因だ。

それら全てが大枢党の人間だと目されていた人間で、退職はイェンの指示によるものだろう。

リシュモンはこうなることを期待はしていたが、イェンが思ったよりも早く動いたことと、異様に素直だったことに舌を巻いていた。

大枢党が公社に対して融和策を取ろうとしているのは誰の目から見ても明らかで、それが仮に罠だったとしても、大きな変化だ。

大枢党は影の支配者とまでは言えないが、木星圏のもう一つの政府と言える存在だ。

公社化する前から保安部の要職は大枢党員に占められていたようだ。

その甲斐あって過去の保安部は大枢党のオイタに公然と目を瞑ってきた。

公安部の掌握は大枢党にとって大きなアドバンテージであったはずだ。

リシュモンも当初の人事部の目論見に乗っかって、内部抗争で解決も致し方ないと考えてはいた。

そこをたまたまイェンと鉢合わせたので、手を引くように勧めてみただけのことだ。

 

「あっさり手を引き過ぎなんだよな」

 

保安部に党員を潜り込ませるのも並大抵の労力ではなかっただろう。

 

「いや、逆か?」

 

保安部の人間が党員になったのかもしれない。

ビジター用の宿舎の一室でリシュモンは考えを巡らせ続けていた。

リシュモンは具体的にモノを考えるのをやめて、勘と雰囲気で捉えることにした。

 

「俺の勘は……どう見る?」

 

しばらく目を閉じて心を空っぽにする。

まるでクリスマスプレゼントを開けるように新鮮な気持ちで問題に相対してみる。

 

「そうか、情報が足りねえんだな。」

 

リシュモンはそう呟くと、止まっていた身支度を再開した。

鏡の前で髪をさわる。

果たして保安部の人間たちは、急に降って湧いたアフロヘアでアゴヒゲで腹が出始めた小男を新しい上司だと認めるだろうか。

そっちの方がよほど難問だ。

リシュモンが鏡とにらめっこしていると部屋の呼び鈴が鳴った。

 

「どうぞ入って」

 

入ってきたのは人事部長だった。

 

「正式な辞令だ。」

 

鏡越しに一枚の紙を見せる。

 

「こちらは制服。」

 

人事部長の秘書だろうか。

制服の入っているであろう包みを持っている。

 

「リシュモン。どうやった?」

「何が?……ああ、保安部長とそのお仲間の辞職ね?『どう』って連中の親玉に『引き上げてもいいんじゃないの?』って提案してみただけだ。」

 

人事部長はあからさまに怪訝な顔をした。

 

「武器とかで脅した??」

「いや、今回ばかりは俺も驚いてるんだ。本当に『提案』しただけなんだよ。それも数分の立ち話で。逆に俺が理由を知りたいぐらいだ。」

 

リシュモンは鏡から振り向いて人事部長に向き直った。

 

「それより、人事のお前の目から見て保安部はどうだ?危険分子は残っているか?」

 

人事部長は首を振った。

 

「人事部がつかんでいる限りでは……膿は全部出し切れた。」

「だから、俺もずっと悩んでいたんだ。」

 

リシュモンは人事部から来た二人に目配せをすると、2人は一旦部屋を出た。

そして、着替え終わったリシュモンと一緒に通路を歩く。

 

「党内で人材が足りてなかったから、呼び戻すきっかけが欲しかった?」

「それは考えてなかったな。」

 

人事部長のひらめきをリシュモンは素直に褒めた。

そのままの勢いで保安部に入っていく。

 

「おはよう、新任の保安部長のリシュモンだ。『どうして保安部と関係なさそうな小柄なオッサンが部長だ?』という質問も含めて、質問がある奴は遠慮なく聞け。」

 

保安部の面々は急に人が減って半ばがらんとしている部屋に入ってきたリシュモンを見て少し気圧されている様子だ。

一人がおずおずと手を挙げた。

 

「なぜ、保安部外だったリシュモン部長が一気に部長になられたんですか?」

「それは別組織で保安と監査の仕事をした経験があるからかな?あと……実は昔はここでも働いていたことはある。他には?」

 

人事部長は「そもそもこの保安部の創設者の一人がリシュモンだ」と言ってしまおうか迷ったが、やめておいた。

木星圏にはどうしても「古いやつが偉い」が蔓延している。

当然、古い人間はコネクションも強い。

それが嫌になって旧理事会は解体したのだ。

リシュモンもそこは理解しているのだろう。

近年、地球圏から木星圏に移ってくる人間は有能な人間が多い。

逆に古い世代は夜を儚んだならず者のイメージが捨てきれない。

人事部長などは後者であるが、それでも古い人間には違いない。

その古い人間が優秀な新入りを捕まえて「新参者は黙ってろ」はよろしくない。

リシュモンなどは生え抜きの軍人だが、木星圏で軍人時代の自分の階級を口にしたのを見たことがない。

当然、人事部は把握しているが、個人情報扱いで漏洩は許されない。

今は人事部を任されているが、人事部のペーペーだった時代、初対面のリシュモンにタメ口で話すように頼まれたときは相当な精神力を必要とした。

リシュモンが地球行きの船に乗るとなった時は、とうとう連邦軍の中枢に戻るのかと噂されたぐらいだ。

 

「人事部長、話は終わったぜ?」

 

そうリシュモンに声をかけられてハッと我に返った。

 

「皆知っての通り、社長は公社化の手続きがあったためまだ地球から戻っていません。人事部ができることは少ないが、よろしくお願いします。」

 

人事部長が一礼して保安部を出ると、後ろからリシュモンの景気の良い声が聞こえてくる。

早速、部下に何やら指示をしているのだろう。

入れ違いに経理部の人間が保安部に入っていくのも見えた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。