カリュナスの竜騎士   作:yumui

10 / 15
皇帝

帝都。

 黒鉄と霧に包まれた宮殿は、夜のように沈んだ静寂の中にあった。

 

 その最奥、玉座の間は人の気配を拒むような冷たさに満ちていた。

 高い天井には光ひとつなく、壁は竜の骨を象った彫刻で飾られ、

 中央の玉座には、黒い鎧の男が、じっと座っていた。

 

 「……来たか」

 

 男の声は、低く、疲れていた。

 

 玉座の前に、三人の影が並ぶ。

 

一人は、巨人のような巨体の男、ノレグラ。

 無骨な右腕は金属の義肢で、時折、火花を吐いた。

 

 その隣に立つのは、灰色の髪を揺らす少女——リィカ。

 無表情のまま、皇帝の前にいる。

 

 最後に、黒い竜の紋章を胸に刻んだ騎士——イウヴァルトが静かに立っていた。

 

 兜の奥から鋭い眼差しを皇帝に向けている。

 

 「……ハンチが死んだ」

 

 皇帝の声は、まるで深い井戸の底から響くようだった。 

ノレグラが片眉をぴくりと上げる。

 

 「……本当っすか?あのケルピーが、やられるなど……」

 

 

 「確かですか?」とイウヴァルト。

 

 皇帝はゆっくりと顎を引いた。

 

 「確かだ。竜騎士が現れた。白金の竜に乗る少女。名は……セレン」

 

 静寂。

 

ノレグラの義肢がぎしりと音を立てた。

 

 「白金……まさか、竜の卵が……」

 

 リィカは微かに瞼を伏せ、口をつぐむ。

 

 イウヴァルトだけが微動だにせず、皇帝を見据えていた。

 

 「セレン…ですか」

 

 皇帝は応えなかった。

 

 代わりに、深く椅子に身を沈め、肩を落とした。

 

 

 「……厄介だ。あの竜と共にある者は、我らの計画を阻む」

 

その声には苛立ちも怒りもなかった。

 ただ、深い倦怠と疲弊があった。

 

 

 「陛下、次なる命は?」

 

 イウヴァルトの声は低く、乾いていた。

 

 

 皇帝はしばらく黙り込み、やがて言った。

 

 

 「……ノレグラ。お前が動け」

 

 男がゆっくりと前に出る。

 

「はい」 

 

 「お前のゴーレムには、白金の竜もかなわぬだろう。 ——やつらの骨を私に献上しろ」

 

 

 リィカの灰色の瞳に、一瞬だけ迷いが走ったように見えた。

 

ノレグラは自身に満ち溢れたように答えた

 

「命に従います」

 

 

 「リィカは帝都の防衛を強化しろ。奴らに門が破られぬよう、護りを厚くせよ」

 

 「はい」

 

皇帝の視線が最後に、イウヴァルトへと向けられる。

 

 「そして……イウヴァルト。お前は、まだ動くな」

 

 

 「……なぜですか?」

 

 「この国の最後の剣は、すべてを刈り取るときまで抜かぬ。

 それが、わたしの……最後の願いだ」

 

 イウヴァルトは、しばし無言で皇帝を見つめた。

 やがて、静かに片膝をつく。

 

イウヴァルトは、しばし無言で皇帝を見つめた。

 やがて、静かに片膝をつく。

 

 

 

 「……御意」

 

 

 

 玉座の間に再び静寂が戻る。

 やがて三人は影のようにその場を去っていった。

 

 

 残された皇帝は、一人、玉座に沈み込んだまま、仰ぎ見た天井をぼんやりと見つめた。

 

 

 「……白金の竜か。またなのか」

 

 その声はどこまでも疲れ果てていた。

 まるで、すべてを終わらせたいと願うような……終焉を望む者の声だった。

 

玉座の間に吹いた風は冷たく、長い夜の予感をはらんでいた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。