機動戦士ゾック~太岁の風   作:スナ惡

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警告と恫喝

火星からのMS部隊が木星圏に到達するXデーがいつなのか?

これはかなり難しい問題だ。

まず木星圏がとても広い。

彼らがどこを目的地にしているかというのは判断が難しい。

木星に近づけば強力な引力でまっすぐ飛ぶことなどできない為、普通に考えると木星に対してのいずれかの軌道に入る必要がある。

その際に木星船団公社に対して何らかの要求をすることを考えると、オールドワンに向けて飛ぶことになるのかもしれないが、そもそもオールドワンであっても木星の周りを飛び続けている。

 

「そもそも木星船団公社の本拠地がここだって分かってんのか?」

 

リシュモンに聞かれて保安部の連中が首をかしげる。

通常、木星圏にわたってくる人間は木星船団公社が運航しているいずれかのジュピトリス級輸送艦でやってくる。

そして、いずれか都合がよさそうなステーションなりを経由して木星圏内の目的地へ移動することになる。

そこで木星圏内の「地理」情報を入手して旅立つのだが、今回の武装した来客は火星圏から直接やってきている。

木星圏には現在、コロニーと呼べる規模の居住地は存在していないが、ステーションや艦船は数多ある。

保安部は木星圏最強の軍備を持っているはずだが、つい最近まで兵力と言えばほぼボールしか持っていなかった。

外敵との戦闘も想定されていなかったので、広大な木星圏を守り切ることなど到底できない。

この「木星圏、広すぎて守り切れない」問題は、今まで誰も攻め込んでこなかったせいで看過されてきた。

そして、問題が発覚したところでどうにもならない。

保安部の人間が切り出す。

 

「敵が先制攻撃してくるのは止めようがないため、ダブルスターはオールドワンの防衛を行いつつ、攻撃を受けたら急行のセンで行きますか?」

 

リシュモンが首をひねる。

 

「あー、難しいな。元のプランにしよう……」

 

一同がリシュモンの次の言葉を待つ。

 

「こちらから、先にレーザー通信で警告して、武装解除を呼び掛けるとするだろ?武装解除されたことを確認するのを誰がやるか?って話になるよな。相手の先制攻撃を待つ場合……というか相手の出方を待つ場合は民間人に被害が出る可能性があるから……」

「保安部が民間人を盾にするわけにはいきません……理論ですね。」

 

リシュモンはため息をつきながら「ですよねえ」と吐き出した。

ダブルスターから一人だけ会議に出席しているライト艦長が発言する。

 

「相手が警告を無視したら、こちらから殴れます。もし戦闘になるとしたらそのパターンが一番マシだと思います。戦闘をする気ないのにガンダムタイプを持ってくるってこと、ありますかね?」

「確かに木星に持ってくるには強すぎるんだよなあ……ガンダム」

 

リシュモンが窓に寄りながら零す。

しばらく無言が続いたのちに部隊顧問のピョンが口を開いた。

 

「木星船団公社側で、その『強すぎる』兵器の木星圏への持ち込みを禁止する規則を作ったらどうですか?」

「おー、その手があった」

 

リシュモンは大急ぎで評議員何名かに連絡を取ると、評議会が臨時開催される運びとなった。

 

「木星船団公社社則改正49条を可決します。」

 

改正49条は木星圏への無許可持ち込みが禁止される膨大なモビルスーツ、モビルアーマー、そして兵器のリストが添付され、それらは議会の承認を経て随時更新されることとなった。

さらに、そうした兵器の持ち込みをする勢力への協力が禁止されている。

また、木星圏で製造された兵器の木星圏外への持ち出しも公社の正式な許可がなければ行えないとされた。

この改正49条はさっそく地球圏へも送られて、木星船団公社地球支社から公に発布された。

発布の目的は当然ながらエネルギー資源の安定した供給が目的であるので、誰も大手を振って反対はしない。

反対でもしようものならば、それは「将来、木星圏へ侵攻を企てています」と公言するようなモノだからだ。

ピョンの提言からそこまで2日もかからずに漕ぎつけると、保安部は満を持して火星から接近する軍艦にレーザー通信を送った。

 

--貴艦はまもなく木星船団公社49条が定める防衛圏に入る。貴艦は49条の定めるところの『武装』を所持する為、速やかに進路を変更するか、武装を解除するか選ばれたし。応じない場合、また防衛圏まで返答ない場合は撃沈する用意がある。--

 

数分後に返答があった。

 

「リシュモン部長、向こうから『話がしたい』旨の返信が来ています。どうされますか?」

「メインモニターにつないでください。」

 

リシュモンは保安部のメインモニターの前に立った。

 

「木星船団公社保安部部長のリシュモンです。」

 

メインモニターに映った顔はやせぎすの30代ほどの男性だった。

 

「土星探査団のセルマン団長だ。」

 

リシュモンはしばらく相手の顔を観察すると口を開いた。

 

「土星探査団が木星船団公社の管轄する宙域へ接近する目的をお教え願いたい。」

「単に土星に向かう途中だ。」

 

リシュモンは面白くもない返答にいささか失望した。

 

「我々木星船団公社は土星探査団なる団体から事前に何も連絡を受けていません。また土星へ行く船だとするとずいぶんお粗末な軌道計算をされているようだが、何かトラブルでもありましたか?」

「軌道計算がお粗末かどうかはこちらが決めることだ。そして、木星でスイングバイすることを責められる謂れもない。」

 

やや強い口調になったセルマンと名乗る男に、リシュモンは表情を変えずに答えた。

 

「謂れはあるんですな。木星船団公社は広く木星圏の自治を認められておりまして、その木星船団公社の49条にしっかり定められております。今、データをお送りします。我々が観測したデータによると貴艦にはガンダムタイプのモビルスーツが1体、またジムが1体艦載されておりまして、いずれも49条に違反する兵装です。なお、貴艦のメガ粒子砲については49条に違反しない出力であると推測されますので、モビルスーツ2機を投棄していただけましたら我々も何ら咎めるところではありません。」

「そんな無茶な要求が飲めるか!」

「無茶はそっちだ。交渉は決裂です。当公社が定める宙域への侵入が確認され次第排除いたします。……通信を切れ。」

「待て!……」

 

通信を遮断した保安部員が一応リシュモンの顔色を窺った。

 

「今の切っちゃってよかったんですか?」

「あったりめーよ。」

 

リシュモンがそう答えると、返事するかのように通信のコンソールが鳴った。

 

「向こうから着ました。」

「つないでください。」

 

再び、セルマンの顔が映し出される。

 

「待て!我々は木星で補給を受けなければ帰る事も進むこともできないんだ!」

「土星まで行く燃料はあったんでしょ?土星には補給基地はないはずなんですがおかしいですね?」

 

セルマンは明らかに焦っている。

 

「だ……騙されたんだ!」

「騙したのはそっちでしょう?さっきはそんな話なかった。」

「と……とにかく補給を受けさせてくれれば……」

 

リシュモンは面倒くさそうに自分のデスクに座ると、モニターに映るセルマンの顔をじっくり見た。

そして口を開く。

 

「補給を受けるにしても、まず先立つものが必要です。正式な連邦所属艦であるならば、連邦側から通告があれば補給は可能ですが、そうではないならばカネがいるでしょうな。補給したい物資のリストを頂ければ通商部に価格を問い合わせてもよろしいですよ?その代わり、木星価格ですから莫大な費用が掛かります。それにしても武装解除は必要条件です。お分かりかな?」

 

保安部のモニターに映るセルマンの表情は怒りを抑えている顔に見える。

 

「上に問い合わせる。」

 

絞り出すように返答したところに、リシュモンが畳みかけた。

 

「いずれにせよ、そろそろ減速していただかないと、上に問い合わせている間に木星圏に入ったとコチラが判断したらハチの巣です。お忘れなきよう。」

 

しばらく間をおいて、今度は土星探査団を名乗るアチラから通信を切った。

リシュモンは話し相手のいなくなったモニターを一瞥する。

 

「よし、魚雷戦準備。あと、この前、大枢党の過激派から大枢党の本隊が押収したスイングカタパルトに連絡。」

「了解。」

 

リシュモンは一度椅子から立ち上がったが、思い直して座りなおした。

そして、きつく目を閉じて仮眠をはじめた。

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