いつもの業務終了を告げる軽やかなアラームがなった。そのアラームがなったとともにファウストが、
「ダンテ、時間です」
「あぁうん、囚人の業務終了を承認します」
私の声をそれを皮切りに囚人達が「こうも単調な日々だと飽きますね」やら「シングレア君! 今日はポーカーをしましょうぞ!」とか言いながら自分の部屋に戻ろうとする。
そうやって戻ろうとする囚人達に、ロージャが一人づづ耳打ちして、どんどんその後に引きずれていた。
……何だか鴨の行進みたいだな、何してんだろう?
私がそう思っていると、みんなを引きずれたロージャが私に
「ねぇダーンテ、みんなで飲みに行かない?」
「飲みに?」
「そう! さっきね、さっきね、いい感じの居酒屋見つけたの」
「良いけど、私が行っても良いの? お酒飲めないし、上司が羽目を外す場にいるのもヤじゃない?」
それを聞いたウーティスがロージャを押しのけて、
「何をおっしゃいますか、管理人様! 貧弱極まりないのに私達の為に何度も、時計を回してきた人が羽目を外さずに、どうして私どもが羽目を外せましょうか!」
「あぁうん、ありがとうウーティス」
……多分暴言吐かれてたけど、
……待てよ、これウェルギリウスに許可取らないと行けないんじゃないか? 勝手にバスから降りて酒盛りなんて始めたら、一人一人個人面談待った無しだし、
「ところでロージャ、ヴェルギリウスに許可は取ったの?」
「それは〜、――ダンテがやってくれない?」
「えっ! 私が?!」
「ねぇーダンテ、ダンテお願いぃ〜、上司なんだからぁ……」
そのときだった。
背筋に、ぞわっと冷たいものが走った。
なんとなく、いや、確実に。私の背後に――いる。
なぜか、後ろを見ると死ぬ気がした。
ロージャの顔がひきつった。
そしてその目が、私の背後を見つめて固まっている。
なんなら他の囚人たちも静かになっている。
「……う、わ、やっば」
ロージャはそろ〜り、そろ〜りと後ずさりを始めた。
あまりにも慎重な動きに、まるで背後にウェルギリウスでもいるみたいじゃないか。いや、いるのか?
「……ロージャ?」
「あ、あの、ちょっと、私用事思い出したから、いってくるねっ」
すっごく小さい声でそう言い残すと、彼女は囚人達の群れにまぎれるように姿を消した。
その直後。
「…………ダンテェ」
聞き覚えのある、重たく低い声がすぐ後ろから落ちてきた。
どうやら今日が私の命日らしい、……恨むよロージャ
私は振り返らず命乞いする。
「あわあわ、い、いや違うんだよ、ヴェルギリウス! これはロージャが」
「……何言っているのかは分りませんが、大方自分は悪くないと言っているんでしょうね……はぁ、まぁいいでしょう、どうぞ自由に酒盛りでもしてください」
「えっいいの?」
急に体を回転させられ、その赤い目を光らせながら顔を近づけられる。
「ただし、深夜一時までには帰ってくるように、いいですねダンテェ」
「わ、わかった」
そう言い残したヴェルギリウスすっと背を引くと、くるりと踵を返してバスの奥へ戻っていった。
その背中が見えなくなった瞬間――
「……い、今の、生きてる……私、生きてるよね……?」
膝から崩れ落ちそうになるのを何とかこらえながら、私はその場に立ち尽くした。周囲を見れば、さっきまで沈黙していた囚人たちが、まるで嵐の後の晴れ間のようにぱぁっと顔を明るくする。
「ロージャ、覚えといてよ」
「あはは、ごめんごめん、ねぇみんな、今回行く居酒屋どんな場所か気にならない?」
それを聞いてグレゴールが火をつけてない煙草を咥えながら、
「あぁ、そういやどんな場所か聞いてなかったな、どんな場所なんだ?」
「うふふ、串焼きが美味しいらしいのと、ここら辺の地酒を扱っているらしいの、あとダーリンみたいな人のためにちゃんと煙草を吸えるスペースもあるのよ〜」
「ほぉ、それはなかなか」
囚人たちは隊長ロージャに連れられまた鴨の行進になりながら和気藹々と居酒屋に向かった。私もそれに二歩後ろでついて行く
5分ぐらい経っただろうか、皆が向かう先の路地に小さな看板が見えた。
『地酒と串焼き 火の端』
みんながその居酒屋の暖簾をくぐる。
私はバスの扉を振り返り、もう一度念のために振り返る。ヴェルギリウスの姿は見えない。
「管理人さん、早く来ないと、みなさんに置いていかれますよ」
暖簾の先にいるシンクレアに急かされて、私は囚人たちの後を追った。
私はお酒を飲めないし、何も食べることも出来ないけど、これが、きっといい思い出になることだけは分かった。
次話は一週間後になると思います。
評価と感想もらえると感激だぁ。