朝倉さくらの縁ジョイリセットデイズ   作:北部九州在住

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三ヶ月どころか……年以上変わらなかった女の話をしよう

 小説家天野はるかの知り合いに広瀬由希という娘がいる。

 直で会ったことはないが、はるかにエッセイを送っているのでちょくちょく目を通させてもらっている。

 で、そんな彼女のエッセイで、はるかと観音さんの会話が聞こえてきた。

 

「3カ月経ってやってることの変わらないクリエイターにはなんの価値もない」

 

あ、私死んだな……

 今日はそんな話をしようと思う。

 

 自慢じゃないが、この私、書く事についてはほぼ……年間変わっていない。

 というか、変わるという自覚すらなかった。

 『だから長くデビューできなかったんだよ』という脳内はるかの突っ込みにはいそのとおりですと答えるしかない私。

 それもこれも、そもそもの書き方が巫女系託宣形式……要するに行き当たりばったりで先に書きたいシーンが見えるという書き方をしているからで、たとえばこんなシーンが降ってくる。

 

「嫌なのよ!イヤなのよ!!いやなのよっ!!!」

 

 いや、そんなに叫ばれてもと頭を抱える私だが、この台詞、学生時代の夜の散歩で降ってきた言葉で今だに物語化できていない。

 こんな感じで、四六時中妄想が降ってくる中で、それを物語として紡いてきただけである。

 そして、妄想ってのは困った事に起承転結を知らないんだよ。

 平気で結起承転なんてやってくれるし、そもそも起承転結のどれかを降らせる事もとてもよくある。

 だから、私はもそもそプロットが書けない作家だったのだ。

 これ、何が致命的かっていうと、

 

作家『アイデアあります』

編集『じゃあ説明して良いアイデアなら書いて』

 

 という事ができない。

 つまり、仕事としての前準備ができない事を意味している。

 それを私はこう解決した。

 

 

 そうか。物語を完結させた後でそれをまとめればプロットになるんじゃね?

 

 

 多くの作家たちが口をそろえて言う『まず完結させろ』に道が固定されたともいう。

 そして、一作品数か月から数年かかるのに、それを売りに出せない事は商業作家としては致命的なコミュニケーション不足を露呈させるのは分かっていた訳で。

 結局、その道の最短コースを取らなかったというか取れなかった私は、それでも書き続けたし書く事しかできなかったと言えよう。

 

 世は就職氷河期。あまり威張れる仕事についていない事で親兄弟から白眼視の視線をそれとなく感じる私だが、転機は向こうからやってきた。

 小説投稿サイトの隆盛と書籍化ブームである。

 これの何が大きかったのかというと、小説投稿サイト内で読者が可視化されてある程度の売り上げの見込みが立てられるからと出版社側が『終わっていない』物語を書籍化しだしたのだ。

 まぁ、実際バブルだったと思うが、そのバブルに最後の方で乗った私が言うのだから間違いがない。

 ついでに、物語のテンプレートをサイト内作家連中が常に洗練していったので、起承ぐらいなら私でも書き続けられる事ができたのも大きい。

 で、書いた。書き続けた。書き続けて、書き続けて、奇跡を捕まえて今の私がある。

 

 せっかくだからその時の思い出話もするか。

 ランキングができて、テンプレートが配布されると何が起こるかと言うと、各作家の色の差異が露骨に出るのだ。これが。

 特に私の場合、性癖がビッチと負け戦大好きなものだからこれではじかれる事が多かったのなんのって……じゃあ外せよという突っ込みをしたそこのあなたは正しいが正しいだけである。

 そんな正しい物語を、私が書かなくても他の作家が書いてくれるのだからそれを読めばとなるのが、ランキングとテンプレートの本当の怖さだったりする。

 やはり、今だからこそ見返せるが、私は本当の意味で小説家を狙っていなかったんだろうな。あの頃は。

 じゃあ何がきっかけとなったかというと、一回目の書籍化オファーを逃がした事だろう。

 当時書いていた九州の戦国転生仮想戦記に来たオファーで、結局流れたのだが、あれの前と後で意識ははっきりと切り替わった。

 

 あ、私は書籍化が狙えるラインに居るんだ。

 

 もちろん、それだけでなく『幸運の女神は前髪しかない』という言葉も巡って密かに落ち込んだりもしたが、それでも書く事だけは止めなかった。

 時代は転生ものから悪役令嬢ものへ。

 私はあえて前期悪役令嬢ものを書き、世は後期悪役令嬢もの、私は『ざまぁ』ものと呼んでいる過渡期に、書き出したのがかの『拓銀令嬢』である。

 書いて、途中で序盤を大加筆して、それでも書き続けて、賞に出したこれがSNSでバズり今に至る。

 ほら。

 何も変わっていない。変わろうともしていない。

 

 まだ見ぬ後輩の広瀬由希ちゃんへ。

 壊れた時計でも一日二回は正しい時間を指します。

 私はそれを……年待ち続けて、作家になりました。

 変われなかった女の愚かな執念の話ではありません。

 変わらなくても時代が勝手に変わってゆく現代社会の速さの話なのでしょう。

 あなたがどういう作家になるか分かりませんが、こういう選択肢があったという事を先輩として伝えさせてください。

 

 

 

 

……うん。先輩面できるっていいな……(台無し)




今回のお話の元ネタ。

「広瀬由希はままならない」
https://syosetu.org/novel/395060/ #hamelnovel #hmN395060
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