機動戦士ゾック~太岁の風   作:スナ惡

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策士、策に溺れる

チンペーは珍しくゴンゾに呼ばれた。

 

「はい、なんでしょうか?」

 

意外にもゴンゾだけではなくイートン家が勢ぞろいしていた。

母だけではなく胸に勲章を下げた兄たちまでいる。

 

「チンペー、座りなさい。」

 

チンペーは素直に座る。

 

「お前、ずいぶん木星で活躍したそうじゃないか。」

「やだな、父さん。木星じゃなくて木星圏だよ。」

「うん、そうだな。父さんが悪かった、木星圏だな。」

 

チンペーの兄たちは間髪入れずに謝る父に、父の本気を感じ取った。

ゴンゾは本気だ。

 

「実はイートン家には代々お世話になっている占い師がいてな、お前は木星に行ってしまったからタイミングを逃したが、そろそろお前もその占い師に会って視てもらっても良いかもしれんと思う。」

「そんな占い師いたんですか?」

 

チンペーの問いかけにすかさず兄たちがフォローした。

 

「俺も見てもらったよ!士官学校卒業するときに!!」

「俺もだ!……あの……何かの時に見てもらった!!」

 

チンペーは特に疑問も抱かず

 

「なら、私もぜひ」

 

と答えた。

ゴンゾは心の中で「第一関門突破だ!」と喜んだ。

それだけで少し胃の痛みが治まる気がする。

 

「という事で、チンペーさん。こちらの部屋に来てください。もうお呼びしてます。」

「はーい。」

 

チンペーは言われるがままに母親についていく。

通された部屋には水晶玉を覗く、いかにもな占い師がいる。

この占い師はゴンゾが雇った役者だ。

イヤフォン型の通信機で指示を受けながら、占い師を演じるのが彼女の今日の任務だ。

大まかなあらすじは頭に入っているが、要所要所で指示が来るはずだ。

なお、イヤフォンの先にいるのはイリーナだ。

 

「そちらお座りになって。チンペー・イートン三世様でよろしいですか?」

「はい、よろしくお願いします。」

 

チンペーが促されて座ると、占い師役の女性(=以下、占い師)はチンペーに質問をはじめた。

 

「あなたは今、人生の岐路に立っています。」

「いや、座っています。」

「慣用句です。座ってても『立ってる』って言う場合があるんです。『腹が立つ』みたいなものなので気にしないでください。」

「なるほど、勉強になりました。」

「まだ終わってないです。」

「あ、すいません。」

 

占い師は内心「この仕事は引き受けたらだめだったかもしれない」とめげそうになっていた。

しかし、イヤフォンからはイリーナという女性から「頑張って!大丈夫!そいつバカだから誤魔化せる!」と励ます声が聞こえる。

占い師は本当はここで「あなたは悩んでいることがありますね?」というつもりだったが、絶対悩んでいないオーラを感じ取って、言い方を変えた。

 

「あなたにはこの先、悩みがやってきます!!」

「ええっ!?そうなんですね!!悩むの苦手です!!皆に『もっと悩め』って言われるけど、上手く悩めたことが無くて……」

 

占い師は自分で自分を褒めたかった。

とても上手い導入だと思った。

 

「あなたはこの先、恋愛で悩みます!」

「ええっ!?そうなんですね!!」

「はい!悩むのは困りますね!?」

「多分、困ります!」

 

イリーナはそのやり取りを聞きながら「コイツ、上手いな」と思った。

そして、「私も参考にしよう」と考えていた。

 

「その、悩みから逃れる方法は一つ!自分から告白することです!」

「ええっ!?そうなんですね……って、あなたにですか??」

「私じゃないです、あなたの好きな人にです。」

「僕の好きな人……??」

 

 

イリーナはここで「対象をチンペーの過去に好きだった人に替えてください」と指示を入れた。

 

「……正確には、チンペー様の過去に好きだった人です。」

「過去に……キュア・サイド6?」

「それはアニメキャラです。生身の女性の話をしています。」

 

イリーナは頭を抱えながら小声で「地球から木星に向かう船の中で好きだった女性」と指示を出した。

 

「チンペー様が地球から木星に向かう船の中で好きだった方、おられますよね?」

 

イリーナは「自分は何をやっているのだろう」とふと我に返った。

ニュータイプでも自分の心は読めない。

もし、自分の心を客観的に読むことができるとしたら、ここ最近さんざん見てきたミーハーバカの女性たちと自分との間にほとんど差はないのではないだろうか?

彼女たちはまだミーハーなだけマシかもしれない。

チンペーとイートン家の経歴や格を見ているだけマシなのかもしれない。

自分だけチンペーの事を分かっている気になって、チンペーに変な虫が付かないように監視して……じゃあその自分がやろうとしていることは何かというと、チンペーの活躍した話が聞きたいわけでも何でもなく、クロエの赤ちゃんを見て羨ましくなった年増女がなぜだか無性にチンペーと家庭が作れたらいいな?と勝手な妄想を膨らませて暴走しているだけだ。

クロエは年増女だと自分で考えつつも、別に結婚適齢期を逃したわけではないから、「年増女は考え過ぎだな?」とも自省してみるが、チンペーに寄ってくる女性たちはだいたい自分より若い。

彼女たちは結婚適齢期の入り口か一歩手前で、自分はもうそろそろ降り口ではないだろうか?とマイナスな考えが暴走していく。

 

「ああ……その方なら、今もずっと好きですよ。イリーナさんって言います。」

 

イリーナは隣室に隠れて占い師とチンペーのやり取りを聞いていたのだが、その一言に時間が止まった気がした。

全身の皮膚が一瞬で鋭敏になる。

耳の中でチンペーの声がこだましている気がする。

占い師は隣の部屋でイリーナがどんな顔をしているのか少し気になったが、確かめる方法はない。

慌てずにチンペーに語りかける。

 

「その方に、告白するべきです。」

「彼女はすごい人なので、もっと良い人がいると思います。」

「でも、ずっと好きなんですよね?」

「はい、だから、ずっと好きでいるだけにしてるんです。」

 

占い師は「困ったな」と思った。

チンペーという若者は思った以上の難敵だった。

イリーナは自分に向けられていた好意が薄れたのだとばかり思っていたが、どうやら違ったらしい。

恐らく好意の質が変わったのだ。

イリーナは何でも分かっている気になっていた自分を哀れんだ。

自分の気持ちにも気づかない。

相手の気持ちも読み取れない。

チンペーの前では盲目に等しかった自分を心底哀れんだ。

 

「内緒ですが彼女はニュータイプで人の心が読めるはずなので、知ってると思います。」

 

イリーナは通信機に「知らなかった、本当に人を好きになったことがなかったから」と呟いた。

占い師はイヤフォンから漏れ出したその呟きが、自分の耳を腐食していく呪いのように感じた。

何という痛い言葉だろう。

 

「その……イリーナさんは本当に人に愛されたことがないから、気付いてないと思います。」

「そんなことってあるんですか?」

「沢山あります。」

「そうなんですね。」

 

占い師はイヤフォンの向こうから聞こえてくる小さな嗚咽を聞きながら、「もうこのイヤフォンは役に立たなさそうだな」と思った。

そして、自分の指にはめていた適当な指輪を外す。

 

「この指輪をチンペー様に差し上げます。この指輪には特別な力があるかもしれません。この指輪を……もし、イリーナさんが見て、欲しがったら……好きだって伝えてあげてください。」

「僕、今財布持ってないんで」

「お代は結構です!」

 

占い師はこのまま煙になって消える魔法を覚えておけばよかったと後悔しながらも、チンペーを部屋から追い出した。

部屋から追い出されてチンペーは廊下で指輪を見ながら立ち尽くしている。

 

「何、あの人?……特別な力??」

 

そこへイリーナが現れた。

 

「あれ?イリーナさん?来てたの?……なんで泣いてるの?」

「その指輪!私にくれるんでしょ!?」

 

チンペーは指輪とイリーナをまじまじと見比べると、指輪を差し出した。

イリーナは指輪をチンペーの手から奪い取ると両手でしっかりと握りしめた。

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