ヒカリは沿岸警備隊の艦を出ておいてから大切な事に気づいた。
「メガ粒子砲うてねえや。」
弾切れだ。
射撃訓練でもない限りは必要がないため補充していない。
それでもゾックには頭部のフォノンメーザー砲がある。
超音波発生装置なので弾薬の消費はないので、内部のパーツが消耗して破損するまでは発射できる。
ただ、それだけでは心もとないのでゾックで泳ぎながら、有線ビットにビームパワーが2発分だけ残っていることが分かった。
とはいえ、水中ではメガ粒子砲の威力が下がる。
「そこそこやれるかな?」
通信から苦戦している様子が漏れ聞こえる。
現在、双方が岩礁を挟んでにらみ合いをしている状況だ。
沿岸警備隊の主力がアクアジム4機に対して、敵はマリン・ハイザック6機。
アクアジムとマリン・ハイザックではさほど戦闘力に差がないが、数の差はいかんともしがたい。
数の差で押し切られないのは沿岸警備隊の練度の高さが利いているのだ。
ただそれも時間の問題で、敵は30連装水中ロケットガンを持っている。
どちらも、未だ被害を出していないが、弾切れになったら押し込まれる。
ヒカリはここ最近、部隊に入ってフォーメーションで動く訓練を重ねていたが、実際にやるつもりは毛頭なかった。
「下から行きますー」
ヒカリは周囲の海底の構造をモニターでチェックしながら、にらみ合いしている両陣営を尻目にどんどん深い所を目指した。
ずいぶん深いところまで潜ると両手両足で海底をしっかりホールドして、フォノンメーザー砲の照準器を顔の前まで持ってくる。
「よーしよーし、動くなよ?」
ヒカリが狙っているのは敵機ではなく敵艦だ。
どうせ、あの敵艦には対潜水艦攻撃をする能力はないだろうという楽天的な考えで深海底まで潜ってみた。
マリン・ハイザックはそこそこ追いかけてこれるだろうが、ゾックほどの速度で潜ることはできないし、ゾックを追って潜ろうとすると、アクアジムとのにらみ合いの均衡が崩れる。
仮に敵艦かマリン・ハイザックが対戦魚雷を持っていたところで……とそこまで考えていたところ、意外にも敵艦が対潜魚雷を撃ってきたと味方から通信が入った。
「やべえ。」
ヒカリは回避行動を取るためにその場から離れて、全速力で深海底を突き進んだ。
申し訳程度についている後方(足元)カメラで見ると追尾性能はさほど高くなさそうだが、一応、魚雷もカメラ付きのようでゾックを視認しながら追ってくる。
ヒカリは頭部フォノンメーザー砲をバブルフォームモードで起動して、ゾックの全身を気泡で覆った。
それによってゾックは水の抵抗を減らすことができる。
そして両脚と両手の全ての推進器をフルスロットルでふかす。
「魚雷といえども、本気のゾックの速さにはついてこれないか。」
魚雷は時間切れだったようでだいぶ後方で爆発した。
折角スピードが乗ってきたのでヒカリは深海底から攻撃するのをやめた。
このゾックには木星の内部海を持つ衛星探査のために、水中から発進して引力を振り切って宇宙まで飛び出すだけの推力がある。
しかも、木星の大気圏内をも元々活動範囲として考えていた為、地球の引力ぐらいなら不足なく振り切れる。
ゾックは海底を魚雷よりも早く駆け抜け、そこから徐々に海面へ浮上すると敵陣の真裏で空に向かって飛翔した。
これまで海水を高温で噴出して推進していたのが推進剤へ切り替わる。
「あいつそのまま、木星に帰る気じゃないだろうな?」
リンコンが思わずつぶやいた次の瞬間、有線ビットがゾックから離脱してメガ粒子砲が敵艦を襲った。
Ⅰフィールドがメガ粒子砲を捻じ曲げるが、艦に乗っていた海賊たちは総毛立った。
敵艦から対空機銃掃射が飛んできたが、ヒカリは気にしなかった。
「スペースデブリはもっと重くて速いよ?」
ゾックの走行が鋼鉄の弾をはじき返す。
海賊たちが甲板の上を右往左往している。
「徹甲弾もってこい!!」
「あんな速く動くモビルアーマーどうやって狙うんですか!?」
ゾックは反転するとド派手な水柱を立てて、再び海中へ没した。
「アンタらにも家族はいるだろうけど……悪いね。」
水柱がまだ消えぬうちに海中を姿なき超音波が走った。
フォノンメーザー砲が恐慌状態の敵艦に突き刺さる。
ゾックが海へ飛び込んだ時に発生した高波と直撃した衝撃波で敵艦は横転した。
ただし、横転してもきちんと戻るタイプの艦だったらしく、ギイギイと金切り音を立てながら再び元の角度に戻ろうとする。
マリン・ハイザックは艦を救援に行きたいが、迂闊に動くとアクアジムに背を向けることになるため、判断が遅れた。
ローリングする敵艦の中では、海賊たちが上も下も分からない状態で吹っ飛ばされ、何人かは海中に沈んだ。
そして、水煙の中、たてなおろうとした敵艦に恐ろしい衝撃が走る。
ゾックのクローが刺さったのだ。
たまらずにマリン・ハイザックの内の一機が艦の方を向きなおす。
その刹那、ゾックの有線ビットから放たれたメガ粒子砲がマリン・ハイザックの装甲を貫いた。
有線ビットは大気圏内や水中内でもある程度運用できるように、ゾックとビットをつなぐケーブルそのものがロボットアーム状にビットを動かす仕組みになっている。
「これでビットは弾切れ。」
ヒカリは当然訓練なので連邦軍に混じって部隊戦闘の訓練は積んでいたが、ヒカリの乗るゾックとアクアジムでは勝負にならないことは最初から分かっていた。
メガ粒子砲こそもう撃てないが、その気になれば敵味方まとめて全機破壊できるぐらいのスペックの差はあるだろう。
ヒカリは爆発するマリン・ハイザックの1機を敵艦越しに見ながら、そのクローが刺さっている敵艦がブクブクと泡を立てて浸水している様子も見ていた。
「本当にごめんね。」
そのまま、左クローが刺さったまま左腕部バーニアを噴射する。
ゾックもやや後ろに吹っ飛ばされたが、敵艦だったものが火を噴きながら水面を転がるようにして吹っ飛んだ。
ヒカリはそのまま沈降すると水中で反転しながら通信機に話しかける。
「岩礁から下がってください!」
「了解!全機、岩礁から後退しろ!」
ヒカリは海中で反転すると散開する残り5機のマリン・ハイゾックよりも先に、岩礁そのものを狙い撃ちにした。
目標が大きいので丁寧に狙わなくても命中する。
破裂する岩礁と衝撃がマリン・ハイザックを背後から襲う。
慌てふためく敵機を横目に、ヒカリはゾックを一気に沈降させて再び海底に陣取った。
そして海面付近でおたおたするマリン・ハイザックを照準器越しに見た。
「あの岩を壊したの失敗かな?」
海水が濁って目標が見えにくい。
しかし、見える敵から叩くだけの話なので1機、2機とフォノンメーザーを命中させていく。
このフォノンメーザーの恐ろしいのは戦車砲並みの初速で飛ぶことと、減速せずにそのままの速度で飛んで目標に当たることだ。
超音波なので、音の速さで飛ぶというだけの話だが、水の中では音は空気中よりも早い。
空気中ではおよそ秒速340mで飛ぶ音は、水中だとおよそ1,500mの高速で飛ぶ。
しかも、ほぼ目視も不可能だ。
目視ができないという事は、飛んできた角度も分からなければ発射地点も追えないという事なので、一発避けたら敵の位置が丸わかり……という事にもならない。
「なんで、こんな強いモビルアーマーが流行らなかったんだろう?」
そう呟きながら、ヒカリは5機のマリン・ハイザックを沈め切った。
ヒカリは文句を言っているが、そもそも勘違いをしている。
木星圏で作られたゾックはそもそものゾックとは似て非なるものだ。
結局、ヒカリ1人で敵艦1、モビルスーツ6撃破の戦績だった。
昨日、久々にスマホからハーメルンを開いたら、誤字報告がめっちゃたまっていました。
恐らく、誤字報告がPCから見えない不具合なのだと思います。
長い間、気付かずに申し訳ございません。
また、誤字報告、いつも本当にありがとうございます。
今後とも何卒よろしくお願いいたします。