機動戦士ゾック~太岁の風   作:スナ惡

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ドイツの人名

先ほど「ボンクラ」と呼ばれていた青年はアークと言う名前だった。

出身は地球。

良心の顔は知らず、物心ついたころには孤児だった。

ロクな生い立ちではないが、火星開拓に志願して、一時は人並みの生活をしていたが、一年戦争前あたりから地球連邦の締め付けが厳しくなってまともに食えなくなって、火星基地をブラブラしているところを艦長に拾われた。

そのまま、木星行きの船に乗り込み、自分が宇宙海賊のような船に乗ってしまったことを後悔しても後の祭り。

反抗して船外に放り出されても死ぬだけなので、仕方なく命令に従って今ここに至る。

艦内の仕事はというと雑用係兼艦長の子分。

そして今は、艦に向かって飛んでくる謎の飛翔体を撃ち落とそうとしている。

 

「当たった!」

 

飛翔体の外装の様なものは吹っ飛ばした。

しかし、落ちない。

アークは必死に考える。

銃座に取り付けられたスコープを凝視する。

キラキラ光ったアレは何だ……?

 

「氷だ……」

 

弾頭を打ち抜けば誘爆して四散するタイプの兵器ではない。

よく狙いを定めて……偏差射撃で狙い撃つ。

命中しても、一瞬、光の粒が舞う程度で氷塊にはほとんどダメージが入らない。

 

「なら、後ろについている推進装置!!」

 

もし、彼が飛翔体を真横から見ることができれば、他愛もないタグボートの類だと分かっただろうし、タグボートを破壊することもできただろうが、ほとんど氷に隠れて見えない。

その様子をはるか遠方のオールドワンから見ている者がいた。

リシュモン以下、木星船団公社保安部一同だ。

 

「いやーすごいなぁ、ライデンフロストさん。」

 

リシュモンが嬉しそうにしている。

居合わせた一人が

 

「誰ですか?その人?」

 

と言うと、部隊顧問のドユン・ピョンが解説する。

 

「18世紀のドイツ人の医師だよ。ヨハン・ライデンフロスト。高熱の物体に触れて気化した蒸気が邪魔をして熱が伝わらなくなる、ライデンフロスト効果に名前を残したんだよ。」

 

氷塊に当たったビームが気化させた蒸気や氷の破片が、メガ粒子の熱をそれ以上氷に伝えないように働きつつ、ビームそのものを拡散させているのだ。

氷に覆われたカリスト暮らしが長いリシュモンならではの作戦かもしれない。

それでも、アークは意地で8つの氷塊の内の1つを破壊した。

そして、アークはビームの残弾を見る。

 

--8つは時間的にも残弾的にも壊しきれない!!

 

「艦長!1個迎撃しました!!」

「残りも撃ち落とせ!」

 

アークは一瞬迷った末「はい!」と答えて次の目標に照準を合わせる。

その頃、艦の外へ出たガンダムとジムは遠すぎる飛翔体に手こずっていた。

いかにガンダムが強力とはいえ白兵戦用のモビルスーツでは質量兵器と戦うには役不足だ。

しかも、そこそこ角度の開いた8方向から飛んできている。

とりあえず、ガンダムはその機動力を生かして飛翔体の一つに迫った。

バルカンを撃ってみるが、毛ほどのダメージも入っていないらしい。

そうこうしているうちに、飛翔体は横をすり抜けて艦に向かう。

そうすると飛翔体の正体が小包のようなモノを押しているタグボートだと分かった。

正体が分かれば難しくはない。

自慢のビームライフルを後ろから撃ちこんでタグボート部分が破壊された。

 

「何!?」

 

しかし、タグボートが運んでいた荷物はそのまま艦の方へ飛んで行ってしまった。

ガンダムのパイロットは、まさか艦に当たることはあるまいと少し不安な気持ちで見送って次の飛翔体へ向かう。

その頃、相方のジムはというと1つ落としたところで推進剤が切れかけていた。

ギリギリ艦に戻って補給は受けれそうだが、再出撃は無理だろう。

これは足の速いガンダムでもあまり大差はなかった。

破壊して正体が氷塊だとは気づいたが、2個壊したところで推進剤が切れたのだ。

アークはその状況を見ながら必死でもう1つ落とした。

 

「艦長!ガンダムの補給を手伝ってきます!!」

 

返事を待たずに飛び出してモビルスーツ格納庫の方へ向かった。

実は艦の残弾はほぼ尽きていた。

もう飛翔体を落とせるとすれば、ガンダムしかなかった。

帰投したガンダムの補給を補助すると、ノーマルスーツをチェックして酸素残量を調べる。

そして他の乗組員の目を盗んで、船外作業用のバックパックを抱えて艦の外へ飛び出した。

そのころ、ジムは再出撃したガンダムと入れ替わりにやっと格納庫へたどり着いた。

緊迫した状況で、ボンクラが一人船外に放り出されていても対して気にならなかった。

どうせ、出撃するガンダムに引っ掛けられたのだろう……とその程度にしか考えていなかった。

ガンダムはというと、残り3つの飛翔体が先ほどに比べて接近しているおかげで、接近が容易になってほっとしていた。

なんなら、3つ全てを叩き落とせると安堵していた。

3つの飛翔体はここまで長い距離をプログラミングによって飛んでいた。

理由は偏差射撃のためだ。

保安部考案の氷魚雷は超音速で飛ぶ敵艦を捉える為、着弾時の敵艦の位置を予測して、プログラミングされた軌道を飛んでいたのだ。

ただし、タグボート自体は各発射地点からレーザー通信で再誘導できるので、ある程度までなら敵艦の進路変更にも対応できるようになっていた。

そして、接近した後は先っぽに取り付けられた光学カメラによって誘導する仕組みになっている。

兵器転用のために推進力はいじったが、これらは別にすごく特別な機能というわけではない。

人手が足りない木星圏のタグボートならではの機能といえる。

ガンダムのパイロットは真正面から攻撃をしても、氷の作用であまり効果が高くないことには感づいていた。

なので、後ろに回り込んでからビームライフルで落とそうとする。

 

「艦が近すぎる……!」

 

裏に回り切ってビームライフルを撃つと艦に直撃するのではないか?と懸念が湧いた。

アイフィールドがビーム兵器に対してバリアを張っているのでそんなことはないと頭では思いながら躊躇した末に、少し角度をつけてタグボートを狙撃した。

 

「あと2発……推進剤も足りる……」

 

そう呟きながら次の目標

しかし、その時、閃光が見えた。

その様子をやはりリシュモンが双眼鏡で見ていた。

 

「命中♡」

 

ガンダムが破壊したはずの氷塊が旗艦に命中したのだ。

一方、アークはそれを予想して艦から降りていた。

そしてバックパックの限界一杯の出力で艦から離れていた。

なぜなら、艦が壊れる時に核爆発が起きる可能性が高いからだ。

氷塊が当たる瞬間に顔を背けて腕で目を覆う。

少なくとも、核の炎を肉眼で見るよりはマシだろう。

あとはノーマルスーツの耐放射線防護性能を信じるしかなかった。

ビーム兵器で氷は簡単には砕けない。

充分に加速されていたら軌道も簡単には変わらない。

ガンダムは帰る先を失った。

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