汚いボイスロイドを拾ったので虐待することにした 作:美月海月
翌朝。
夜更かしせずにちゃんと寝ているか確認しに行ったら、葵がうなされていたのにはびっくりした。
思わず手を握ったが、どうやらそれで悪夢から覚めることができたらしい。そのままもう一度寝付くまで手を握っていてとお願いされた時は少し困惑したが。
割りかし早めに寝付いてくれたので、俺はその場を後にしてリビングのソファで寝た。こんなふかふかで人をダメにするソファで寝るのなんて、家の主である俺にしか許されないからな。あいつらにはただのベッドがお似合いだ。
そんなわけで時刻は朝9時過ぎ。
俺は朝食を用意して、未だに起きてこない琴葉姉妹を起こしに行った。
「おい、起きろ。朝だぞー」
「……んん~」
「……もぉ朝ぁ~? あと5分だけ……」
なんだこいつら意外とねぼすけなのか。まあなんとなく茜の方は納得できるけど、葵も案外そっち側なのか。
ていうかあと5分だけって、絶対それ5分じゃ済まないやつだろ。寝る前はあんなにおっかなびっくりとした感じだったのに急に図太くなりやがって。
「ほう、じゃあ茜は朝飯抜きだな。せっかく作ってやったのに」
「じょ、冗談やで。ウチはもう起きとるで、ほらこんなに目がパッチリ」
飯で釣ったら簡単に起きてきた。
朝食という単語に反応したのか、隣の葵も気づいたら起きていた。
「おはようございます、マスター」
「おはようさん、マスター」
「あぁ、おはよう」
朝の挨拶を交わす。
見た感じぐっすりと眠れたみたいだな。今日もたっぷり虐待をするつもりだから、寝不足ではないということでひとまず安心だ。途中でへばられても困るからな。
「朝食作ってやったから。さっさと顔洗ってこい」
「やったで! 朝からマスターのご飯が食べられるなんて幸せや!」
嬉しそうにしながら顔を洗いに洗面所へと向かった茜。
いつも俺は朝は食べないか手抜きで済ますタイプの人間だが、こうも喜ばれると朝から気合を入れて準備したかいがあるもんだ。
「……そういえばマスター」
「なんだ?」
「昨晩はありがとうございました。おかげでぐっすり眠れました」
「おー、それはよかった」
入眠までしっかりと手を握ってやったからな。ちゃんと効果はあったみたいだ。
こちらへペコリとお辞儀をして、葵も茜と同様に洗面所へと向かっていった。
「今日の朝飯はこれだぁ!」
洗顔を終え食卓へとついた二人の前に、用意した朝食を並べていく。
「トーストにベーコンエッグ。レタスとトマトのサラダに、オニオンスープだ!」
「おぉ~~!!」
食べる時でもバナナ一本とかで済ますような俺とは思えない程の豪華な朝食である。
朝からこんなに気合の入った飯を二人に食わせる理由はもちろん、虐待に耐えうる体力を身につけてもらうためだ。腹が減っては戦ができぬというからな。ちゃんと飯を食ってもらうぜ。
「昨夜も思ったんやけど、マスターって料理めっちゃ上手やなぁ」
「今度私にも教えてほしいです」
「あぁ、もちろんだ」
今は俺が飯を作っているが、ゆくゆくは二人にも食事を用意してもらおうと思っている。食事だけでなく、掃除、洗濯などの家事全般もそのうちやってもらうつもりだ。これも虐待の一種っていうやつか? クククッ。
「それじゃあ手を合わせて」
「いただきます!」
昨晩は二人にだけ食べさせたが、今回は俺も一緒に食べる。
今日これからやる虐待は、俺にも体力が必要になるようなことだからな。
茜と葵が食事を口に運ぶと、幸せそうに咀嚼をして「美味しい」と呟く。
まあこの俺が作ったんだから美味しいのは当然だな。とはいえ、めちゃくちゃ美味そうに食うもんだから、作ったこちら側も少しだけ嬉しくなる。
「ごちそうさまでした!」
しばらくして全員が朝食を食べ終わった。
「そうだ、お前らが着ていた服、洗面所に置いてあるから着替えてこい」
「分かったで」
「ありがとうございます」
昨晩洗濯していた二人の衣類は乾燥し終えたので、そちらへ着替えておくように促す。
これからやることは
茜と葵が着替えに行っている間に、俺は食器の片付けとこれからやる虐待の準備を始めた。
*
「マスター、着替え終わったでー」
「……ほう、だいぶマシになったな」
着替えを終えた二人が俺の元へとやってきた。
汚れまくっていた服は綺麗になって、拾った時よりもまともな見た目となっていた。
とはいえ、よくよく見てみるとところどころ服がボロボロなのが少しだけ気になる。
これからする虐待には支障が出ない程度のものではあるが、やはり気になるから終わったら新しい服でも買ってやるか。
「それで、これからなにをするんですか?」
「よくぞ聞いてくれた。これからお前らには――配信をしてもらう!」
これから二人にする虐待。
それは俺のチャンネルでの生配信に出演することである。
家に来たばかりでまだ慣れていない環境で、いきなり大勢の人たちからの注目を浴びてもらうぜ。
「配信……? 配信って、あの配信ですか?」
「その配信だ」
「マ、マスターって配信者やったんか!?」
「まあな」
俺は配信で飯を食っている。
こう見えて俺のチャンネルの登録者数は50万人を優に超えている。
おかげさまで余裕のある暮らしをさせてもらっている。
「ずっと俺一人でやってきたけど、そろそろ刺激が欲しいと思っていたところでな」
活動を始めてからここまでずっと一人でやってきたのだが、気楽にできる分新鮮味は徐々に失われていっていると感じていた。
しかし他の配信者とコラボするのも面倒だな……と、思っていたところでちょうどこいつらを拾ったのだ。
ボイスロイドは今や超高性能アンドロイドとして家事や労働など活躍の場は多岐にわたるが、その中でも動画収録や配信業は彼女らの十八番とでも言うべきだろう。
その可愛らしい容姿に聞き取りやすく魅惑的な声を持つボイスロイドは、配信において人気が出るのだ。
「せやけど……ウチら配信なんてやったことないで?」
「安心しろ。そこはマスターである俺が徹底的にサポートしてやる」
この二人が配信をやったことがないというのは想定済みだ。
なんせ、琴葉姉妹二人を購入し、その辺に捨てるイカれた金持ちのところにいたんだからな。特に何もせずとも裕福な暮らしができたかもしれないが、これからはそうはいかない。
「マスターと一緒なら……なんとかなるかも」
「せやな……よし、やったるで~!」
ククッ、どうやら覚悟が決まったようだな。
生配信は基本不定期でやっているが、毎週日曜日だけは確定でやることが俺のチャンネルでは決まっている。
今日はちょうど日曜日で、配信を始めたら同接数はそれなりになるだろう。
初配信でいきなり数千から数万人以上のリスナーから注目を受ける……最高のスタートじゃないか。
「最初は俺だけで始めて、俺が二人を呼ぶくだりを作るから、そしたら入ってきて挨拶と軽く自己紹介。その後は流れでなんとなく」
当たり前だが生放送に台本はない。
ある程度の流れやテーマは決めても、実際の生放送はリスナーと一緒に作っていくものだと思っているからだ。
「わ、分かったで」
「分かりました。が、頑張ります」
「よし、それじゃあ早速……」
パソコン上で『配信開始』ボタンをクリックする。
数秒して、待機していたリスナーたちからのコメントが飛んでくる。
『わこつ』
『キタ━(゚∀゚)━!』
『待ってました』
「よう、お前ら。元気にしていたか? 今週もこの時間がやってきたな」
毎回の配信でやっているお決まりの挨拶をして、しばらくリスナーたちと雑談をする。
「……さて。それでだな、今回はみんなに重大発表がある」
『おっ?』
『なんだなんだ?』
『ついにやらかしたか……』
『いつかやると思ってました』
「うぉい! 誰が犯罪者じゃ!」
重大発表とだけ聞いて俺を犯罪者扱いしてくるコメントがいくつか飛んでくるが、もちろん茶番である。こういったやりとりにさえ心地よさを感じるのが生放送のいいところである。
「気を取り直して……俺のチャンネルに新メンバーが加わるぞ! そんじゃ、入ってこーい」
『!?』
『新メンバー……だと!?』
琴葉姉妹の方へ視線をやり、こちらへ来るように促す。
二人がカメラの画角へと入ってくる。
「はじめまして。ウチは琴葉茜やで。これからよろしゅうな!」
「はじめまして。私は琴葉葵です。これからよろしくお願いします!」
『かわいいいいいい』
『琴葉姉妹やんけ!』
『関西弁かわいい』
『葵ちゃんかわいい』
二人が挨拶をすると、リスナーたちの愛のあるコメントが勢いよく流れていく。
そうだろうそうだろう。可愛いだろう? 俺のボイスロイドは。
「はい、というわけで新メンバーの琴葉茜と琴葉葵だ。知っている人も多いと思うが、この二人は双子の姉妹だ」
『めっちゃそっくり』
『姉妹二人ともお迎えするなんて、主金持ちか?』
『お父さん! 僕に娘さんたちをください!』
「だれがお父さんじゃ。茜と葵は俺のものだからやらんぞ」
この二人は俺のボイスロイドだ。いくらファンだからといって渡すわけにはいかない。まあこれも茶番の一つなんだがな。
『俺のものですって!』
『ちょっと奥さん聞きました?』
『いや、主が勝手に言っているだけの可能性も』
おっと、俺と二人の関係を疑っている奴がいるようだな。
「そんなことないよな?」
ここは一つ証明してやろうじゃないか。
二人にコメントに対して返答をするように俺から聞いてみる。
「せ……せやで! ウ、ウチはマスターの、も、ものやで!」
『茜ちゃん!?』
『あら^~』
『姉の方は手遅れか……』
『妹は!? 妹の方はどうなんだ!?』
「も、もちろん、私もマスターのもの……ですよ」
『葵ちゃぁ~ん……』
『末永くお幸せに』
『末永く爆発しろ』
『顔赤くなってる。かわいい』
フハハハ!!
俺がこの二人のマスターだからな。その事実を覆すことはできないのだ。
「って、お前ら顔赤いぞ。初配信だからって緊張しまくってんな」
『絶 対 そ う じ ゃ な い』
『この……朴念仁が!』
『こんな鈍感男よりも俺に乗り換えとかない?』
ん? なんかコメントが荒れているな。
「今、俺なんか変なこと言ったか?」
二人に聞いてみる。
「……マスターのアホ」
「……にぶマスター」
「えぇ……」
顔を真っ赤にしてモジモジしていたかと思えば、今度はジト目になって冷めた表情で俺の方を見てきた。
な、なんなんだ一体……。こいつらの感情の起伏がよく分からんぞ。
その後は俺と琴葉姉妹とリスナーで軽く雑談をして、ゲームを一緒に遊んで配信を終えた。
一瞬コメントが荒れた辺りから二人の緊張がほぐれたのか、それからは割とスムーズに配信ができた。対戦ゲームの時に、やたら俺への当たりが強かったのが少しばかり気になったが。まぁ全部返り討ちにしてやったけどな。はっはっは、ボイスロイドはマスターに逆らうことはできぬのだよ。
「よし、配信終わり。お疲れ、二人とも」
「めっちゃ楽しかったで!」
「そうだね、ゲームも初めてやったけど面白かったね」
「ほう。それはよかったぞ」
配信前の緊張はどこへやら、すっかり楽しそうにしている姉妹。
葵がゲームを初めてやったと言ったが、まあ前のところではゲームなんかよりももっと金持ちみたいな趣味でもやっていたんだろう。
残念だが、これからは配信者としてゲームをたくさんやってもらうぜ?
「これから生配信はもちろん、それ以外にも動画収録とかもやってもらうからな」
「わーい、めっちゃ楽しみやー!」
「マスターのお役に立てるよう頑張ります!」
てっきり嫌がるかと思ったが、むしろやる気満々のようだ。
どうやら俺のボイスロイドだという自覚はちゃんとあるようだな。
そういえば、結局