天野はるかから届いたエッセイだが『自分が何者でもなかった頃の味……』というクリティカルワードを叩きつけてきたから私は死んだ。
ならば文章で返すのが礼儀だろうと思い、パソコンを叩いているのだが、何と私はそのころに思い出す味すらなかった事にガチに凹む。
思えば、ろくでもない人生を歩んだものである。
学生時代の私は、
「食べなくても生きていける!」
と豪語していた。
実際本当に小食で、ポテトチップスで一日持つぐらいで、そうやって節約したお金で本を買っていたのである。
そうだなぁ……自分が何者でもなかった頃の味は、ポテトチップスとチョコチップクッキーとミルクティー……すごいぞ私。
パンがないからケーキを食べるマリーアントワネット生活をやっていたぞ。私。
もちろん、そんな食事で就職して続く訳もなく。
夜嬢生活でとにかくカロリーがないと仕事できないと食べて、年を経て代謝が落ちるから体重が増えて……みぎゃぁぁぁぁ!!!と、あすけんのおねーさんのサポートを受ける羽目に。
そんな学生時代、見ず知らずの人にガチで怒られたというか忠告された事がある。
「いいかい。学生さん。
食べないとだめだよ。
いいものを食べないとだめだよ」
今は廃止になってしまった小倉-松山のフェリーの中の事。
二等客室雑魚寝で寝れるほど神経がずぶとくない私は、本を片手に食事ができるテーブルの所で本を読みながら、乗る前に買ったポテチとチョコチップクッキーとミルクティーを片手に船旅を楽しんでいた。
22時出港でまだ24時になる前ぐらいか。
客の多くは客室で寝る為に戻ってゆくのだが、その人は食堂の、まだ食堂があった頃の話だからかなり古いよな……カレーをもって私の前の席に座ったのだ。
互いに知らぬ身、声をかける事もない船旅で、たしか給水機の場所が分からないその人に場所を教えたのがきっかけだったと思う。
縁ができれば、話もする訳で、本を片手に食堂前のテーブルでお菓子片手に本を読む学生さんな私。
話せば食べなくても生きているしと豪語するお馬鹿だから、今だからこそ思う。
本当に心からの忠告だったのだなと。
「いいかい。学生さん。
食べないとだめだよ。
いいものを食べないとだめだよ」
結局、その人は24時過ぎに自分の寝室に帰ってそれっきりだったのだが、そんな言葉はこうしていまだ覚えている訳で。
はっきりと因果応報として返って来たのは、ここ最近の事である。
「この間は中華ごちそうさまでした。はるか。観音さん。
今度こっちに来たらお返しになにか美味しいものをお返しするわね」
……やべえ。
ご招待する店なんて知らねーぞ。私。
その時にこの言葉が呪いとして返って来たのは言うまでもない。
そうか。食事は一人で食べるものではないのだ。
他の人と食べるときにいいものを食べておかないとお返しができないんだ……
このエッセイ叩きつけて、はるかと観音さんに、ポテトチップスとチョコチップクッキーとミルクティーをプレゼントって二人は笑ってくれるだろうが、それでいい訳ないだろうが私!!!
こっちに来た時の二人の歓待をシミュレーションして、慌てて店を探し出す私。
我ながら本当に無様極まりない。
店を知らない訳ではないが、二人を歓待する店となるとぼっちで行くのとはわけが違うのだ。
たとえば、博多ラーメンで『一蘭』でもと考えても、あの店はそもそもぼっち飯の極みみたいな所があるし、『天麩羅処ひらお』もカウンターで天ぷら食べるから歓談は無理だよな。
私が知る店で安牌だった天神の『野の葡萄』が無くなったのが本当に痛い。
定期的に顔を出すオフ会で行っているもつ鍋『楽天地』を候補に入れつつ、休日に博多と天神で店を探す日々である。
ここで思い知るのが全国展開の店は味が均一だから安心しして誘えるという事。
東京と福岡でそれぞれ違う人に奢った際には『但馬屋』を使ったがとりあえず文句もなかったのでほっとしたり。
個人的に好きなのは『ローストビーフとステーキYOSHIMI』や『てっぱんのスパゲッティ』なのだが、これも全国展開のお店だしねぇ……
なお、友人の歓待で本当に困り果てた私は最後の手段と福岡空港内の『博多にしやま』にご招待した事が。
値段は高いがそれ相応な味というのは最近空港を使いだして分かってきたからの選択である。
なお、私が一番使っているのは空港一階の『はなまるうどん』だったり。
飛行機で出かける前には、ここでかけうどんととり天を頼むのが習慣になりつつある。
今回、SF大会が大分だから別府泊として、冷麺ととり天を食べさせるならば本店よりトキワ別府店地下のフードコートかなぁと思ったり。
車を借りて、我が心のふるさと竹田の『丸福』を食べさせるのも……あ、大分市下郡に店を出しているのか。
タクシーもありかもなぁ……
なお、あの二人に本当に美味しいものをお返ししたいなら、わが心の中で決まっているのが一つある。
「山形県酒田市の『若葉旅館』の岩海苔のお茶漬け!
本当にこれ絶品なんだから!!!」
「おい。生まれも育ちも九州人の朝倉さくらさんよー。
何で九州でなくて、山形県の酒田の料理を口にするんで?」
脳内はるかの突っ込みに、胸を張って言い切る私。
「だってこれはね、私が作家になった時に美味しいって思ったんだもの!
何物でもない私の味があるならば、これは何者になった私の味なのよ!!」
きっとはるかにも、観音さんにも、『何物でもなかった頃の味』があるのなら『何者かになってしまった後の味』が絶対にある。
今度それをごちそうしてもらおうと思いつつ文字数も稼げたのでここで筆を止めようと思う。