機動戦士ゾック~太岁の風   作:スナ惡

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ある意味、古巣

地球から見た月の裏側、サイド3が近づくと、異様なデカさのジュピトリス級が見えてきた。

クロエとミライはもう少し後で到着予定だが、ヒカリはこのゾックをジュピトリスの工業区に積み込む仕事がある。

資材用の巨大なエアロックの横にゾックを停止させると、エアロックの巨大な隔壁が開いて、ゾックを引き込むアームが伸びてくる。

 

ーーロック、OK!!

 

通信機からジュピトリスのクルーの声が聞こえてきた。

ヒカリはアームによる引き込みが終わりゾックの動きが停止したのを確認してから、コックピットユニットを開けて、手荷物だけ持って頭部ハッチから外へ出た。

 

ーーフリース保安員、お疲れ様です!地球からの旅はどうでしたか?

 

目の前にいるクルーが通信機越しに話しかけてくる。

 

「トイレがないから、オムツ生活なのだけが不満です。コックピットユニットになったおかげで安全性は上がったんですが、スペースの関係でそういう装備が無くなっちゃって……将来的な内部海調査を考えるとこれは勘弁してほしいですね。」

 

テキサスコロニーでも無重量状態の宙港エリアを出ていない為、身体を拭いただけできちんとしたシャワーは浴びていない。

ヒカリもいい歳をしたスペースノイドなのでいざとなったら文句は言わないが、スペーススーツの中は体臭とオムツの匂いと消臭剤が混じったひどい匂いだ。

無重量のエリアから通路を抜けて、人口重力のある居住区へ移動する。

久しぶりに1Gかと思ったら、月の引力のおよそ0.17Gだった。

しかし、これでも十分シャワーは浴びれる。

ヒカリはジュピトリスにこれまで4年乗ったため、内部の施設については熟知している。

共用のシャワールームの中でも、特に「汚れた」人間が使うシャワールームに入ると、スペーススーツをビニルバッグに放り込んで上から自分の名前を書いてクリーニング行きのコンテナに放り込み、シャワールームの自販機に替えの下着の在庫があることを確認する。

さらに、清潔な共用のスペーススーツが壁にかかっている事を確認すると、下着とオムツを脱いでゴミ箱に放り込み、全裸で便座に座って用を足すと、念願のシャワーを浴びた。

据付のシャンプーもボディーソープも宇宙世紀に無くてはならない強力な洗浄力と消臭力で知られる一級品だ。

数日もたっていないとはいえ、久しぶりに会う愛娘に臭いと思われたらたまらない。

熱いシャワーで全身を念入りに洗う。

服は地球製の物はあまり役に立たないので、ジュピトリスの中にいるうちは、ジュピトリスの中で調達するつもりだ。

やっとさっぱりして居住区内の今回割り当てられたフリース家の部屋へ向かう。

そこにはすでに「フリース」と表札が付いていた。

ちなみに隣の表札も「フリース」と書いてある。

父と母の部屋だろう。

両方の部屋を少し覗くと自分たちの部屋は幼児向けに配慮された設備になっている。

ヒカリは手荷物からマジックペンを出すと、自分の割り当ての部屋に「ヒカリ、クロエ、ミライ」と手書きで足した。

 

「あら、ミライさんのお父様?保育士のモマディです。」

 

ヒカリは「誰かいるな」とは思っていたが、まさか保育士だとは思わなかった。

握手を求めて差し出された手を握り返すと、よく日焼けした腕に緑色のタトゥーを入れているその女性は思いのほか握力が強かった。

 

「よろしくお願いします。ヒカリ・フリースです。娘がお世話になります。」

 

話を聞くと、ヒカリの両親の部屋、ヒカリ達家族が滞在する部屋、臨時の保育園、マクソンの部屋と順に並んでいるらしい。

そして、今回、幼児を連れて木星に渡航する物好きはヒカリ達だけのようだ。

モマディは熟練した保育士でスペースコロニーや月面、また客船での勤務経験がある徹底したプロらしい。

ヒカリは好感が持てて、信頼できる人物だと感じた。

また、モマディは出発準備が進んで、皆が一様に忙しそうにしている艦内で医師を見つけてヒカリに紹介もしてくれた。

 

「私はヒカリさんの事、存じ上げていますよ。木星の英雄です。フォンセカです。初めまして。」

 

フォンセカと名乗ったこの医師は木星から来て、そのまま木星に帰っていくつもりらしい。

医薬品と医療機器の積み込みで忙しいらしく、笑顔だけ残して足早に去っていった。

ヒカリはその後、モマディとも別れると、工業区へ行ってコンテナの中から自分の脱いだスペーススーツを探し出して洗浄機にかける作業を始めた。

旧式だが作りが良いスーツなので丁寧に使っている。

一年戦争前はたくさん流通していた旧式のスペーススーツだが、戦争でかなりの数が失われたらしい。

最近はもっと洗練されたデザインのスーツが出回っているが、度重なる戦争で数が足らずに量産された粗製品で、スーツの機能や品質は旧式のスーツの方が上回っているのだ。

木星圏には比較的残っているが、それでも大事に使うに越したことはない。

スーツは劣化していてもスペーススーツ用の脱臭機は進化している。

ヒカリは「できるだけマシになって下さい」と願いを込めながら、『消毒・脱臭』ボタンを押してクリーニングルームを出た。

自室に戻ると、手紙らしきものが置いてある。

少し警戒しながら開くと、懐かしいリー老人からの手紙だった。

大枢党の責任を押し付けられながら、土星探査に向った、あの命知らずの老人だ。

手紙には結婚や子供が産まれた事への祝福や、末永い健康を願う旨が記されている。

そして、土星探査から地球へ直接帰ったリー老人はひとまず探査の結果をまとめつつ体を休め、その後の身の振り方を考えるらしい。

ヒカリも含め、リー老人の事を悪人だと思っている木星野郎はほとんどいない。

シオ・イェンと同じくリー老人も木星圏を代表する傑物だ。

そんな懐かしい人からの手紙を届けて、部屋に置いてくれた人がいる。

きっと、表立っては出来なかったのだろう。

ヒカリは心底「ありがたい」と感じて、手紙を自分のバッグの底にしまい込んだ。

その翌日にはクロエとミライも合流し、数日の準備期間を経て、木星へ往く船は穏やかに地球圏を離れた。

宇宙世紀91年、ヒカリは26歳になっていた。

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