TSエルフさん、転生直後に森を焼く   作:栗色cc

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第3話 しょぼしょぼTSエルフさん

どうやら俺は異世界に転生したようだ。

それも女の子として。

 

それが転生してから十年経って得たスカスカな知識だった。

 

男が女の体に変化する――いわゆるTSと言うやつだ。

そのため、俺に百合センサーが反応したのだろう。

 

転生というものは百合界隈にはよくあるものだったのだが、実際に俺が体験するとなると……おまけにTSしたとなると、なんとも不思議な気分だ。

……だが。

 

「ああ、暇だ……百合はどこだ……」

 

透き通るようないい声で、俺はひとりごちる。

やっぱり、転生初日に森を燃やしたのがまずかった。

 

正しくは世界樹、というなんかよく分からんけど重要文化財みたいな樹木を燃やしたことがまずかったらしい。

 

彼らは赤子がしたことと軽く捉えずに、俺を放火魔として牢獄にぶち込む決断をしたようだ。

結果、外界からは完全に遮断され、百合成分を補給することができなくなっている。

 

今では反省してます。

でもやっぱり、赤ちゃんの頃にしたことなんだから多めに見てくれてもいいじゃないか!?

 

そこらへん、この世界は厳しいよ。

 

そんな心の叫びは誰にも届くことはなく、俺は何度かわからぬ溜息をつく。

懲役、何年だろうか?

 

あとどれだけ百合に出会えないのだろうか。

俺は植物のように、百合という栄養が無ければ生きていけないのだ。

 

俺が転生してから大体十年。

もうそろそろ限界に近い。

 

萎びきっている、しょぼしょぼだ。

ああ、どこかに百合が落ちていないかな?

 

「……んん?」

 

ちょうど、長きにわたり沈黙を貫いてきた百合センサーが反応を示す。

ちなみに俺自身への百合センサーは切ってある。うるさいからね。

 

次いで、ぴこぴこ、と耳が揺れる。

二名の足音。

 

一人は看守さんだとして、もう一人は一体誰だろうか?

たまーに来てくれる顔()()隠しのお姉さんではないだろうし……。

 

お姉さんよりも少し伝わってくる足音が軽い。

とはいっても子供と言うほどでもない。

 

「……ふむ」

 

まあ、どうでもいいか!

ぶっちゃけこちらに来る人が誰か、なんて関係ない。

 

大切なのは、百合センサーが反応を示していることだけだ。

十年ぶりの百合!十年ぶりの!百!合!

 

今か今かと待ち侘びる。

そして足音は俺の前にある石扉の前で止まり。

 

開く。

 

「……!?」

 

あはっ!?目がっ!?目がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?

 

直視できない。

十年来の百合の光が、俺の瞳を焼く。

 

咄嗟に俺は俯いて目線を逸らす。

目が慣れるまで、こうしていよう。

 

正直、今すぐにでも百合を見たいが、我慢我慢。

目が焼けちゃったらもう見えないからね、仕方ないね。

 

「……起きろ、悪魔の子(プロムズ)

 

……?俺の名前かな?

何はともあれ、少しだけ目が慣れてきた。

 

そろそろ直視しても良い頃合いだろう。

さあ、いざ!

 

どくん、どくんと心臓が鼓動を増す。

緊張するが、意を決して顔を上げる。

 

「————」

 

百合があった。

厳密には今だ百合の花は咲いていないが、それでも百合の拍動を感じた。

 

前世で最後に見た百合のように、相手はいないが……その素質は十分にある発展途上の百合ではあった。

 

それでも久しぶりの、もう見られないと思っていた百合が、今目の前にある。

歓喜の涙を浮かべそうになるが、それをすれば涙で前が見えにくくなって百合を存分に堪能できない。

 

もっと、近くで見たい。

と思っていた。

 

――がしゃり。

 

俺に付けられた枷が、行く手を阻む。

くそが、邪魔だなこれ。

 

だが嘆いてもどうしようもない。

この距離から、味わい尽くすしかないか。

 

とりあえず、最初に言うべきことを言おう。

一人だけの百合に出会った場合の絶対的なマナーだからね。

 

「っあ」

 

緊張しすぎて、声が上手く出せない。

空回りして声にならない空気が、外へと放り出される。

 

……落ち着け。

百合は逃げない、逃がさない。

 

「君、好きな女の子っている?」

「は?」

 

怖い(小並感)。

視線もなんだか怖いし、ファーストコンタクトに失敗したか?

 

もしかして百合、嫌いなのか?

 

いやそんなはずはない霊長として人類として生まれたからには絶対にそんなことはないあり得ない優れた頭脳を持つ者ならば絶対に百合の道に行きつくはずだなぜならそれが世界平和につながる一番重要なピースなのだから実際に歴史が証明している百合こそ世界を救う鍵であると聖書にも古事記にも古代遺跡にもそう書かれてある人類が生まれてから永久不滅千古不易の絶対的なルールだからなそうでなくとも百合が嫌いな人類がいるはずがない普通の頭で考えればいや考えなくともわかるはずだ百合イズ最高ともし分からない輩がいるのだとしたらそれはもはや人間ではなく人の言葉をしゃべるだけの怪物だ目の前の百合はそんな頭の悪い人じゃないだろうだって百合センサーが発動しているのだから百合の気配がする者が百合を嫌いだなんてありえないと少し考えれば分かることだったのになんで俺はそんな簡単なことも分からなかったんだ高々十年ちょっと牢屋にぶち込まれていたくらいで俺の百合脳細胞は死滅してしまったとでもいうのか自分が女になったからって浮かれてるんじゃないか百合の守護者として考えを改めなければならないそれならばまずは一つ口上を述べなければ百合最高百合至高百合最強百合以外いらない。

 

――よし、精神統一完了。

 

「御託は良い」

 

俺と彼女の間にノイズが奔る。

看守さんの声。相も変わらず悪感情駄々洩れだ。

 

俺が何をしたって言うんですかぁ!?

ただ重要な文化財を少し燃やしただけじゃないですかぁ!?

 

「お前を、この石牢から出す」

 

驚きに目を見開く。

十年の間、牢屋に幽閉されていたというのになぜ今になって?

 

「事情が変わったのだ」

 

なぜ?

罪人は罪人であり、多少の事情が変わった程度で解放されることはないだろう。

 

どうして、疑問が時を経るごとに増殖していく。

だが、看守さんは声を歪めるだけで答えてくれなかった。

 

ただ俺の足枷を解いてこの牢屋から外へと連れ出すだけ。

そうして俺は転生してから十年後、ようやく日の目を浴びることとなったのだった。

 

「これが、光——」

 

――熱っづ!?

目が焼けるぅ!?

 

――――――――――――――――――

――――――――――――

――――――――

 

「——いらっしゃい、こうして会うのは初めてかな?悪魔の子」

 

俺が連れてこられたのは、ある一人の女性が座す場所であった。

薄く長い法衣を体に巻き付け煙管を吹かしている絶世の美女。

 

神聖さと同時に、どこか親しみやすさを感じさせる微笑みを浮かべている。

いやそれよりも、だ。

 

「耳が、長い……」

 

動物のように長い耳、鋭く尖がっている。

前世では見たことのない特徴的な耳だ。

 

これはもしかして……。

 

「ああ、君はあの薄暗い石牢にいたから、こうして()()()を見るのは初めてだったか」

 

エルフ!

ゲームや漫画小説など、色々なものに擦られ続けた架空の種族。

 

長い耳とそれよりも長い寿命を持つのが、大体の設定だ。

まさか実際に出会えるとは。

 

「その手では、()()を触ってみることもできなかったろうしな」

「……え?」

「君はエルフだよ」

「え!?」

 

驚きに声を上げたが、考えてみれば普通か。

何せ俺はこの地域で生まれたのだから。

 

「……って、あれ?もしかして顔だけ隠しのお姉さん?」

 

先程までは驚きの連続で意識が行かなかったが、俺は彼女の声を知っていた。

たまに俺に会いに来てくれて話をしてくれる顔だけを隠したお姉さんの声だった。

 

彼女がいなければ、俺は早々にしょぶしょぼTSエルフになっていたことであろう。

目の前に胡坐で座る彼女は、ニコリと微笑み嬉しそうに頷く。

 

「うん、良く気付いたね!私は嬉しいよ!」

「——待ってください」

 

看守さんが、手を使って静止する。

それは俺ではなくお姉さんに向かってだった。

 

「アリス様、悪魔の子と面識があるのですか?私のあずかり知らぬところで」

「あ。……っスゥー、会ってないよ?」

 

冷や汗を流すお姉さんは、看守さんから目を逸らして口笛を吹く。

隠すの下手か。

 

「……偽証は『審判』の家に属する者として到底看過できないものです。ましてや今回は悪魔の子。いくら長老位の貴方でも重い処罰は避けられません……本当に会っていないのですか?」

「……会ってないよ!」

 

緊張からか、声が裏返っている。

なぜすぐにバレる嘘を。

 

「…………」

「…………そうですか。それならば良いのです」

 

セーフ!

え、今のでセーフなの!?

 

明らかに嘘をついていると分かるだろうに。

 

「それでは私はこれで。石牢の管理に戻ります」

「ご、ごくろー……」

 

看守さんは牢屋を出ていく。

それを見送ったお姉さんは、俺を見て言う。

 

「彼女ね、基本的にはどんな嘘でも信じちゃうんだ」

「……私もいるのですが……聞かなかったことにしましょう」

「あっ」

 

沈黙を保っていた百合の素質があるお姉さんが、頭が痛そうに押さえている。

また冷や汗ダラダラになっている。

……どうすんだこの微妙な空気。

 

「……こほん、さて、自己紹介といこう」

 

空気を読んでかそうでないのか、顔だけ隠しのお姉さんが煙管を地面に置いて姿勢を正す。

 

「私は『放蕩』の長老、アリスゼアリス。アリスと呼んでおくれ。そしてそこの彼女は……」

「リンド」

「う、うん。よろしく」

 

看守さんほどではないが、この子も悪感情があるな。

百合の守護者として嫌われるのは由々しき事態だぞ。

 

「うーん、硬いなぁー。そうだ、お菓子食べるかいお菓子。いっぱいあるから。それで打ち解けよう」

「お菓子ください」

「打ち解ける必要などありません」

 

生八つ橋みたいなお菓子を貰ったものの手枷が邪魔で食べられない。

仕方ない、犬食いでも……やっぱりやめておこう、ゴミを見る目でリンドが見てくる。

 

「いや、あるんだよリンド」

「何を……?」

 

アリスは俺にあーんをしてお菓子を与えながら、リンドを見る。

このお菓子美味しいな。

 

「君たちにはこれから、仲良くなってもらわなければならない。そうでなければ、乗り越える事なんてできないからね」

 

いたずらっ子のような笑みを浮かべながら、アリスは言う。

 

「君たちにはこれから旅をしてもらう」

「は?」

「…………(もぐもぐ)」

 

よっしゃ、何が何だか分からんが特等席で百合が見れるぜ!

 

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