転生して最初に目に入ったのは――炎だった。
キャンプファイヤーみたいに、組まれた木の中でごうごうと炎が燃え盛っている。
綺麗だった。
美しく思えた。
もっと見ていたかった。
もっともっと……この瞳が灼けるまで。
――だから燃やした。
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億度の飯よりも百合が好きだ(自己紹介)。
百合が、好きだあああああああああああああああああああああ!
生まれたときから、俺の脳髄には百合が叩きこまれていた。
振り返れば、無理もないだろうと思う。
俺には可愛い幼馴染が二人いた。
もちろんどちらも女の子だ。
物心もつかない赤ちゃんな時代から俺たちは三人で遊んで、仲が良かったらしい。
そして物心がついたころ、いつものように幼馴染たちと遊んでいた時、思ったのだ。
――距離近くね?
もちろん俺ではない。
幼馴染の二人だ。
幼児にしてはすごい……それはものすっごい(語彙力)スキンシップも当たり前のようにしていた。
俺はいつも観葉植物のようにそれを眺めていた。
もちろん俺は一切そんなことやられませんでした。
昔は仲間外れにされているようで悲しかったけど、今となってはそれが正解だったと確信をもって言える。
ある時、二人のスキンシップを眺めていたら鼻血を流していることに気付く。
眼も血走っていたと思う。
あとで親に鼻血が出る原因を聞いたら、エッチなことを考えたり興奮すると鼻血が出るという。
――つまり、俺は二人の触れあいをエッチなことだと思っている!?
俺は自分の癖を自覚し、それを機に俺は完全なる覚醒に至った。
後にこの癖の名を、百合ということを知った。
俺は幼馴染二人の事を見守ることに決めた。
小学校の頃、同姓とはいえあまりにも仲が良い二人に、男子が気持ち悪ー、とか宣いやがって二人はそれを気にして距離が遠くなり始めてしまったのだ。
俺はすぐさまそいつに一生消えぬであろうトラウマを植え付けてやった。
百合を汚すものは全員潰すべし。古事記と百合守護法にもそう書いてある。
この頃から、俺は百合の観察者から守護者へとジョブチェンジした。
俺の活躍もあって幼馴染二人の距離は元に戻り――いや、より近くなって、俺に栄養を供給してくれるようになった。
そんな二人は中学校の頃に、付き合ったらしい。
その知らせを恥ずかしがっている二人から聞いた時、俺は天国に昇るかと思った。
幼馴染以外にも、いくつもの百合があった。
例えば。
『ねえ、義姉さん……私の事、好き?』
『もちろん、考えるまでも無いわ。一生一緒にいましょうね』
――最初は険悪な仲だった義理の姉妹同士が。
『あんたが読んでるその漫画を忘れさせるほどイイコト、あーしがその体に叩きこんであげる』
『え、ちょ、ちょっちょっちょっと!?待って待って、こんな所で……!?』
――陰キャな腐女子と、陽キャなギャルが。
『ねえ、私以外の女の子と喋らないで?私以外いらないでしょう?私は貴女以外いらないわ。連絡先も消して?ねえ、良いでしょう?だって私はこんなにもあなたの事が好きなのだから』
『我慢のできない悪い子だね。そんな心配しなくても、僕は最初から君一人しか見ていないというのに』
――ヤンデレお嬢様と、王子様系女子が。
『私に近づかないでって、何度も言ってるじゃない!やめて……やめてよ、復讐に生きるって決めたのに、これじゃ全部忘れちゃって、あなたに溶かされちゃうじゃない……』
『それでいいんだよ。あなたに復讐は似合わないから、笑って欲しいんだ。昔、私にしてくれたでしょう?』
――復讐のためだけに悠久を生きていたラスボス系魔女と、昔彼女に助けられた過去を持つ魔法少女が。
『絶対、絶対君を見つけて見せる!どれだけの時代を越えようとも!そうしたらまた一緒に星を見よう!絶対に、君を一人になんてさせないから!』
『……うん!待ってる、待ってるから!信じてるから!』
――タイムリープ能力を持つ不思議な少女と、星見を宿命付けられた少女が。
他にも、色々あった。
どれだけ時間が経とうとも、色褪せぬ俺の思い出だ。
『——君!?どうして!?』
ちり、とノイズが奔る。
痛みの記憶だ。そして同時に最後の記憶だ。
百合には大なり小なり障害がつきもので。
俺は百合の守護者として、その障害の一部を取り払うことが使命だ。
全部は取り払わない。
百合の成長を阻害することはせずに、ただ枝葉を剪定するように邪魔な
彼女たちに降りかかる理不尽を、恋する二人を引き裂こうとする理不尽をこの手で。
いつ、どこで何が起こっても良いように努力を重ねた。
だけど、どこまでいっても俺はただの人間で。
誰かにとってのヒーローになんてなれず、特別な力なんて無かったのだ。
そんなことだから、俺が百合に首を突っ込む以上いつか俺が辿る未来はわかっていた。
ただ、予想よりもずっと早かっただけだ。
最期の記憶は、視界いっぱいに広がる大きな炎。
それと、身代わりになった俺を驚愕の表情で見る少女。
炎は無情にも俺を燃やし尽くした。
想像を絶する痛みの中、少女が涙を流しながら俺を見ていることに気付く。
――どうして?
そう訴えている気がした。
何分もう声は聞こえないので、妄想に過ぎないのだが。
どうして、か。
確かに俺は百合の守護者だ、だがそれと同時に観察者でもある。
少女を助けたのなら、俺は死ぬ。
そしてもう一切の百合を鑑賞できることはできなくなるだろう。
では少女を助けなかったら。
俺は引き続き百合を楽しむことができるだろう。
どう考えても、そっちの方が幸せだ。
俺もそう思う。
俺が命をなげうって助けた少女は、素質はあるものの百合に達していない。
であれば、助けることなんてしなくとも良いのではないか?
否、否だ。
素質があるのならば、俺はどうしたって守護者となる。
それに、なんとなく。
こうしなければ、今まで俺がやってきたことが無駄になる気がした。
俺は炎の中、少女に向け笑みを浮かべる。
このまま断末魔を上げたのなら、少女にとって消えぬトラウマになること間違いなしだろうから、痛みなんて感じていないぞと無理にでも笑って見せる。
え?目の前で人が死んだらトラウマになる?
まあそうだけど、笑顔で死ぬか断末魔を上げて死ぬか、どちらがトラウマ分が軽く済むかと言われたら後者だろう。
『百合……は良いぞ……』
俺は最期に自分の生きた意味を呟き、サムズアップしながら灰へと姿を変えた。
……はずだった。
どくん、どくん。
心臓の音ではない、百合察知器官『百合センサー』が反応している音である。
いくつもの百合を見届け進化してきた俺の百合センサーが反応する。
どこだ?どこだ?
限りなく、俺の近くにある。
内側……?いや、これはまさか……俺?
俺自身に百合センサーが反応しているのか?
これまでの実績を鑑みて、誤作動と言うことはないだろう。
ではなぜ……?
いやまず俺は死んだはずでは……?
何が起こっているのか、俺は瞳を開ける。
――そして、燃え盛る炎を見た。
百合センサーのことにも構わず、俺は炎に手を伸ばす。
まるで、光に魅入られた蟲のように。
「——きゃきゃ……!」
燃えろ、燃えろ、もっと燃えろ!
もっと見たいのだ!
もっと!もっと!もっと!
どうかその光を、熱を見せてくれ!
「魔術!?いや、これはまさか……!?」
「それよりもこの子を止めろ!このままでは世界樹に炎が!」
もっと!もっと。……も、っと……。
意識が急速に落ちていき、保てなくなる。
「何ということだ……我らの森が……我らの世界樹が……」
「なんてこと……悪魔……悪魔の子よ……!」
多分、正気に戻ったのだろう。
眠り際、冷や汗を感じつつ俺は思った。
――森、焼いちゃった……。
やべえ、どうしよう。
どうすれば良いんだ?
まあ、でも、いいか。
だって、ああ……。
すっごく、綺麗だったなぁ……。
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十年後から、その記録は始まる。
「起きろ」
石の扉が音を立てて開く。
鎖に繋がれた――はゆっくりと、顔をあげて来客者の顔を見る。
「お前に、贖罪のチャンスをやろう」
鎖に繋がれた両腕を、その人に向けて――いや、その人の後ろに向けて伸ばす。
がしゃり、と音を立てて、腕は引き留められる。
痛みが奔るが、それにも構わず手を伸ばし続ける。
皮が削げ、血が流れる。
「——【
それは、いつだって欠かさず見た夢。
この暗き石の獄では、叶わなかった夢。
鈴が鳴ったような透き通る
長い長髪が、さらりと肩にしなだれかかる。
ゆっくりと、その子に向かって笑いかける。
「——君、好きな女の子っている?」