木星船団公社は地球連邦の特殊部隊とキャルフォルニアベース沖で戦闘訓練と模擬戦闘を行うことになった。
チンペーも用意された潜水艇を使って申し合わせ通りの手順でフォーメーションの確認を行う。
連邦の持ち込んだ機体はアクアジムと呼ばれる機体で、カラーリングを統一された洗練された小隊だった。
木星船団公社は寄せ集めの急造部隊だったので、きちんとした訓練も戦術もパイロットの頭には入っていない。
連邦の部隊はチンペーとヒカリに根気よく訓練を続けた。
実はチンペーはモビルスーツの戦闘訓練は過去に受けたことがあるのだが、水中戦は全く勝手が違う。
「昔、訓練受けた時はもっとめちゃくちゃに厳しかったんス。」
「そうなの?」
チンペーは軍学校時代にしごかれた時と、今回では待遇が全然違うと言いたいようだ。
ヒカリは初めてなので違いが分からない。
「それは……我々にとって木星船団の皆さんはお得意様だからですよ。」
若い士官が教えてくれた。
「ですが、木星船団公社から、我々連邦軍の治安維持活動に同行させるようにと申し入れがありましたので、その折にはお二人に臨時に階級が与えられて、また厳しくなると思います。」
ということで二人には仮の階級が与えられた。
ニ人そろって上等水兵だ。
「イートン上等水兵ですよろしくお願いします!」
チンペーが威勢よく敬礼すると連邦軍の面々から爆笑が起こった。
チンペー・イートン三世が元下士官であることを知っているからだ。
しかも、チンペーはそういう事で凹まないことも皆理解していた。
「フリース上等水兵です!……ところで俺は良いんですが、チンペーさんはもっと階級高かったですよね?」
部隊長のリンコンが苦笑いしながら答えた。
「オタクのところのバーソロミューが『面白いから一般兵扱いにしてくれ』って言ってきたんだよ。」
ヒカリもチンペーの聞き覚えがない名前が出てきたので意見交換をするとどうやらリシュモンの事らしい。
「リシュモン本部長ってバーソロミューって名前なんですか?」
「内緒じゃないと思うんだがなあ?ファーストネームは『ナサニエル』だったと記憶している。なぜ、今、『リシュモン』なのかは分からないな。」
その謎については話し合っても何も解決しなさそうだったので置いておいて、ヒカリとチンペーは連邦の湾岸警備や治安維持活動に訓練の一環で参加することになった。
だいたいの任務が密輸船を摘発する任務だが、海のギャング共はどこで見つけてきたか分からないモビルスーツを高確率で持っているので始末が悪い。
密輸されるのは違法薬物、弾薬、モビルスーツのパーツ、時にはモビルスーツであったりもする。
大概のギャングは湾岸警備隊に見つかった時点で諦めて武装解除するので、乱戦は起きない。
ヒカリは警備組織のシステムをじっくり学ぶ時間があった。
また、沿岸警備隊は人員のローテーションのシステムがしっかりしているので、ヒカリは家にいる時間が長くなり、家事と育児に参加できる時間が長くなった。
そうこうしている内に、宇宙世紀も90年になろうかという12月に事件は起こった。
「ロングビーチから救援要請!輸送船が私掠船に追われています!」
ヒカリも含めて当直のクルーがバタバタと艦に乗り込む。
船を出してから部隊長が「しまった」と呟いた。
「木星さんは戦闘が予想されてるときは基地に置いていくって話してたんだった。」
クヨクヨしていても仕方がない。
ヒカリはゾックがあれば余裕で基地まで泳いで帰れるのだが、なんとなく誰も思いつかなかった。
にもかかわらず「何かあった時にここが一番安全だから」という理由で、ゾックに乗り込まされた。
ゾックの中で退屈そうにしているヒカリを気遣って、通信機越しに部隊長が色々教えてくれる。
ーー海のギャングの中でも、軍艦を仕立てて私掠行為を専門にしている海賊を欧克(オルク)と呼ぶんだ。
わざわざ通信文字越しに「欧克」という書き文字まで見せてくる。
ゾックの中にいるのでハッキリとは見えないが物音からアクアジムが何機か出撃したであろうことが分かる。
ーーあとフリース上等兵……というかヒカリくん。お願いがあるんだが聞いてくれんか?
「なんすか?」
部隊長はだいぶ言いづらそうに
ーー劣勢なんだ。助けてくれんか?
命令するとヒカリを連れてきたのが問題になるので、あくまでも「たまたま乗り合わせて」「自発的に」交戦したことにして欲しいそうだ。
「民間人のヒカリ・フリース!ゾックで出ます!!」
出撃となった。