「μ(2)の波長1.115×10の-34乗メートルはお気づきの通りプランク長の下限にかなり近い。現在、これを検波する方法はない。」
ピョンの意見に所長以外が無言で頷いて同意した。
「あるとすれば、スーパーヘテロダイン方式か。」
ワタベの指摘をピョンは待っていた。
「その通りだ、だがビート検波を行うには発振源が他に必要だ。そこでオレが考えたのは『サイコミュ兵器は偶発的にビート検波に成功している』という仮説だ。」
クラークは唸った。
2年の間にクラークはミノフスキーの数式の洗い直しに専念していたが、サイコミュ兵器の動作原理など全く考えていなかったからだ。
ぶっちゃけミノフスキー断章の数式は魅力的過ぎて、サイコミュなどというジオンが浮かれるオカルトに首を突っ込む余裕などなかった。
「1つ目の仮説は、ミノフスキー場が通すμ(2)の中でサイコウェーブともう一つの波が干渉している可能性だ。この場合、最大の電磁波供給源はミノフスキー・イヨネスコ型核融合炉だ。我々は核融合炉をミノフスキー場で制御して可視光線は隔壁で、それ以外の電磁波はミノフスキー場で遮断していると思い込んでいるが、ガンマ線よりも波長の短い電磁波が微弱に漏れていると考える。その上か、はたまた下かの周波数に我々がサイコウェーブだと考えているものが存在して干渉している。」
「なるほど、もう一つの仮説を訊こう。」
ワタベは間髪入れずに質問した。
「もう一つは宇宙線だ。そしてもう一つはモビルスーツに使われる合金の歪みや加熱によって発せられる電磁波だ。」
ワタベは「仮説、3つもあるのかよ」と少しすねた声を出した。
所長を除いた4人は再び意見を交わし始めた。
「ではミノフスキー粒子散布によってサイコミュ兵器が使えるのはサイコウェーブが増幅されているのではなくフィルタリングされているということか?」
「真っ暗闇の中なら、ロウソクの光でも1km先から見えるからな。」
「検波する側が受信周波数を合わせに行くのではなく、ミノフスキー場によって他のノイズが消えることでサイコウェーブがサイコミュ兵器を動かすに至るのか。」
「実際、サイコミュ兵器はニュータイプ同士の精神の感応で伝達されるよりも少ない情報……もっと単純な情報しか受け取っていないからな。」
「まてまて、それは軍人がサイコミュ兵器にそれだけのインプットしか与えていないからだろう?かわりにサイコミュでAIペットのような複雑な情報を受け取れるものを動かしてみてはどうだろうか?」
「私はペットロボットは犬型が良いと思うぞ。」
「いや、そこはある程度会話能力のあるロボットがいいだろう。」
会話が白熱する中、リュウはピョンへ質問を投げる。
「ニュータイプについてはどう考えますか?」
「いや……それはなんとも。」
所長が口を開いた。
「少し私の声を聴いてくれ。」
そうすると、口元に指をあてて「シィー……」と静粛を促した。
正しくは静粛を促しているように見えた。
「私が口から出した音、高いところで8000ヘルツぐらいあると思うんだが、人間の神経細胞は1秒間に8000回の信号を送ることができない。」
一同、所長の話に不意を突かれていた。
クラークが口を開く。
「聞こえるということはどういうことですか?」
所長は首をすくめた。
「分からん。人間の神経はそんな高周波の電気信号を通さない。しかし、1万ヘルツの音ですら聞き分ける……若者はな?」
ワタベは不服そうだ。
「分からんと仰いますが、所長は医師でいらっしゃる。その所長が分からんのは無責任じゃありませんか?」
所長は首を横に振った。
「実は人類の誰も、人間の脳が神経の反応速度以上の高周波を聞き取れる理由を知らん。実は人間の脳と神経については、そんな単純な事すらわかってない。謎のまま、音楽を聴き、会話している。ただし、これが判明したら補聴器の精度は向上してサイボーグ技術は発展するだろうな。ニュータイプを解き明かす前に、人間の脳と精神には『宿題』が多すぎる。ただ耳について分かっているのは、『耳が聞こえる者の方が、声を出すのが器用』だということだ。」
クラークは意外と早く所長の専門性について知れたと感じていた。
「サイコウェーブが『聞こえる』者の方が、サイコウェーブで『話す』のも得意なのかもしれん。ちなみにこれは私だけの意見ではない。」
全員が落ち着いたところで、ワタベが口を開いた。
重々しく口を開いた。
「所長、フリース博士から聞き取り調査をし、ミノフスキー断章を実際に見た結論をお話ししてもよろしいでしょうか?」
「聞こう。」
ワタベは気がけて厳粛に提案した。
「仮説ばかりで埒があきませんので、実験と研究の予算と許可をください。」