機動戦士ゾック~太岁の風   作:スナ惡

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続・木星へ往く船

フリース一家が地球から月面への連絡船に乗る日が来た。

ヒカリ、クロエ、ミライとヒカリの両親のクラークとアヤメの5名だ。

クロエの両親……オジャイル夫妻はやはり地球に残ることになった。

 

「クロエ、ごめんな。」

「私なら大丈夫!心配なのはあっちよ。」

 

ヒカリは4人とは別行動だ。

4人を見送った後、キャルフォルニアベースに戻ってそこからゾックで地球を離れるのだ。

ヒカリが宇宙港からキャルフォルニアベースに舞い戻ると、ゾックは数多のメカニッククルーによって最終確認がされていた。

頭部フォノンメーザー砲はメガ粒子砲に換装されている。

宇宙仕様になったのだ。

さらに木星船団公社キャルフォルニアベース支社の技術班の手によって、多少の改造が施された。

片側のクローはビグザム同様射出可能な質量兵器に換装されており、高速で発射された後、ある程度はサイコミュ制御が効くらしい。

ただし、射出速度が速すぎるので、あくまでも「ある程度」だそうだ。

運が良ければ回収して再利用も可能だという。

 

「助かります。」

 

技術者から射出型クローの説明を聞き終えると、ヒカリはゾックの足元に立った。

 

「昇降機、降ろしていいですか?」

 

中で誰かが作業していると危ないので、昇降機の操作前に声をかける。

頭上の方から「昇降機!オッケーです!」という声を聞いてからヒカリはスペーススーツのヘルメットを入念にチェックしてかぶりなおした。

自分の目の前に下りてきた昇降機の注意書きを改めて見直す。

この昇降機ですら、変なところを掴んで乗ると、手に大けがを負いかねない。

 

「立ち位置、OK!」

 

そしてゾックの股間に吸い込まれていく。

昇降機が完全にロックしたのを確認すると、ヒカリはゾックの内部を操縦席ユニットまで駆け上がった。

よくあるガンダムやジム、ザクのようなハッチが存在しないゾックは、普通には外部から操縦席を開けることができない。

あるのは、今入ってきた昇降機と、頭部の潜水艦みたいなハッチだけだ。

そういった意味では緊急時の脱出に難がある。

今回、他のモビルスーツ同様、球形のコックピットユニットを中に収めて、パイロットの生存性を高めるように刷新はされたが、他のモビルスーツのように脱出時にコックピットユニットを射出する機能はない。

また、ヒカリはハッキリとした理由は分かっていないが、有線ビットが両肩2基に増えた。

 

「これどうして増えたんですか?」

 

通信機越しにメカニックが答える。

 

ーー宇宙だと出来るだけ線対称や点対称の方がバランスがいいんです。

 

なるほど……と納得しながら、ヒカリは計器類の確認を急いだ。

 

「ありがとうございます!オールグリーンです!!打ち上げ予定ポイントへ移動開始おねがいします!」

 

ゾックは自分で移動できるが、熱核ホバーで移動するため格納庫の中でそれをやると熱風が吹き荒れてしまう。

一応、最終手段に「歩く」という移動手段も残されているが、とりあえず床が動いてくれるのでそれに任せて建屋内を出る。

そして、建屋を出て安全が確認されてから自走する。

 

「少し雲が出てるな。」

 

ヒカリは地球で久しぶりに雲や雨を見た。

その世界とももうすぐお別れだ。

小雨が降り始めたが、計画に変更はない。

そのままゾックは水中に入る。

海中から大気圏外へのダイレクト打ち上げ実験だ。

管制からGOサインが出るまでの短い時間、キャルフォルニアの海中を眺めた。

どうせ真っ暗で見えないのだろうが、木星の衛星……カリストやエウロパ、タイタンはどんな海だろうか。

地球の海のように太陽が照らしてはくれない、厚い氷の下の海へ思いを馳せる。

 

ーー大気圏脱出プロセス開始してください。

 

待っていた許可が来た。

 

「了解!大気圏脱出プロセス開始します!!」

 

ゾックの推力、推進剤、共に余裕がある為、多少失敗しても安全に基地に帰ってくることができる。

また、脱出プロセスと大仰な名前は付いているが、予め決められた向きに思い切り加速するだけの話だ。

 

「見てろよ!ミライ!!」

 

水中から飛び出したゾックは一旦、海面でホバリングする。

そして、そこから両脚、両腕のスラスターが真っ白な光芒を放つ。

 

「おおおお!!」

 

キャルフォルニアベースから遠く離れた沖にも関わらず、その光は基地からもはっきり見えた。

紡錘形のモビルアーマー、ゾックが最大推力の10パーセントほどで地球の重力を振り切って加速をはじめた。

両腕のスラスターは今回はあくまでも姿勢制御のための補助だ。

ただし、最大推力の10パーセントとはいえ中に乗っているヒカリにかかるGはシャレにならない。

ヒカリは血中酸素濃度のモニターを見ながら必死で呼吸を整える。

 

「……ぐ……角度良し!」

 

管制に必死で報告を上げる。

 

ーーこちら管制、『角度良し』確認できています。予定通りの軌道を維持できています。

 

その声を聞きながらも、モニター越しの空の色はどんどん濃紺になっていく。

大気が薄いのだ。

ヒカリは高度計を見ながら、両腕の補助スラスターを操作した。

 

ーー補助スラスター噴射開始までカウントダウン……5…4…3…2…1…噴射してください。

 

ヒカリは指示通り噴射を行う。

通信の向こうではさらに噴射持続時間のカウントダウンが行われている。

指示通りに噴射を止める。

予定では地球の低周回軌道に乗っているはずだ。

脚部メインスラスターを止めると、ヒカリにとっても数年ぶりの無重量状態だ。

一通り景気を睨むと、特に問題なくここまでこれたようだ。

ヒカリはコックピット内で減圧が起きていないことを確認すると、ヘルメットを外してチューブの水を飲んだ。

 

「ああ、生き返る!」

 

気が付くと自分の端末に着信のライトが点灯している。

開いてみるとクロエからのメッセージに画像が添付されていた。

 

「『ちゃんと飛べたね』……か……ハハッ!」

 

画像はクロエの乗る連絡船の窓から撮影された遠く小さな白い光芒だった。

その画像を閉じると、クロエとミライの写真のいつもの待ち受け画面に戻った。

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