その戦いの全貌を見ていたのはオールドワンだけではない。
氷魚雷作戦に参加した8箇所の艦船および拠点も望遠鏡で見ていた。
当然、満足に見れるわけではないが、それでも木星圏の最大の危機から目を背けることはできなかった。
その中には大枢党本部もあった。
「いやー、すごいね。」
イェン党首が拍手をする。
「4対1とはいえ……ああもあっさりとガンダムタイプが……」
その様子を見ていた他の大枢党幹部が漏らす。
一昔前までは木星船団に対して大枢党は武力で優っていたはずだったのだ。
「いやあ、木星にもモビルスーツの開発競争がやってきたんだね。感慨深い。」
イェンはどこか楽しげだ。
対して、その場にいる何名かはやや惨めそうな顔をしている。
「どうしたのかな?我らが英雄ヒカリ・フリースの活躍を祝おうじゃないか?」
「そうな言われましてもイェンさま……」
イェンが微笑む。
「良いんだよ。別に我々が常に木星船団に勝っていなければいけないわけではない。しかも、一つ良いことがある。もうそろそろではないかな?」
そう話しているとダランから通信が入った。
「イェン様、ガンダムタイプの捕獲に成功しました。」
木星に引っ張られて落ちているところを捕まえたのだ。
大枢党は木星圏の数ある拠点の中でも、最も低軌道に存在する。
そのため追い付いて回収できるチャンスがあった。
「修理するにせよ、パーツ取りするにせよ、我々にとっては得難い来訪者だ。」
ダランの操縦するボールがガンダムを大枢党本部に運ぶ。
その開いたコックピットからパイロットがこぼれ落ちる。
宇宙空間に点々と鮮血の粒と砕けたヘルメットのガラス片を漂わせながら、ゆっくりと確実に木星へと落ちていった。
*****
そのころダブルスターの医務室からオールドワンに一人の青年が引き渡された。
彼はアークと名乗った。。
辛うじて身に着けていた身分証を見ると『AQ』と書いてあった。
「イニシャル?」
「ボク、本当の名前分からないんです。だから、子供の頃に書けたのがその2文字しかなくて……それがそのまま名前代わりに」
見た目の年齢からすると1年戦争の戦災孤児ではないことはすぐに分かる。
本人の話から地球連邦に問い合わせると、確かに火星の開拓者にその人物はいて、行方不明になっている事すら気付かれていなかったらしい。
リシュモンが尋ねる。
「なあ、地球か火星に帰りてえか?」
「別に……」
アークが答えた。
そのやり取りを見ながらしばらく黙っていたイリーナがリシュモンの腕をつかんで廊下へ連れ出す。
「なんだよ急に」
「彼、ニュータイプかもしれない」
「なんだよ『かもしれない』って」
イリーナが眉間にしわを寄せる。
「確証がない。なんかぼんやりしてる。」
「本人は地球生まれだって言ってるけど、まあ、あの身の上じゃあスペースノイドでもおかしくないよなあ……」
木星圏にジュピトリス級に乗り込む以外の方法で来た人間は他にもいる。
ジュピトリス級が配備される前に木星圏の調査に来た人間だ。
なのでアークは宇宙世紀になって初めての木星の客ともいえる人間だった。
医師による厳重なメディカルチェックが行われる。
「全身皮膚の熱傷の跡。これは?」
「物心つく前にはあったと思います。」
医務室の前でイリーナとヒカリが難しい顔をしている。
リシュモンはそんな煮え切らない二人を見て煮え切らない。
「なんだってんだよ!ニュータイプが2人そろって!とりあえずメシ食うぞ!!」
二人はリシュモンに引きずられて食堂へと連れていかれた。
アークはひととおり検査を受け、しばらく静養した後、失踪した。
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