ヒカリは実家に帰って両親に相談することにした。
しばらく帰っていなかったのでカリストの低重力が懐かしい気がした。
オールドワンにいると無重量か1Gかの2択だからだ。
ヒカリは両親に自分の悩みをすべて打ち明けた。
ヒカリの父と母はヒカリが思っている以上に真剣に話を聞いた。
父のクラーク・フリースはヒカリが話し終えたのを確認して、そしてたっぷり無言の時間が続いたのちに口を開いた。
「まず、ヒカリ。私はヒカリに一度も謝っていなかった。勝手に決めて、勝手に木星に連れてきてすまなかった。もっと早く謝るべきだった。」
「私も、ごめんなさい。お父さんの言う通り。貴方になんの相談もしないで木星まで連れてきたことはもっと早く謝るべきでした。」
母のアヤメにも謝られた。
「いや、それは謝らなくていいよ。木星に来なかったら出会えなかった人ばっかりだ。……クロエさんとだって、木星に来たから出会えた。」
クラークは謝意へのヒカリの短い返答をきちんと聞き取って頷いた。
そして、またしばらく静かな時間が流れた。
クラークは慎重に言葉を選びながら、息子のヒカリに
「私は、ヒカリがとても立派な人間だと思う。」
と言う。
ヒカリは真意を掴みかねて、うつむきがちだったところから父親の顔を見た。
「私は……多分、お母さんも、木星に来ることをとても軽率に決めたんだと思う。今までそう思ったことはないけれど、今のヒカリの話を聞いてそう思った。ヒカリは家族になるかもしれないクロエさんや、将来について一生懸命悩んでいて、こうやって私やお母さんに相談して、決断するために悩んでいる。すごく、難しいことから逃げずに立派に悩んでいる。本当は『流石、私の息子だ』と言いたいところだが……恥ずかしながら、家族について私はそんなに真剣に悩んだことはない。地球圏ではヒカリほど悩む必要がなかったということだと思うが、君の立派さに少し自分を恥じている。アヤメさんはどう?」
「私もそう思います。」
アヤメは夫と息子を間違いなく愛している。
しかし、その愛する夫を選ぶ際には、自分の野望を叶えやすい男性を選んでいる。
その後は、「結婚したんだし子供は欲しい」ぐらいの気持ちで子供を産んでいるし、「木星へ行くなら家族一緒がいい」ぐらいの気持ちで移住している。
それらが悪いことだとは思っていないが、息子のヒカリの今置かれている状況と、真剣さと比較すると自分という人間と人生は浅はかだったのではないかという気になってくる。
ただ、自分がいかに浅薄であったとしても、息子が前に進もうと苦悩しているのであれば、浅薄な親は浅薄な親なりに前に進まなければいけない。
それが木星圏へまだ年端もいかない息子を連れてきた親のやるべきことだ。
「ヒカリが嫌ならしないけど、お母さん、クロエさんと話してもいいですか?」
ヒカリは咄嗟に「やめてよ」と言いかけたが、そういう話ではないことにすぐ気づいて言葉を引っ込めた。
目の前の人間は見慣れた母親であると同時に、一人息子を成人するまで育てた大人の女性なのだと気付いた。
そして、次の瞬間、なぜ自分が両親に相談しようと思ったのか、やっと理解できた。
「是非、お願いします。」
ヒカリは母親に深く頭を下げていた。
頭を下げながら、自分は大人になりたくて足掻いているのだとようやく気付いた。
「私は、大人になれるでしょうか」
心の底から漏れ出した言葉に父のクラークが答えた。
「ヒカリが望むなら、今の君は私よりも立派な大人だと思うよ。」
ヒカリは頭を下げたまま、じっと目を閉じながら、ニュータイプの能力で両親の思念波を感じ取っていた。
頭を下げたまま、じっと目を閉じながら、両親が背中をさするまで、ずっとそうしていた。