機動戦士ゾック~太岁の風   作:スナ惡

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交通規則

低周回軌道まで出てしまえばゾックはそこそこ宇宙を自由に飛び回れる性能があった。

上手くすれば逆噴射しながら大気圏突入して地球に逆戻りすらできるゾックなので、その辺は不安がない。

問題は渋滞する宇宙をジュピトリスがやってくる月の周回軌道まで移動することだ。

異形のモビルスーツが飛び回っている昨今、多少見覚えがない宇宙船が飛んでいても、あまり誰も気にはしないが、一応、このゾックは木星船団公社の機密扱いのモビルアーマーなので、少し気を使う。

とはいえ、輸送船や連絡船でごった返す地球圏をあまり好き勝手に飛び回るわけにもいかないので、木星船団公社が手を回して各宙域の管制サービスを受けながら移動することになる。

これが連邦軍とかであれば「そこのけそこのけお馬が通る」のような世界観で無理やりどこでも行けるのだろうが、こちらはあくまでも企業所属なのでそうもいかない。

管制をたらいまわしにされながら移動するような妙に肩身の狭い旅路になった。

 

「これは、運送会社の人は大変だわ。」

 

先に「ごった返す」と表現したが、地球の道路のような距離感ではない。

宇宙空間ではほとんどの移動体が超音速で飛び回っているので、安全な車間距離はそれに応じて長くなる。

しかし、それもコロニーの近くなどでは各スペースコロニーに対して相対速度0(ゼロ)に近づける為、お互いの船が視認できるほど近くなる。

さらに、コロニーに入ったりする際には通行許可書のチェックが必要になる為、そこでは地球の渋滞さながらに長い列ができることになる。

とりあえず、今回指示されたルートはサイド5のテキサスコロニーを中継点として月の裏側へ抜けるルートだ。

サイド5に近づくと、各所にルウム戦役の爪痕がまだ残っていた。

あちこちに残る戦禍の痕跡を眺めながら長蛇の列を並びきると、ようやくテキサスコロニーでゾックを降りた。

木星船団公社の現地支社の簡単な歓迎を受けると、様々な補給とメンテナンスをお任せして、宙港の中の割り当てられた仮眠スペースで眠る。

目を覚まして改めてみてみると木星船団公社の支社がテキサスコロニーの宙港部分に入り込んでいるらしく、結構なスペースを木星船団公社で占拠しているのが分かった。

ヒカリのあまり知らない地球圏での木星船団公社の姿の一つだ。

 

「あ、お目覚めになられましたね。」

「ありがとうございます。おかげでぐっすり眠れました。」

 

現地のスタッフから色々説明を受け、確認事項に目を通す。

クロエやミライは快適な旅客機での旅で、ベッドもシャワーもあるが、ゾックにはそんな上等なものはない。

具体的な内部海の探検計画はまだ立っていないが、必要に応じてゾックの中をもう少し居心地よく改装すべきかもしれない。

 

「ありがとうございます!出発します!」

 

ヒカリは再度スペーススーツの点検を行う。

すると、別の職員から話しかけられた。

 

「そういえば、フリースさん。最近この近くにも宇宙海賊が現れるようになっているので気を付けてください。特にテキサスコロニーの戦闘禁止宙域を出た瞬間に襲ってくる奴がいるので……向こうはギリギリこっちが反撃しづらいタイミングで狙ってくるらしいんで。」

「ありがとうございます。気を付けますね。」

 

ヒカリは貴重な情報に感謝を述べると、頭部ハッチからゾックへ滑り込んだ。

そのままテキサスコロニーの管制からの通信を待つ。

 

ーー木星船団公社所属の輸送船Z5、誘導灯に従って発進してください。

 

ヒカリが言われた通りに宙港を離れると、さっそく宇宙海賊らしき連中の思念波を感知した。

ゆっくり出るとハチの巣にされそうなので、安全宙域から制限速度ギリギリまで一気に加速してテキサスコロニーを飛び出す。

 

「4機?」

 

レーザー通信が入ってくる。

恐らくそのならず者だろう。

一応、通信を開いてみる。

 

ーーおい、そこの輸送船!積み荷ごと船を置いていけば命まではとりゃあしねえ!

 

ヒカリはなんだか頭痛がした。

 

「これは輸送船じゃなくてれっきとしたモビルアーマーだ。お前らが想像している以上に重武装だぞ?」

 

ヒカリは相手の攻撃の意思が濃厚になるのを感じた。

 

ーーそのテは食わねえぜ!後で泣き言言っても知らねえからな!!

 

ヒカリはとりあえず双方の攻撃がテキサスコロニーに当たらないように位置取りすることにした。

 

「とりあえず、お前らにちゃんと重武装だって分かるように一発花火を上げてやるからよく見ておけ。」

 

ヒカリは何もなさそうな方向を狙って威嚇射撃として4連メガ粒子砲をぶっ放した。

 

ーー……あ……あぶねぇな!!当たったら死んじまうだろ!!

 

通信の向こうで狼狽する声にヒカリはため息をついた。

 

「だから、当たらないように撃ってやっただろが?うるさくすると次は狙うぞ?」

 

ヒカリがそう言うと返事がない。

返事がない代わりに、通信の向こうで何やら揉めている声がうっすら聞こえる。

 

ーー今日のところは大丈夫です……。

 

ヒカリはわざわざ見せつけるようにゾックのスラスターをふかして急加速して見せた。

恐らく、宇宙海賊ごときはここまですさまじい加速力のモビルアーマーを見たことはないだろう。

実際、そこに乗っているヒカリはその加速で一瞬気を失いかけたが、通信機の向こうから「ヒィィ」という声が聞こえて我に返った。

なんでそんな無茶な加速をしたかというと、輸送船だと思われたのがムカついたのだ。

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