機動戦士ゾック~太岁の風   作:スナ惡

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最大の敵

ヒカリとチンペーはそこそこ距離を取ったつもりだったがガンダムの詰め寄る速度が予想以上で、肝を冷やした。

さらにビームライフルを構えたのが見えると、ヒカリは震えあがった。

 

「ひぇえええ!」

 

情けない声を出しながらチンペーのジュピタータンクの影に隠れる。

 

「死ねぇ!!」

 

ビームライフルの光条がチンペーの手前で曲がる。

 

「Iフィールドついてても、目の前で撃たれるとやっぱ怖いっすね。」

 

ガンダムはさらに怒った。

 

「生意気にIフィールドだと!?ルナタンクのくせに!!」

 

そしてビームサーベルを抜き放った。

 

「ヤバい全速撤退!」

 

チンペーがしっぽを巻いて逃げ出した。

自慢の大出力。

恐ろしい加速だ。

当のチンペーも喋れないほどの加速Gに呼吸ができない。

 

「逃がすかぁ!」

 

ガンダムもそれを追いかけて急加速する。

 

『自動迎撃システム起動』

 

ジュピタータンクの後方火力が全て起動した。

ガンダムのパイロットもさすがに正気に戻った。

 

「え、何?……うわああああああ!!」

 

ジュピタータンクが後方に向って恐ろしい密度の弾幕を張ったのだ。

この弾幕は真後ろから追尾する敵機に対して自動的に張られる弾幕で、避けにくい様にいくつかの複雑な弾幕のパターンが切り替わる。

 

「死ぬぅ!!死ぬぅ!!」

 

チンペーは逃げてるだけなのだが、ガンダムからはそう見えていない。

そして、このジュピタータンクは正面より後方に強い。

宇宙一後方に強いモビルアーマーを目指して作られている。

 

「最新鋭機じゃなかったら避け切れなかった……」

 

それでも、ガンダムは避けた。

実はこの時、その様子を遠くから見ていたダブルスターのエンジニア達は悔しがっていた。

ブリッジにいたクルス副艦長も悔しさをにじませていた。

 

「くそ!惜しい!コンセプトは間違って無かった!」

「お前ら、何と戦ってるんだよ。」

 

ライト艦長も若干あきれ顔だ。

艦長はジュピタータンクがそんなことになっている事など知らなかったのだ。

ダブルスターでそんなやり取りが行われているとは知らずにチンペーは脱兎のごとく逃げ出した……というか木星に向って落ちていった。

 

「チンペー!あんまり落ちるなよ!帰れなくなるぞ!」

 

なんとなく他人事のようにヒカリはチンペーを見ていたが、ふと気づくとそこそこの距離でガンダムと目が合った。

 

「あ」

 

ガンダムはビームサーベルから再度ライフルへ持ち替えて攻撃しようとしたが、その動作が勝敗を分けた。

ヒカリが放った肩部メガ粒子砲の方が早かったのだ。

それでもガンダムは回避行動をとった。

運悪く……ヒカリにとっては運よくビームライフルが破壊された。

 

「ちぃっ!」

 

ガンダムのパイロットは携行武装と内蔵武装の差が出たと内心悔しがった。

それでも、盾を構えてもう一本のビームサーベルを抜き放って突進しようとする。

ヒカリはその動作と全く同時に後退をはじめた。

虎の子の腕部バーニアを正面に突き出しての、急速後進だ。

 

「速い!!」

「速い!!」

 

二人は同時に同じことを叫んだ!

互いに相手のモビルスーツの機動力が思った以上に高いことに驚いたのだ。

ただ、ヒカリが速かったのは単にモビルスーツの性能だけではなかった。

ガンダムが動く前にパイロットの意識を読み取ったのだ。

リック・ゾックの肩部メガ粒子砲がガンダムを狙う。

対するガンダムも残り少ない推進剤で決死の突進だった。

まるでクロノスタシスのように二人のパイロットの時間がゆっくりと流れる。

ガンダムはメガ粒子砲の直撃に備えて盾を掲げて、ライトサーベルを振りかぶる。

対してリックゾックはメガ粒子砲の付いていない左の肩が外れた。

正確には肩パーツの一部が外れただけだが、ガンダムのパイロットは大きく目を見開いた。

 

「……サイコミュ?」

 

肩から外れた有線サイコミュがビームを放つ。

ガンダムのビームサーベルと盾が握った腕ごと切り落とされる。

 

「クソがあッ!!」

 

そう叫ぶとガンダムは最後の推進剤を振り絞って真正面の肩部メガ粒子砲を避けた。

そして、そのまま推進剤を使い切ってゆっくりと木星に落ちていく。

それと入れ違いにチンペーが浮上してきた。

ヒカリは自分が息をしていないことに気づいて、慌てて呼吸をする。

そこにブリジットの通信音声が聞こえた。

 

「要救助者、確保。このまま艦に運びます。」

 

リック・アッガイが要救助者を器用につまんでダブルスターへ飛んでいく。

ヒカリはそのアッガイのバーニアの光に吸い寄せられるようにダブルスターを目指して上っていく。

オールドワンのリシュモンは望遠レンズが引き伸ばしたはるか遠くのその戦いをメインモニターで見ていた。

ふと、周りを見回すと、誰もが呆然としている。

リシュモンは自分がいつしか席から離れていたことに気づくと、自分の席に戻ってマイクに向かった。

 

「保安部諸君、次の命令だ。勝利を喜べ。」

 

そう言うと背もたれに体を預けてアフロヘアを掻いた。

もう何日かシャワーを浴びていない。

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