機動戦士ゾック~太岁の風   作:スナ惡

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弱い者いじめ

ヒカリと連邦と共同訓練も残りわずかとなった。

そしてヒカリは滅入っていた。

そして、チンペーに相談することにした。

人気(ひとけ)のない所へチンペーを呼び出す。

 

「チンペーさん、湾岸警備隊の方々が、ゾックが欲しくて狙ってるみたいなんですよね。」

「あーマジっすか……ヒカリさんが言うならマジですね……」

 

チンペーはそれだけ言うと、ヒカリとの話を打ち切って、イリーナを呼び出した。

 

「何?」

「いや、実はなんすけど……」

 

チンペーはイリーナにヒカリに言われたことを相談した。

 

「なるほど……少し調べる。」

 

イリーナは手始めにチンペーの実家のイートン家の人々の思念を読み取ってみるが、イートン家にはやましいところはなさそうだ。

という事はイートン家には協力が仰げる。

 

「お義父さま、少しよろしいですか?」

「おお、イリーナさんじゃないか?チンペーが何か迷惑をかけておるか?」

 

イリーナは連邦の北米湾岸警備隊がヒカリのゾックを奪取しようと目論んでいるらしいことを伝えた。

 

「十分あり得る。」

 

イリーナは木星船団公社の人間たちの安全確保をチンペーの父に依頼すると、快諾された。

イリーナはそのまま湾岸警備隊に参加しているヒカリに適当な理由を付けて会いに行く。

 

「あ、イリーナさん。」

 

イリーナはヒカリと他愛のない会話をしながら沿岸警備隊の隊員たちの気配を読み取っていく。

恐らく沿岸警備隊の隊員たちはほとんどニュータイプに会った事がないのだろう。

イリーナは彼らが具体的にどのようにしてゾックを奪取するつもりかまでは読み取れないが、彼らがゾック奪取を確実に実行するであろうことは理解できた。

殺意すら感じるのでヒカリを暗殺して、有耶無耶の内にゾックを手に入れるつもりかもしれない。

イリーナは盗聴されていないのを確認したうえでヒカリに暗殺されないように伝えると、ヒカリは深いため息をついた。

 

「流石に俺もここまでみえみえの殺意は分かるので、十分に注意します。」

 

イリーナは次にクロエのところへ向かう。

クロエは流石に身近に危険は察知していなかったので事態に気づいていなかったが、イリーナが状況を説明すると血相を変えた。

 

「ヒカリくん大丈夫なの??」

「あれも一応、木星圏最強のオトコの一人だから、そう簡単にやられないと思うけど、少し手は打っておいた。」

 

とりあえず、クロエとミライはチンペーの実家のイートン家に遊びに行くという名目で避難させる。

木星船団公社のキャルフォルニアベース支社勤務のヒカリの両親などは、キャルフォルニアベースから出ないように厳命した。

キャルフォルニアベース内には湾岸警備隊もいるが、イートン家が手を回して連邦軍の警備兵を配置しているので、迂闊な事はされない。

イリーナは頭の中のリストから暗殺、人質などのリスクを順番に消していった。

あとは木星船団公社の帳簿を改竄して、ゾックの所有を書き換える方法なども残っているので、その辺のデータのハッキング対策を実施する。

さらに支社の中に不穏な人間が紛れていないか、思念を読んでチェックする。

 

その頃、ヒカリは湾岸警備隊の艦内でゾックの内部点検をしていた。

最悪、ゾックで大気圏外へ逃げることも視野に入れなくてはいけない。

念のためいつでも動けるように電源は切らずにおく。

すると艦が動き始めた。

不穏な思念もずいぶん大きくなっている。

そのまま不穏な思念の持ち主が近づいてきているのを感じるがとりあえず殺意はなさそうなので、点検を続けた。

すると、頭部ハッチが開いて「出ろ」と声をかけられた。

見上げるとリンコンが銃を構えている。

ヒカリは素直にゾックから出ると、ハッチを閉め、銃を突き付けられたままスチール製のラダーから艦のモビルスーツ格納庫の通路へ出た。

ヒカリは魂胆は分かり切っているので、めんどくささから黙っていた。

そしてどうやら甲板から海へ落とされるらしい。

誰かが背中から蹴り落そうとする気配を察知して、少しだけかわす。

すると、勢い余った隊員の一人が海へ落ちて行った。

ヒカリはニュータイプなので振り向かなくてもそれぐらいのことはできる。

周りで見ていた隊員にはヒカリが偶然横へ動いたタイミングに運悪く蹴りを入れようとして落ちたように見えるだろう。

 

「あいつは何やってるんだ……」

 

転落した隊員がしばらくして浮上してきた。

ヒカリは周りの隊員たちが気を取られている間に、甲板にあった浮き輪を投げ込む。

隊員たちから少し困惑した思念を感じる。

銃を突きつけられているヒカリが救助を行おうとしたからだろう。

しかし、ヒカリは別に救助をするために浮き輪を投げたのではなかった。

浮き輪を追って自分も海へ飛び込む。

飛び込みや泳ぐ訓練はカリストで暇なときにレジャーとしてさんざんやっているので、別に難しくもなかったが、1Gの重力下で飛び込むと着水の衝撃は想像以上だ。

 

「うわ、びっくりしたあ。」

 

しかも、思ったより体が深く沈んだので浮き上がるのに、少し苦労した。

水面に顔を出すと、甲板上からリンコン以下湾岸警備隊員たちがこちらを見下ろしている。

先ほど落ちた隊員もずぶぬれになりながら甲板へ上がっているところだ。

 

「なんで海に飛び込んだ」

 

ヒカリは息継ぎをしながら浮き輪を掴んだ。

とはいえライフジャケットは着ているので、どうしても浮き輪がいるかといえばそんなこともない。

 

「なんでだろうな?突き落とすつもりだったんだろ?」

 

そう言いながら艦に背を向けて泳ぎ始める。

 

「ずいぶん物分かりがいいな……」

 

ヒカリは困惑する湾岸警備隊の一同の思念を感じながら、そのまま泳ぎ続けた。

そうしているとリンコンが何か通信を受け取ったらしい。

 

「何!?」

 

リンコンの思念に焦りや苛立ちのようなものが混じる。

しかし、気を取り直したらしい。

 

「ゾックは木星には出来過ぎた代物だ!私たちが有効活用してやる!」

 

ヒカリは自分の通信端末が鳴ったのに気づいて、泳ぐのをいったん中断してメッセージを見る。

すると、ヒカリの自宅に侵入した海兵隊員が2名射殺されたとイリーナからの連絡だ。

クロエとミライを人質にしようと狙ったのだろう。

ヒカリは海面で振り向いて艦との距離を測った。

もう充分、離れただろう。

ヒカリは自分に向けられた策略と悪意の思念にもう十分ウンザリしていた。

しかも、家族を狙われたことで言い訳も十分立つだろう。

不思議と怒りは感じなかった。

彼らもある意味職務に忠実なだけだ。

 

「なんで黙ってるんだ!何か言えよ!」

 

リンコンの声が聞こえる。

途中までニヤケ顔でこちらを見ていた他の隊員たちも、だんだん不安な顔つきになっている。

ヒカリは甲板の上の人数を数えて、艦に乗っていた自分以外の全員がいることを確認した。

 

「何か言えって言われても……リンコン、オレはニュータイプだから、あんたらが何考えてるのか分かるんだよ……知ってただろ?」

「し……知ってたよ!」

 

波間に浮かびながらヒカリはため息をついた。

あまり、時間をかけてサメが寄ってきても面倒くさい。

 

「リンコン、弱い者いじめして悪いとは思ってるんだ。でも、お前らは俺の家族を狙ったから勘弁してくれ。」

「え?」

 

リンコンは何を言われているのか理解できていないらしい。

ヒカリは大声で分かりやすく伝えなおした。

 

「お前らは今から全員死ぬ。俺が殺す。許すつもりもない。悪いね。」

 

今度はきちんと伝わったようだ。

全員がポカンとしている。

ヒカリは流石にもう付き合いきれないので、ゾックの有線ビットを起動した。

一瞬で甲板を真っ赤な光が貫く。

 

「あ、沈まないのか。結構頑丈なんだな。」

 

ヒカリはてっきり艦が爆発すると思って距離を取ったのだが、甲板が半壊したまま海に浮いていた。

泳いで戻ると大穴が開いている甲板に上る。

せめて遺品ぐらいはないか見回してみた。

 

「全員、蒸発したか……」

 

格納庫のゾックが有線ビットから放ったメガ粒子砲で全員が蒸発したらしい。

血痕の一滴も残っていない。

 

「相手がアホでも悪党でも……弱い者いじめは弱い者いじめか……。」

 

ヒカリはもう一度ため息をつくとイリーナに連絡を入れることにした。

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