魔女と騎士   作:チヂミ蓮華五式

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第1話

 「魔女」、それは太古の昔から存在する、強大な力を持つ者達。

 彼女らは普通の人間とは違い、魔法を使うことができた。

 

 火種を生み出し、川を引き、土を耕し、人々の助けとなって生活を続けてきた。

 魔女は人々を助け、人々は魔女を敬い、良き隣人となった。

 

 だが時代の変遷と共に、次第に魔女への扱いは変わっていった。

 

 

 

 とある魔女がいた。

 

 その魔女は近くの村の人たちと良好な関係を築き、人々の助けとなった。

 いつしかその村の村長と結ばれ、村は更に発展することとなる。

 その魔女は一層村に貢献をした。

 魔法によって畑を作り、作物は健やかに大きく育たせ、家を建てるための木材も石材も自由自在に生み出された。

 

 村はいつしか街となり、やがて国となった。

 魔女の伴侶であった村長は王となり、国を治める立場になった。

 

 

 そして時が過ぎ、いつしか魔女はその力を失ってしまった。

 

 

 魔女の力を失った国は、驚くほど荒れた。

 

 食糧、建築材の生産、魔獣への対処、他にも多くの仕事を魔女へ依存していた国は、もはや魔女なしでは国家を存続することができなかったのだ。

 

 だが魔女というものはそうそう簡単に代わりが見つかるものではなく、国民の怒りは力を失った魔女へと向けられた。

 

 魔女は、力を取り戻せと大勢の国民から罵声を浴びせられ、遂には拘束されて国民達のガス抜きに使われることになった。

 

 しかし魔女をいくら拷問したところで現実的な解決策とはなり得ない。

 いつしか魔女は死に、国民は減り続け、魔女を守ろうともしなかった国王も死に、国そのものが無くなろうという時ーーーーーーー

 

 

魔女が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵、荊の魔女!魔法を展開し始めました!」

 

 時代は移り変わり、その国の魔女の数が国の強さを表す指標となった。

 

「了解した。…アリス、いけるか?」

 

 魔女は農業や狩猟ではなく戦争に使われるようになり、国家間の争いは激化していた。

 

「えぇ、今度こそあの荊のアホに目にもの見せてやるわ!」

 

 ワルギス帝国、周辺国家へ次々と侵略戦争を仕掛け、今や魔女を5人保有する、大陸一の国家。

 

「振動を確認!荊が来ます!!」

 

「はいはい、わかってるわよ」

 

 アグナス王国、帝国と隣接し、魔女を3人擁するワルギス帝国に次ぐ大国。

 

 

『水よ』

 

 

 大地が振動し、数十本の荊が地面を裂き、木々を薙ぎ倒しながら、金髪の少女を中心として布陣した兵士たちへと襲いかかる。

 

『凍りつけ』

 

 そして兵士たちへと迫った数十本の荊が全て凍りつき、砕けた。

 

『水よ 生れ 襲いかかれ』

 

 金髪の少女は間を空けず魔法を発動する。

 突然宙に大量の水が出現し、凄まじい速度の奔流となって荊の出てきた方向へと移動していった。

 

「ふふん、どうよケイン」

 

「…上出来だ、“荊”の場所もわかるか?」

 

「えぇ、やっぱり荊の出てくる方向を偽装しているわね。

え〜〜〜っと………あっちよ!!」

 

金髪の少女が自信たっぷりに指を差した。

 

「よくやった。俺はもう行くが、お前ら分かっているな?」

 

「はい!アリス様の守護はお任せください!」

 

 現在、王国と帝国との戦争にて、アグナス王国は国境付近での防衛に徹しており、水の魔女がその任に就いて2年の時が経っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時代で「魔女」の他にに語られるべき存在がもう一つある。

 それは「騎士」と呼ばれている。

 

 騎士はその国の中で武に優れた者が選ばれ、魔女からの祝福を授かる。

 剣の鋭さや鎧の強度の上昇、身体能力の強化などの基礎的なものから、その魔女特有の魔法の付与などである。

 

 だが、そもそも遠距離から魔法を浴びせ合う魔女の戦場において、騎士の役割とはその名に見合うものではない。

 むしろ暗殺者に近く、魔女と魔女が撃ち合いをしている隙に横から奇襲して魔女を殺すのが騎士の役割である。

 

 厳密にはこういった奇襲を目的とした騎士から、魔女を守るため側を離れない場合も多いが、この時代ではそちらの印象の方がが強かった。

 

 

 

(……やはり荊が辺りに張られているな。

大きく回って少しでも荊が少ない場所を探すべきか?)

 

 そしてここでも騎士が1人、奇襲のため敵の魔女の元へと向かっている。

 彼の名前はケイン、水の魔女の騎士であり、アグナス王国を2年間守り続ける英雄の片割れである。

 

 その見た目とは裏腹に、森の中を屈みながら全く音を立てず移動する様子は、とても騎士のように華々しいものには見えなかった。

 

(前回荊の騎士は倒した、少し強気に行こう)

 

 すると立ち上がった鎧の男は、その腰にあった長剣を音もなく抜き放ち、その刃が青白い光を放つ。

 

『水よ』

 

 その口から放たれるのは、魔女により与えられた魔法の言葉。

 

『凍れ』

 

 するとその男の目の前にあった荊が全て凍りつく。

 

 

 男は瞬時に駆け出した。

 

 凄まじい速度、並の兵士ではただ眺めることしかできない、魔女の祝福を授かりし騎士の特攻。

 

(敵兵を発見、奴の陣地は……あそこか)

 

 ケインが森の中を走りながら魔法の言葉を唱える。

 

『水よ』

 

『生れ』

 

 ケインの持つ長剣が青白い光を放ち、彼の頭上に人の頭くらいの水球が生まれる。

 

 

『蹂躙しろ』

 

 

 するとその水の塊が一瞬で敵兵士の元に迫り、その首を貫いた。

 

「ッ!!」

 

 水球はその兵士が倒れるより先に、勢いのまま林の中へと向かっていき、少し遅れて騎士も入っていった。

 

 

「ガッ」

 

「な、てきしゅッ」

 

 ケインの放った魔法が次々と兵士の命を刈り取って行く。

 倒れた兵士達を飛び越えて、騎士はただ進む。

 

「おい何が…ってこれは!?」

 

 兵士の1人が倒れた兵士たちを見て声を上げる。

 

「もう限界か」

 

 彼がそう言うと、水球がプルプルと震えながら高度を落としていき、やがて地面へと落下して飛び散った。

 

「ここからだな」

 

 彼の鎧が青白い光を放ち、鎧に込められた魔法の出力が上がる。

 木々の間を風のように走り抜け、やがて開けた場所に出た。

 

 

 そこは木々が薙ぎ倒され、水浸しになっていた。

 恐らくあの金髪の小さな魔女の魔法の影響だろう。

 

 そこにいたのは数人の兵士、そして背中に大剣を背負った甲冑の騎士に、その側に立つ赤茶色のローブを着た小さな人影だった。

 

「見つけた」

 

 ケインは土埃を上げて立ち止まり、腰のポーチに手を伸ばした。

 

「またれい!!!」

 

 甲冑の騎士が大声を出し、その声にケインは動きを止めた。

 

「貴様、アグナス王国の騎士、『騎士殺し』のケインだな!?」

 

「…そうだが」

 

「尋常に我と決闘をせい!!」

 

「はぁ?」

 

 その騎士の申し出にケインは思わず間抜けな声を出す。

 それもそうだろう。

 

 ケインが1人で乗り込んできたのに対して、あちらは魔女に騎士、そして数人とはいえ兵士がいる。

 このまま数の差を活かして戦った方が有利なはずだ。

 

「どうした!怖気付いたか!?」

 

「…いいだろう」

 

「良し!お前らは手を出すなよ!」

 

 騎士はドシドシと足音を鳴らしながらこちらへと近づいてくる。

 

(一体何を狙っているんだ??)

 

 ケインは正直困惑していた。

 

(何かを狙うにしても、決闘をする意味はあるのか?

決闘中に魔女が奇襲、くらいしか考えられんが、そんなことのためにわざわざ決闘をするか?)

 

「よぉし!我は騎士ダンガイン!『鎧潰し』のダンガインよ!」

 

 ケインが思案を巡らす中、甲冑の騎士ダンガインが大剣を振り上げて名乗りを上げた。

 

「俺は騎士ケイン。二つ名はいい」

 

「良し!騎士ケイン!では行くぞ!!」

 

 ダンガインが大剣を構え、こちらへと大きく踏み込む。

 

 

『荊よぉ!!』

 

 

 突然ダンガインが魔法の言葉を放ち、彼の脚の鎧が赤色に光を放つ。

 

 その瞬間、ダンガインの踏み込んだ足より前方に荊が生える。

 

「ッ!?クソ」

 

 そしてその荊がケインの足へと食い込む。

 

「はっはぁ!隙ありぃ!!」

 

 ダンガインはその大剣を振り上げてケインへと飛びかかる。

 

『水よ』

 

 ケインは魔法を唱えつつ、長剣を横に構えて大剣を防ぐ。

 凄まじい音がして、長剣と大剣がぶつかった。

 

「ほう、まさか受け止めるとは!」

 

『凍れ!』

 

「むぅ!」

 

 ケインが魔法の言葉をなんとか繋げ、長剣が光って彼を中心に氷が広がる。

 その氷は彼の脚に食い込んだ荊を凍りつかせ、ダンガインにも襲いかかるがーーー

 

「……今ので仕留められれば楽だったんだが」

 

 氷はダンガインの大剣の一部に霜をつけただけにとどまった。

 ケインは凍りついた荊を砕きつつ、凍っていない残りの荊を避けて横へと移動する。

 

「魔女ならいざ知らず、騎士が魔法を繋げるとはな。

かなり器用なのだな、良し良し」

 

 ダンガインは笑みを浮かべ、ジリジリと距離を詰める。

 

(まずいな、足をやられた上に魔法をかなり使ってしまった)

 

「さてぇ?貴様はあと何回魔法を使えるのかな?ここにくるまでに随分使っていそうだが」

 

「…あと5回ってところだな」

 

「ほう!優秀だな!」

 

(嘘だ、あと3回しか使えん。

馬鹿みたいに突っ込んでくるタイプだと思ったが、当てが外れたな)

 

 少しずつ近づいてくるダンガインに対して、ケインもそれに合わせて少しずつ後退する。

 

(この足じゃ撤退は無理そうだ、“呼ぶ”か。)

 

 するとケインはダンガインを見据えたまま腰のポーチへと手を伸ばし、小さな球を取り出した。

 そしてそれを地面へと投げつけた。

 

「ん?何だそれは」

 

『水よ』

 

 ケインが魔法を唱えると、投げた球が弾け、煙が上がる。

 

「なんだ、目眩しか?」

 

 煙が上がった瞬間にケインはダンガインに背を向け、森へと向かった。

 

「撤退か!丸見えだぞ!」

 

 だが、その球から出た煙は、目眩しというには明らかに規模が小さく、少し横に移動すれば、ダンガインはケインの姿を見つけることができた。

 ダンガインは大剣を担いでいるにも関わらず、驚異的なスピードでケインを追った。

 

「覚悟せい!」

 

 そしてダンガインはその勢いのまま大剣でケインへと切り掛かった。

 

『水よ!』

 

 ケイン即座に後ろを向いて魔法を使った。

 生み出された水は真っ直ぐにダンガインの顔へと飛び、鎧の隙間から内側へと侵入する。

 

「小癪な!」

 

 間一髪というところでケインは大剣を避け、その隙を突いてダンガインに蹴りを放つ。

 

「くっ!貴様ぁ!」

 

 甲冑で目が拭えないダンガインは思わず数歩退がる。

 

「どうした、来ないのか?」

 

 思わず後退したダンガインに向かってケインが煽りの言葉を放つ。

 

「チッ…言いよるわ」

 

 視界が元に戻ってきたのだろう、ダンガインが再び大剣を構える。

 

「優秀な騎士だ、ここで仕留めさせてもらうぞ騎士ケイン」

 

 

(……そろそろだな)

 

 

 ダンガインの鎧が赤色に光る。

 その光は先程よりも明らかに強く、次の一撃は防げないであろうことを理解させられる。

 

「……俺は騎士だ」

 

「なんだ急に。わかっとるわそんなこと」

 

「わからないか、騎士ってのは魔女から祝福を授かって、魔女を守り、一緒に戦うんだよ」

 

「……」

 

「お前はわざわざ一騎討ちしに来たがな、こっちは2人で戦ってんだ」

 

『……荊よ』

 

 ダンガインが耐えかねた様に魔法を使う。

 青い鎧の騎士の足首に荊の棘が突き刺さる。

 

 赤い鎧の騎士が赤々と輝く大剣を振り上げ、駆け出しーーー

 

 

「あ」

 

 

 何処からか短く音が発せられた。

 

 太陽の光が遮られ、大地に差していた日が失われる。

 辺りが夜の様に暗くなり、その場にいたほとんどの人が思わず空を見上げた。

 そこにあったのは、今まさに重力によって地面に吸い寄せられている、()()()()だった。

 

『いば』

 

 落下した水は兵士たちを薙ぎ払い、その中心にいた魔女を、大剣を振り上げた騎士を平等に押し流していった。

 

 兵士たちは抵抗すらできず、騎士は木から木へとあちこちに叩きつけられ、魔女は詠唱する間もなく何処かへと流されていってしまった。

 

 

「……壮観だな」

 

 

 流された彼らと共にいたはずの青い鎧の騎士は、水が完全に引き、敵の撤退する様子をただ見つめていた。

 

 

 

 

 ワルギス帝国所属「荊の魔女」による3度目の侵攻。

 「水の魔女」がこれを撃退し、「荊の魔女」とその騎士は撤退。「水の魔女」が追撃を行い、帝国の戦線を大きく後退させた。




初めての小説。
拙い所や、読んでて「?」となる所があるかもしれませんが、温かい目で見守ってください。

続くかは不明
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