カリュナスの竜騎士   作:yumui

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ゴーレム

風が冷たい。

 帝国北部——カルドアの鉄嶺は、空に届くほどの鋭い峰々が連なる、灰色の山域だった。

 

 反乱軍の先遣隊は、その斜面に砦を築く帝国の兵器拠点に迫っていた。

 

 「見えるか、あれがノレグラの城塞だ」

 

 

 タルラが険しい視線を向けた先、灰の雪に包まれた山腹に、鋼の要塞が浮かび上がる。

 壁も門も、岩と鉄と魔導金属を組み合わせた異形の建築。

 その周囲を、無数の人型ゴーレムたちが守っていた。

 

「まるで兵士の代わりに造られた軍勢みたい」 

 

 セレンが呟く。

 肩のうしろでエルが低く唸った。

 

  「嫌な感じがする。あのゴーレム、ただの機械じゃない。」

 

 

 その瞬間、鋼の要塞から警告音のような咆哮が響き、ゴーレムたちが動き出す

 

 

 「来るぞ!全軍、迎撃準備!」

 

反乱軍の弓兵が陣を張る一方、

 セレンとエルは空からの突破を命じられ、風を切って山頂の砦へと向かった。

 

 

 だが——次の瞬間、山が動いた。

 

 

 「……っ! あれは……!?」

 

 

 砦の裏から、空を覆うほどの黒い巨人がゆっくりと立ち上がった。

 その全身は鋼鉄で構成され、両腕には大砲のような砲口。

 背中には蒸気を噴き上げる魔導炉の塔がそびえ立っていた。

 

その頭上に立つ男の姿があった。

 巨躯の男——ノレグラ

 

 「小娘……てめえが白金の竜騎士か」 

 

 地鳴りのような声が響く。

 セレンは剣を抜き、エルが咆哮を放った。

 

 

 「行こう、エル!あれを落とす!」

 

 

 空へ舞い上がったセレンとエルは、高速で接近しながら炎のブレスを放つ

 

エルの喉元から放たれた白金の焔が、巨大ゴーレムの胸部に直撃する。

 

 だが——煙すら立たなかった。

 

 「な……!?」

 

 「無駄だ。この装甲は耐炎に強化が施されているんだ。

てめえらがいかなる業火を吐こうと、俺の鋼には届かねえよ」

 

 

 

 ノレグラが片手を挙げると、巨大ゴーレムの左腕から雷のような衝撃波が迸る。

 

エルが旋回してかわすが、その余波だけで空気が爆ぜ、翼が痺れる。

 

 セレンは鞍から飛び降り、旋回しながらゴーレムの腕に着地。

 急所を探しながら駆けるが、全身が魔導の鎧板で覆われている。 

 

 「硬すぎる……!」

 

 

剣を叩きつけるもびくともしない。

——風は、止まっていた。

 巨大なゴーレムの背に立つセレンは、目前にそびえるノレグラを見上げていた。

 金属で強化されたその巨躯。肩には魔力冷却装置が組み込まれ、

 背には蒸気を噴く黒い塔がそびえている。

 

 エルの炎も刃も、通じなかった。

 セレンは剣を握りしめながら、ある異変に気づいた。

 

 「……あの肩のあたり、光ってる……?」

 

ゴーレムの両肩と胸部、背中の魔導炉の下。

 そこには、まるで呪文が焼きつけられたような紋様——魔法陣が刻まれていた。

 

 

 「セレン、見える? 魔法陣だ、制御術式だよ!」

 

 

 エルが上空から叫ぶ。

 「これが本体なんだ。装甲よりも“核”を狙え!」

 

 

 「わかった! 私がノレグラを引きつける。エル、空から魔法陣を壊して!」

 

 

 エルはうなずき、白金の翼で宙を舞う。

 セレンは剣を抜き、ゴーレムの頭部に飛び移った。 

その先に、ノレグラが立っていた。

 黒いコートの裾をなびかせ、魔導斧を構えている。

 

 「察したか?だが遅いなあ、小娘」

 

 ノレグラが踏み込むと同時に、空気が震えた。

 その一撃は斧というより、鉄の城壁が襲ってくるような重さ。

 

 セレンは間一髪で跳び退くが、踏みしめていた鉄板が真っ二つに割れた。

 

 「っ、はや……っ!」 

 

ノレグラは二撃目を振るう。セレンは受け止めようとするが——弾き飛ばされた。

 身体が浮き、鉄の床に背を打つ。

 

 

 「ぐっ……!」

 

 

 ノレグラが迫る。

 ——だがその瞬間、空中を舞うエルの咆哮が響いた!

 

 「セレン、伏せて!」

 

 空から飛来した白金の爪が、ゴーレムの肩の魔法陣を叩き割った。

 

眩い火花とともに、肩部から黒い蒸気が噴き出す。

エルは旋回し、背中の魔導炉、右肩、そして胸元の魔法陣を次々に狙う。

 旋風のように空を切り、鋭い羽撃きで刻印を破壊していく。

 

ゴーレムが震え、蒸気が不規則に吹き出す。

 足元が崩れ、両腕ががくりと脱力したように垂れ下がる。

 

 ——巨人は、止まった。

 

 「エル……!」

 

 セレンが立ち上がる。だが、そのときノレグラが再び斧を構える。 

「まだ終わらん……! 小娘一人、ここで屠ってくれる!」

 

 

 斧が振り下ろされる。

 

 セレンは剣を掲げ、咄嗟に受け止める。

 が、鉄と鉄が激突する轟音と共に、彼女の剣が軋む。

 

 「くっ……!」

 

 

 そのとき——エルが音もなく滑空してきた。 

 

 「セレン!」

 

エルの体当たりがノレグラを吹き飛ばす。

 重装の身体が空中に舞い、ゴーレムの肩の外側に叩きつけられる。

 

 

 ノレグラは、くぐもった呻き声を漏らし、左腕の装甲が崩れる。 

 

 「ぐっ……! 覚えていろよ!竜騎士のガキ……!」

 

 

 黒い魔導装置を起動させると、ノレグラの身体が煙とともに視界から消えた。

 転移魔術だ。 

 

 セレンは剣を下ろし、荒く息をついた。

 

「……逃げた、けど……」

 

 

 

 「ゴーレムは止まった。砦の制御中枢は潰した」

 

 エルが隣に降り立ち、翼を静かにたたんだ。

 

 

 セレンは空を見上げた。

 

 灰色の山岳に、ようやく風が戻ってくる。

 

 

 「……あとは、リィカ。そして……あの男、イウヴァルト」

 

 

 白金の竜が頷いた。

 

 「この空に、まだ風は残ってる。あいつらを止めるまでは、落ちられない」

 

セレンは静かに剣を納めた。

 

 その瞳には、次に向かう決意の光が宿っていた。

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