リシュモンは保安部長として評議会に出る身となった。
そしてそこそこウキウキしていた。
アザニア基地の評議員がマイラ・パルトロなのだ。
恐らくカーン所長が任命したのだろうが、どんな顔をして出てくるだろうか?
正直、マイラ・パルトロは木星っぽくないタイプの俗物で肩書とか名誉みたいなものには目がない。
しかし、新設された評議会制度では評議員は自分の所属するエリアの大意に背いた行動をとると評議会側ではなく、地元の意思で解任される可能性がある。
そうなると、連邦の御機嫌だけを取って企業の重役の椅子にしがみついていたパルトロは、今まで一番縁遠かった民意に従う必要がある。
そうなると企業の椅子も危うくなるだろう。
不真面目な話だがアザニア基地としてはちょうどいい捨て石だ。
そんなパルトロ評議員なのでどんな顔をして評議会にやってくるのか、リシュモンはとても楽しみにしていた。
ちなみに当のリシュモン保安部長は評議会で議決権を持たないオブザーバー兼御用聞きだ。
パルトロは意外にも嬉しそうな顔をして議会に現れた。
一瞬、リシュモンは「馬鹿なのかな?」とも思ったが、そんな雰囲気でもなさそうだ。
対してゲザリ議長は今にも十二指腸に穴が開きそうな顔をしている。
「それでは第八回木星船団公社評議会を始めます。最初の議題は前回に引き続き大枢党のシオ・イェン新党首からの……」
リシュモンはゲザリ議長が大枢党の息がかかった人間だと知っている。
評議員の中の何人かはその情報を持っているだろう。
また、評議員の中にも大枢党の人間は混じっている。
しかし多数派ではない。
リシュモンは自ら率先して意見を言う立場でもないので、ゆったりと成り行きを見守ることになる。
途中、過去に大枢党が起こした事件について保安部の捜査が不十分であったことについての報告も求められたが、それは事前に通告されていたのでデータを出したうえでリシュモンがしっかりと頭を下げて謝罪した。
「これら大枢党の破壊活動、および略奪、窃盗についての捜査が杜撰であったことは紛れもない事実であります。本件については保安部を代表して深くお詫びいたします。」
ただお詫びとはいえ、カリスト作業機械試験場の襲撃事件についてはリシュモンも被害を受けた当事者であって、そのことも資料には記載されているため、あくまでも形式的なものだ。
「リシュモン保安部長、捜査が杜撰になっていた原因などは分かりますか?」
リシュモンはぎょっとした。
他ならぬゲザリ議長からその質問が飛んだのだ。
とりあえず正直に答えておくことにした。
「言い訳がましくて申し訳ありませんが、私自身、つい数日前に保安部に入った人間な上、保安部のマンパワーが過去の事件の捜査ではなく、現状の木星圏の保安維持に注力されている為、保安部の意見としてはお答えしかねます。また、保安部の人員が私も含め刷新されておりますので、過去の状況については即答しかねます。いずれにせよ人員は補充している最中ですが、必要であればさらに人員を補強して調査いたします。」
リシュモンが話し終えると、評議員の面々は少し考えた。
「大枢党による総被害額は判明しているし、すでに保険で賄われている。保安部の通常業務が軌道に乗ったうえで再調査については再検討でよいと思う。」
ヒマリア宙域の評議員の意見だ。
特に反対意見も出なかった。
ほとんどの評議員は元の保安部が大枢党びいきであった事など重々承知だ。
「……とりあえず、新党首の話を聞いてみようか。扱いは『参考人招致』で。これに不服だったら、呼ばない。……このセンでどうですか?」
ガニメデ周辺宙域の評議員だ。
ちなみにカリストと違って衛星ガニメデには地表の基地が小さな探検基地しかない。
生物がすんでいる可能性が高すぎるからだ。
カリストですら、厚い氷の下の液体の水の層には人類は触れてはいけないことになっている。
現在もガニメデについては調査が続いているが、大枢党はそうした「余裕のない」場所からは略奪は行っていない。
だとしても大枢党員としては党首が「参考人」扱いは悔しいのではないかと考えてリシュモンはゲザリ議長を見ていた。
表情一つ変えなかった。
そうして評議会は参考人招致で一致した。