オエド大尉は優れた戦術家だった。
「なんでも大きければいいというわけではないよな!」
「私もそのように思います。」
モンタギュー中尉はオエド大尉の独り言に同意した。
オエド遊撃隊は異質な小隊だった。
ブルー迷彩に塗られた改造ガンペリーを「拠点」に遊撃や斥候任務を得意とする5名で構成された少数精鋭部隊だ。
連邦の軍学校を優秀な成績で卒業したオエドによって提唱され、軍内部のベンチャー部隊として結成された。
連邦軍内部で余っているガンペリーの有効活用が主旨で、ガンペリー1機、モビルスーツ1機による極小の小隊だ。
今回は鹵獲されたゲーマルクをお上から頂戴したため、それの改修のためにキャルフォルニアベースに立ち寄るところだ。
そこへ、連邦の上の方から「何事か起きている」と知らせを受けた。
ついでにその調査も命じられた形だ。
「殿、お上から追加の情報が来ました。」
「うむ、読め。」
なお、オエド大尉は小隊内では「殿(との)」と呼ばれている。
モンタギューはそこにとても高尚な理由があったのを過去に聞かされた記憶はあるが、内容は覚えていない。
1つだけ言えるのは、このオエド遊撃隊の隊員は全て、殿に心酔した人間で構成されているということだ。
したがって、今、連邦からの伝文を読み上げているクラスス軍曹も殿……オエドの信者という事になる。
「湾岸警備隊と共同で訓練を行っていた木星船団公社所属のヒカリ・フリースが反乱を起こし、一個小隊を撃破、未だ行方不明とのことです。なお、原因は沿岸警備隊がフリースの登場するモビルアーマーを略奪するためにヒカリ・フリース及びその家族、クロエ・フリース、ミライ・フリースの命を狙ったためだと木星船団公社保安部は主張しており、軍警と共同で捜査を開始する模様です。」
オエドはその話を聞いてにやりと口をゆがめて笑った。
「信憑性はいかほどかな?」
クラスス軍曹はオエドのそういう性質は熟知している。
「現在確認中ではありますが、フリース家に割り当てられた宿舎内で沿岸警備隊の人間が返り討ちに遭い4名殺害されているらしいという情報が回っている点から見ても、現状、木星船団公社の言い分に分(ぶ)があると言えると思います。」
オエドは大げさに頷いた。
「なるほど。沿岸警備隊の連中も詰めが甘いというか、困ったことをしてくれたものだな。自分たちの立場を少しはわきまえればいいものを。」
沿岸警備隊は連邦軍とは言い難い組織ながら、連邦軍に準ずる組織として扱われている。
宇宙世紀以前に各国の軍隊だった組織を、そのまま地球連邦軍として統一したのが現在の地球連邦軍の成り立ちだ。
その際に、地球連邦軍に入らなかった軍隊もあるが、ここ北米大陸では全ての国軍が地球連邦軍に再編された。
その際に、北米大陸の3か国が保有していた湾岸警備隊の立場がうやむやになったのだが、それを解決しないで宇宙世紀はそろそろ100年に到達しようとしている。
昨今は連邦軍内の軍閥争いが激化していく中で、沿岸警備隊もその軍閥のようにふるまいつつあった。
その上で、軍内での位置を強化すべく「戦力増強」に踏み込んだのだろうが、相手が得体のしれないオバケのような組織「木星船団公社」だったのが悪く作用したのだろう。
沿岸警備隊は読みを違えたのだ。
「殿?我々は何をすればよろしいのでしょうか?」
モンタギューに尋ねられてオエドは即答した。
「『よきにはからえ』って事だな?」
「と、申されますと?」
オエドは自分の椅子に腰を下ろしながら端末を操作して下調べに取り掛かる。
そして、端末の画面を注視しながら答えた。
「どさくさに紛れて、出来るだけ連邦軍にとって『良い結果』を引き出せってことだろうな。」
そう言いつつも、連邦軍から送られてきた事件の概要に目を通す。
「沿岸警備隊の1個小隊を肉弾戦で撃破したのでない限り、木星船団公社所有のモビルアーマーがやったと考えるのが妥当だろうな。そうなると、今、我々が持っているゲーマルクでは勝ち目がない。沿岸警備隊は性質上、地球の大気圏外の活動の必要がないため地上戦と水中戦のエキスパートだ。対して我々が持っているゲーマルクは重力下の……特に水中や水上での戦闘を考慮して作られていない。……まあ、そのためにキャルフォルニアベースに改造に来たのは皆も知っての通りだろうが。」
ガンペリーも地球の大気圏外での運用は考えられていない為、その辺は沿岸警備隊と少し似ている。
「我々としては貴重なゲーマルクをこんなことのためにぶっ壊すのはナンセンスだ。わざわざゲーマルクを積載できるようにガンペリーを改造したばかりだしな。なので、我々の目的は……!」
「……目的は!?」
オエド小隊全員がオエド隊長の言葉を固唾を吞んで待った。
「ズバリ!『連邦軍には適当に成果を上げたフリをしつつ、沿岸警備隊を葬り去った木星船団公社のモビルアーマーとやらの現物を拝んで、我々がパクれそうなモノがあったら、パクって我々の戦力増強に役立てる!』だ!!」
しばらくガンペリー内に沈黙が流れた。
しかし、その沈黙も束の間だ。
「殿!完璧です!!」
「殿!最高です!!」
堰を切ったように配下が自分を褒めたたえるのを見ながらオエドは満足そうだった。
ちょっと身辺がバタバタしていて久しぶりの投稿になってしまいました。