風が鳴いていた。
雪原は果てしなく白く、沈黙と凍てついた空がすべてを包んでいた。
セレンは白金の竜・エルの背に身を預け、雪をかき分けながら、ひたすら北を目指していた。
「……セレン、もうすぐだと思う。谷の気配、ある」
エルが低くつぶやいた。
彼の金属のような鱗に、雪が積もっては溶ける。白の中に白は溶け込み、足跡すらすぐに消える。
「うん……行こう」
セレンの声は疲れていたが、凛としていた。
その瞳にはもう涙はなく、ただ確かな目的が宿っていた。
エレンを失った夜から、数日。
追跡を避けながら雪の荒野を進み、ようやく反乱軍の根拠地——ダスレアの谷に辿り着こうとしていた。
谷の入り口には、岩に刻まれた紋章があった。
それは二本の交差した剣と、羽ばたく鳥の紋。
——反乱軍の印。
「……見つけた」
ふと、風の向こうから声がした。
「何者だ!」
白の外套をまとった数人の兵士が雪の帳から現れ、剣を構えた。
セレンはサーベルに手をかけたが、すぐに両手を挙げる。
「待って! 私はセレン。エレン・ローヴァと共に戦っていた者です! 彼女の……仲間だった!」
兵士たちは目を見交わし、一人がうなずくと、奥へと合図した。
数十分後、セレンは雪に覆われた狭い峡谷の奥、氷の砦と呼ばれる拠点へと案内された。
そこは雪と岩で築かれた要塞であり、吹雪すら遮る厚い防壁の中に、温かな光と人の営みが確かにあった。
火が焚かれ、鍛冶場では武具が打たれ、食堂では寒冷地用のスープが煮込まれていた。
それは“戦う人間たちの町”だった。
「ここが……反乱軍の本拠地……」
セレンは息を飲んだ。
そして案内の兵士は、静かに言った。
「指導者に引き合わせる。ついてきてくれ」
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広間の奥——石の壁に囲まれた会議室で、セレンは彼女に出会った。
その女性は、漆黒の鎧をまとい、長く白銀の髪を編んで背に流していた。
鋭い目元、冷たい雪のような気配。だがその内側には、燃えるような熱が感じられた。
「君が……セレンか。話は聞いている」
——反乱軍総指導者:タルラ=ヴァスグレイ。
その名は、セレンも一度だけエレンから聞かされていた。
「……エレンは、亡くなりました。帝国に囚われていた彼女の弟子……リィカっていう少女に、殺されて……」
セレンは一言一言をかみしめるように語った。
タルラは黙って話を聞き、やがて深く頷いた。
「……エレンは私の古い友人だった。彼女が信じた者なら、私はあなたを疑わない。
それに、あなた乗りこなすものは……見ればわかる」
タルラはわずかに笑みを見せた。その視線は、部屋の外で雪を振り払うエルに向けられている。
「だからこそ知っている。あなたたちの存在が、帝国の闇を照らす希望であると」
タルラはセレンに一歩近づき、手を差し出した。
「セレン。今、反乱軍は次の段階に入ろうとしている。君の力が必要なんだ。」
「はい…喜んで」
セレンはタルラの手を握った。